シャーマン、古代民族、裏鬼道…映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が秘めるオカルト的血脈を観た!
妖怪・因習・戦後……話題の映画「ゲゲゲの謎」をムー的な視点で紹介。それは、血の物語であった。
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終わらない復讐を繰り返す。そこは精神の牢獄か、浄化のプロセスか?
おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ。今日の花はアイリス。花言葉は「希望」です——。
皆さんは「ループもの」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。少々古いが、この日本において筒井康隆の小説『時をかける少女』は外せないだろうし、同じく後世に多大な影響を与えたという点で押井守が監督したアニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』あたりも鉄板だ。近年では、諫山創の世界的ヒット漫画『進撃の巨人』で、最終盤にループ構造が示唆されていたのも記憶に新しい。
今やエンタメ作品の世界で「ループもの」はすでにジャンルのひとつとして確立されており、その構造だけで目を引くものではなくなっている。そこにはもうひとつ何か「別の味」が求められるわけだが……。
ここで「そういう感じのループで来たか」と思わせる映画が誕生した。荒木伸二監督・脚本のサスペンスミステリー「ペナルティループ」である。
恋人を殺された主人公が、犯人への復讐を決意し、仇討ちの1日を何度も繰り返すループものだ。そう、とにかく何度も仇討ちする。その中で、殺人犯と被害者遺族(主人公)の間に奇妙な人間関係が生まれる様子を描いている。
日本でも凶悪事件が起こるたびに、加害者への罰則について議論が巻き起こるわけだが、本作ではそのテーマをループものの器に落とし込み、被害者遺族の表情の変化を描くというのがユニークだ。
というわけで、まずはあらすじをご覧いただこう。
<あらすじ>
主人公・岩森淳が朝6時に目覚めると、時計からいつもの声が聞こえてくる。岩森は、ずっと6月6日を繰り返していた——。
恋人の唯を素性不明の男・溝口に殺された岩森淳は、大きな喪失感を抱えながら、自らの手で犯人に復讐することを決意する。綿密な計画を立て、完璧に溝口殺しを実行したはずだったが、翌朝岩森が目覚めると、周囲の様子は昨日のまま。確かに殺したはずの溝口も生きている。そう、時間が昨日に戻っているのだ。そしてまた溝口を殺しに行かなくてはならない。
困惑しながらも復讐を繰り返す岩森だが、何度殺しても翌朝は来ず、その度に恋人の敵を討ち続けることになる。昨日殺した敵を、今日もまた殺す。自らが選んだはずの復讐のループは否応なく繰り返される。何度でも復讐できるプログラム=「ペナルティループ」の果てには何があるのか?
……というあらすじなのだが、ぶっちゃけ本作、ホラー映画というよりは「今どきのループ邦画」という趣で面白い作品である。……が、実はちょいちょい『新約聖書』にまつわるモチーフも見え隠れするのがムー民的には美味しい。今回はネタバレしない程度に、そのあたりを少し掘り下げてみたい。
ムー民的に本作で最も印象に残るのは、主人公・岩森が何度も繰り返す復讐の日が6月6日なことである。この数字が出てきた時点で「おっ」と反応する人は多いだろう。そう、この日付は「悪魔の日」「恐怖の日」だ。
元々は『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」の記述により、キリスト教圏で「666」が「獣の数字」「悪魔の数字」とされたことにちなむ。日本では一般的に、1976年公開の映画「オーメン」(The Omen)に出てくるダミアンの誕生日として定着。ダミアンは6月6日午前6時に誕生し、頭に「666」のアザを持つ悪魔の子であり、様々な災厄を引き起こす。
なお、作中で特にこの日付が悪魔の日だという言及があるわけではない。しかし、復讐で人を殺すために「悪魔の日をループする」というのは、なかなか深い示唆に富んでいるように思える。殺人犯だけではなく、被害者遺族である復讐者も一緒にそのループの中にいることで、「罪を償う」とはどういうことか? と改めて考えさせられるものがある。
もうひとつ、本作で象徴的なのがアイリスである。アイリスはアヤメ化の植物で、アヤメやカキツバタ、花菖蒲などさまざまな種類がある。
本作では、主人公・岩森が朝起きると、ラジオ付きの時計から「おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ。今日の花はアイリス。花言葉は『希望』です」という声が聞こえてくる。
この声によって、また悪魔の日を繰り返しているのを認識すると同時に、毎回同じアイリスの花言葉が耳に飛び込んでくるのだ。アイリスは6月6日の誕生花である。上述の通り、その花言葉は「希望」。恋人の仇討ちをする日の花言葉として、怖いくらい前向きだ。
しかも作中でも言及されるが、アイリスの中でも黄色いアイリスだけは、花言葉が「復讐」という意味になる。「復讐」と「希望」が混在する精神状態は、犯罪被害者遺族の心中を表すモチーフとして非常に象徴的だ。
ところで、アイリスの花言葉は、なぜ色が黄色になるといきなり怖い意味になるのかご存知だろうか? 実はこれも、一説によると『新約聖書』に由来があるようだ。キリストを売った裏切り者=イスカリオテのユダが身につけていた衣が黄色だったことから、キリスト教圏で黄色が忌み嫌われた歴史にルーツが見られるという。
有名なレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」など、ユダとされる人物が黄色い衣を身に付けて描かれている宗教絵画はいくつかあるので、目にする機会があったらチェックしてみると良い。また負の歴史の側面では、ナチス政権下でユダヤ人に黄色い星の腕章を付けさせて目印とするなど、主に西欧の社会差別のシーンでも使用されていた。
こういった黄色にちなむ歴史的背景と、現在の花言葉の文化が西欧にルーツが見られることから、黄色の花はネガティブな意味づけをされる傾向があるのだ。
さて本作は、そのテーマだけを取り出すと「仇討ち」「ループもの」と古典的だ。しかし、殺人犯と被害者遺族の人間関係を、どこかユルいコミカルなテイストで描いているのが、非常に今どきらしくて良い。ストーリーが進むにつれて、既存のループものと異なった展開になってきて、「これどうやって終わるんだろう?」とオチが見えなくなる面白さもある。
俳優陣はメインから脇まで魅力のある個性派が揃うが、特に視聴者を唸らせてくれるのは、主人公・岩森役の若葉竜也と、本作で俳優復帰した伊勢谷友介の2人。復讐者と死刑囚という関係で生まれる奇妙な人間関係を、見事に演じきっている。
というわけで、これまでのループものとは一味違う展開を楽しめる「ペナルティループ」は2024年3月22日(金)から全国で公開だ。ぜひ映画館で、令和の仇討ちループに巻き込まれてみてはいかがだろうか?
<作品情報>
映画「ペナルティループ」
脚本・監督:荒木伸二
出演:若葉竜也、伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン
製作:木下グループ
制作・配給:キノフィルムズ
©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
公式サイト:https://penalty-loop.jp
杉浦みな子
オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
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