「今、幸せ?」と観客に問う世界観が怖い! 予測不能のJホラー映画「みなに幸あれ」監督&総合プロヂューサー・インタビュー
第1回日本ホラー映画大賞を受賞した期待作について監督インタビュー!
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「未体験ゾーンの映画たち2024」で上映される新進気鋭の悪夢映画!
人はなぜ睡眠中に夢を見るのか? 古今東西、夢は自然科学から超自然界に至るまで、多分野で研究の対象となってきた。学問としてフロイトやユングの心理学的アプローチに始まり、オカルト界隈でも預言者が未来を見る方法の一つとして「予知夢」がよく出てくる。
いずれにせよ、夢のメカニズムは未だ全容が解明されておらず、時として不可思議で不条理なビジョンが現れるその世界は、現在も多くの人々の興味を引いている。
今回はそんな夢の中でも、「悪夢」がテーマの静かにゾッとする映画をご紹介しよう。カナダ発のテクノ&サイコホラー「COME TRUE / カム・トゥルー 戦慄の催眠実験」(以下、COME TRUE)だ。
様々な理由から日本公開が見送られてしまう傑作・怪作映画をスクリーン上映する映画祭「未体験ゾーンの映画たち2024」(https://ttcg.jp/topics/1051500/)にて、ヒューマントラストシネマ渋谷をメインに2024年2月9日(金)から上映される。
英ガーディアン誌が「アングラ美学と誇大妄想に満ちた新たな《テクノ・スリラー》の誕生」と評した本作の魅力とは…? まずは以下より公式のあらすじをご覧いただこう。
<あらすじ>
高校生サラは関係が険悪な母親と距離を置くため、友人の家を転々とし時には野宿もする生活を送っていた。しかし彼女は、繰り返し見る悪夢で不眠症に陥っていた。 彼女は安眠を求めて、とある大学の「睡眠」に関する研究の臨床試験に参加する。しかし被験者たちの身には次々と奇妙な現象が起こり、彼女の悪夢への不安と恐怖はより悪化していく。実験の目的を知るべく、サラは自身の跡を尾ける研究員リフに接触する…。
主人公のサラは、どこか影のある表情と十代のあどけなさが共存する18歳の高校生。白くて枝のように細い手足が印象的で、家族とうまく行かない生活を送る思春期らしい頼りなさがスクリーンから醸し出されている。
彼女は友人と待ち合わせるカフェの掲示板で「睡眠実験に参加しませんか? 寝るだけで時給12ドル」と書かれたチラシを見つけ、とある大学施設で行われている睡眠の臨床研究に参加する。初日の被験者はサラを含む女性2名と男性4名の、合計6名。しかし、2日目から早くもサラではない方の女性被験者がいなくなり、現場には不穏な空気が流れる。
サラは、以前から繰り返し見ていた悪夢を、臨床研究中も引き続き見る。その悪夢には、最後に必ず「謎の男」が出てくるのだ。男の姿は真っ黒な影となっており、輪郭しかわからないが、非常に不気味で不安な気持ちにさせる。そして、夢を見るたびに少しずつ男の影は形を変えていくのだった…。
ここで思い出されるのが、人間の夢の中に現れる下級の悪魔「夢魔」(むま)である。基本的には夢の中に現れて、その夢を見ている人を苦しめる存在で、そういう夢魔めいたものについては世界各地に様々な伝承があるようだ。
一般的に有名な夢魔は、キリスト教などの神話にベースがある男性型夢魔「インキュバス」と、女性型夢魔「サキュバス」であろう。一説によると、この悪魔たちは生殖のために人間の夢を使う。インキュバスは女性を、サキュバスは男性を対象に、夢の中から人間の肉体にコネクトし、誘惑することで生殖機能を支配するのだとか。伝承によってインキュバスとサキュバスを同一視するものなど、細かくは諸説あるが、最終的には人間の女性に悪魔を妊娠・出産させることで繁殖すると言われる。
本作の主人公たちが見る悪夢に出てくる謎の男が、この夢魔=インキュバスの暗喩なのだとしたら…。主人公らは悪夢を見ることで、悪魔たちの子孫繁栄に利用されているのか? 宗教的に、悪魔と性行為を繰り返すことは死にも繋がるとされる。そんな視点で鑑賞すると、被験者たちの身に起こる異変の理由も何となく察するし、意味深なシーンが断然面白くなってくるのでオススメだ。
ちなみにホラー映画の世界で夢と言えば、1984年のヒット作「エルム街の悪夢」が有名。「COME TRUE」も夢と現実の境が曖昧になる部分があり、悪夢を見ている就寝者の体が、夢に影響されて不穏に動くような描写も継承している。
しかし「エルム街〜」のようなスラッシャー要素は「COME TRUE」には全くなく、主に悪夢のビジュアルでジワジワと恐怖を煽るサイコホラーになっている。
そう、本作の魅力はこの悪夢のビジュアルなのだ。映像はモノクロで、夢の中では一切のセリフがなく、ただ主人公の見ている景色の動きを視聴者も共有して見るだけである。しかしその景色がモノクロながら幾何学的で美しく、それでいて不条理感と虚無感があるのだ。とにかく非常にアート的で見応えがある。
かつてその作品を「3回見たら死ぬ」とまで噂されたポーランドの画家、ベクシンスキーの絵を彷彿とさせるような、美しく悪趣味な世界と言えば良いだろうか。筆者的には、スイスの彫刻家、ジャコメッティの立体作品を見た時のような不思議な虚無感も覚えた。
「エルム街〜」の恐怖とは全く異なる、静かで不可思議で精神に響くタイプの悪夢。そう考えると、時代に合わせて悪夢のビジュアルが変わるのも興味深い。
そのほかにも、本作には様々なテクノ&サイコな既存モチーフが登場する。主人公が本屋に入って手に取るのは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」でお馴染みのSF作家、フィリップ・K・ディックの書物。ディック自身が神秘体験をしたことで知られ、その名前が出るだけでテクノ&サイコな世界観に箔が付く。また、睡眠実験の被験者たちが身に着けるヘッドギアや実験服、それを見守る研究者たちが使用するブラウン管タイプの旧式モニターなど、グッと来るビジュアルがいっぱいだ。これらのキーワードに惹かれる方は、ぜひ映画館へ悪夢を見に行ってほしい。
作品情報
『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』
公式HP https://www.cine-mago.com/cometrue
公式X(旧Twitter) @ComeTruejpn
© 2021 IFC FILMS. ALL RIGHTS RESEVED/Cinemago
2024年2月9日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて上映
杉浦みな子
オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
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