超能力実験から開運へ!? 昭和「ピラミッドパワー」通販の活況ぶり/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録

文・資料=初見健一

    70年代「ピラミッドパワー」ブームの後編。真剣な超能力、超常現象実験のピラミッドが、いつしか札束風呂のようなノリの開運グッズに……!?

    70年代っ子たちが一度は試みた「実証実験」

     前回のコラムでも書いたとおり、オカルト系のネタにはなんでも即座に飛びついた小学生時代の僕は、どうも「ピラミッドパワー」にだけはいまひとつ夢中になれなかった。食べ物が腐らないとか、カミソリの切れ味がよくなるとか、オカルトの話題としては妙に所帯じみていて地味……という印象を持ったからというのもあるのだが、それ以上にブーム初期の段階で自己流の「実証実験」を試み、その結果に一気にシラケてしまった……ということも大きかったのだ。
     おそらく雑誌などに「ピラミッドパワー」の話題が載りはじめてすぐのころだったと思う。さっそく僕はクラスの友達と方眼紙でピラミッドの正確なスケールモデルを作り(なにかの雑誌にピラミッド模型の展開図が掲載されていたのだ)、給食で残したパンの切れはしで実験をした。
     次の週、ごくごく当然のようにパンは青カビだらけになっていた。ほかにもレタスの切れはしで試みた子や、ミカンでやった子もいたが、どれも「普通に腐ってるじゃん!」という結果で、さらに担任教師には「変なことはやめなさい!」と怒られて「ピラミッド遊び」は全面的に禁止されてしまった。それっきり僕らの教室における「ピラミッドパワー」ブームは完全に終了してしまったのだ。

    「ムー」2015年5月号「ピラミッドパワー活用法」より。秋山眞人氏が「ピラミッドパワー」実験方法を詳細に語っている記事だが、これによると「正確な方角に合わせてピラミッドを設置する」「新月の日に実験を開始する」などのほか、「前向きな気持で楽しく取り組む」などが成功のポイントなのだそうだ。僕らがやっていたようないい加減な実験では、やはり良好な結果は得られるはずもないのである。

     「ピラミッドパワー」のネタとしての魅力は、誰もが容易にその実在性や効果を検証できるところにある。当時、雑誌などには「ピラミッドパワー」実験の方法が盛んに掲載され、80年代の「ムー」同様、厚紙で組み立てる「実験用ピラミッド模型」を付録につけた入門書なども多かった。当時の小中学生であれば、一度は実験を試みたことがある人も多いと思う。
     なんらかの形で子どもたちが主体的に取り組むことができる要素があることは、オカルトネタとしては非常に大きな魅力なのだが(だからこそ「超能力」は大ブームになった)、一方で大きな弱点にもなる。取り組んでみてまったく好ましい結果が出なければ、子どもたちはすぐに「なぁーんだ、つまんねーの!」となってしまうのである。
    「超能力」関連の実験は、何十回か試みると一回くらいは「あれっ?」という結果が出た……ような気になれるだけの余地があったが(壊れていた時計が偶然に動いたり、たまたまESPカードを連続で言い当てることができたり)、少なくとも当時の僕の周囲では、「ピラミッドパワー」実験はどれも「なぁーんだ」という結果で終わったのだった。

    「ムー」2013年11月号「科学技術庁も認めた超能力研究団体『国際総合研究機構IRI』」より。この記事によると、ピラミッド型容器に入れたキュウリを前に瞑想者が一定時間瞑想をすると、キュウリの生体細胞が変化する……ということが「実証された」らしい。

    昭和の雑誌を飾った「ピラミッドパワー」通販広告たち

     誰もが簡単に実験できる「ピラミッドパワー」のもうひとつの特徴は、オカルト系の事象としては異例なほどに多種多様な関連グッズがつくられ、雑誌の通信販売などで売られまくったことだろう。一時期は雑誌の通販広告ページに「ピラミッドパワー」グッズのコーナーができてしまうほどに活況を呈した。これも「誰もが簡単に実験できる」という要素に関連しているのだろうが、要するに商品化しやすいネタだったのだと思う。シンプルな実験用ピラミッド型容器から、なにやら怪しい付加価値をつけた高価な実験セット、そもそものコンセプトから離れ、置くだけで運気がアップするというピラミッド型オブジェ、さらにはよくわからない開運グッズ的なものに、むりやりピラミッドのイラストを付け加えたような在庫二次利用商品まで、「ちょっと試してみたい」という読者の好奇心を刺激する(しないモノもたくさんあったけど)商品が続々登場したのだ。
     そんな70~80年代の通販グッズのなかから、代表的なモノ、妙に記憶に残っている珍奇なモノなどを紹介してみたい。

    実験用ピラミッド
    1977年のUFO専門誌より。内部にいろいろなものを入れて実験ができる24cm四方のアクリル製ピラミッド。もっとも基本的な「ピラミッドパワーグッズ」だ。「生花が長持ちする」「ミルクや果物の腐敗が遅くなる」ほか、「魚や虫などの小動物がミイラ化します」と解説でモロに断言されているのがスゴイ。定価7500円が特価6000円(高い!)。

    謎のピラミッドオブジェ
    70年代の「王様のアイディア」商品カタログより。各地にあったアイデアグッズ専門店「王様のアイディア」でやたらと見かけた一品。商品名は単に「ピラミッドパワー」で、「不思議な力をあなたの手に!」みたいな曖昧な解説があるだけで、いったいどういう機能を持つのかがさっぱりわからない謎の商品だった。「王様のアイディア」は倒産してしまい、謎は依然として謎のままである。買っときゃよかったなぁ。

    「ピラミッドパワー」グッズ大集合
    1977年のUFO専門誌より。ズラリと取り揃えられた各種グッズ。ボードの上にミニピラミッドを大量に配置した「ピラミッドエネルギージェネレーター」(この上にものを置くとパワーが充填されるらしい)から、ピラミッド型ダウジング用振り子、なんだかよくわらない「パワーダイアル」(願望成就用ピラミッドらしい)まで、ニーズに合わせて多彩な商品を用意。

    ピラミッドテント
    上記広告より抜粋。「ピラミッドパワー」にさほど興味がなかった僕も、この商品だけは非常に気になっていた。実際に人が入れる大きさの瞑想用ピラミッド型テントだ。自らの体に「ピラミッドパワー」を浴びるとどうなるのか?……というのは当時の子どもたちの誰もが興味を持っていたと思う。しかし、価格は2万超え。とてもじゃないが小学生には手が出なかった。それにしても大人がコレに入ってる図はかなりマヌケである。

    ヒランヤ
    1987年のオカルト誌より。「ヒランヤ」というと今ではダイワコーポレーションの「ヒランヤペンダント」が有名だが、これは先んじて登場したヒランヤ研究所のプレート。「ヒランヤ」は「ピラミッドパワー」ブームの流れから登場し、その効果もほぼ同じ(当時は「ピラミッドパワーを超えた!」といった触れ込みで売られた)。六芒星の図形がカミソリの切れ味をよくするとか、精神や環境によい波動を放出するといったことが話題になった。大ブームのきっかけは三宅裕司のラジオ番組「ヤングパラダイス」だったといわれている。

    ピラミッドパワーベルト
    1987年のオカルト誌より。見るからに怪しい広告だが、200個ものミニピラミッドを取り付けたハチマキ(?)を装着して強烈なパワーを身体に充填する、という発想の商品らしい。具体的な効果はなにひとつ書かれていないが、とにかく「パワー抜群」なのだそうだ。「ピラミッド研究家」(?)である道端英俊氏が「入魂!」した商品とあるが、「ピラミッドパワー」が日本で再解釈されると「入魂!」みたいな精神論と融合してしまうのがおもしろい。

    ピラミッドポッド
    1987年のオカルト誌より。もはや「ふざけてんのか?」と思ってしまう珍奇な商品。ピラミッド型の急須である。お茶やコーヒーがおいしくなるうえに、若返り効果もあるらしい。考案した人の顔が見たい。

    ピラミッドパワージェネレーター付きESPペンダント
    1987年のオカルト誌より。ゲスさ全開の超パワフルな広告である。裸の男女の写真のインパクトが絶大(その下に「エジプト大使館提供」とシャイsンクジレットらしきものもあるが、いろいろな問題を招きそうなレイアウトである)。長々と書かれた本文を読んでも商品の実体はよくわからないが、ともかくペンダントとピラミッド型のオブジェのセット販売らしい。「ピラミッドパワー」を吸収したペンダントで超能力を身に着け、運気も上昇させ、恋愛、結婚、金運、受験などに効果絶大!……とのことで、ようするに「万能」ということのようだ。ユーザーの声によれば「事故から救われた」「あこがれの彼とデート」「いじめがなくなった」などの効果があるそうだ。

    (2020年3月12日記事を再編集)

    初見健一

    昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。

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