「ピラミッドパワー」の正体と利用方法とは? 巨大発電装置が古代エジプトの生活を支えていた!/久野友萬
「ピラミッドパワー」をご存じだろうか。ピラミッドの中にしおれた花を入れると復活し、切れないカミソリは切れるようになり、牛乳はいつまでも腐らない――。そんな謎のパワーをピラミッドパワーと呼ぶが、なんとピ
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スプーン曲げに匹敵する“体験できそうな超能力”、「ピラミッドパワー」を回顧する!
今回の本コラムでは、昭和オカルトのアレコレのなかでもかなりベタな大ネタのひとつ、我々世代の間に一時的な熱狂を巻き起こした「ピラミッドパワー」について回顧してみたいと思う。
……とはいうものの、当時の僕個人としては「ピラミッドパワー」のブームには比較的冷淡で、「なんだかつまんないネタだなぁ」と思いながらシラケ気味に眺めていた記憶がある。後ほどブームのプロセスを時系列で回顧してみるが、「ピラミッドパワー」の流行は、盛りあがりまくった70年代のオカルトブームの収束から数年後、かなり遅れてからふいにやってきた印象がある。海外のネタに敏感だったマニアの間ではともかく、日本の一般の子ども文化においては、むしろ80年代に入るころに本格的にブレイクしたトピックだった。
ネタの内容的にも、70年代オカルトのアレコレが持っていた見世物的な娯楽性やダイナミズムに乏しく、子どもたちが「うわ~っ!」と諸手を挙げて興奮できる要素が少ない。なにやら地味で妙に理屈っぽく、いわゆる疑似科学的な仮説のひとつという感じで、そのあたりもブッ飛びまくっていた70年代オカルトブーム収束後、なんとなく「小粒」なネタが多くなっていった「昭和こどもオカルト」シーンの「80年代感」を象徴していたような気もする。
「ピラミッドパワー」を最初に「発見」したのは、フランスで金物商を営んでいたアントワーヌ・ボビーという人物だとされている。彼が1930年に行った発表が世界初の「ピラミッドパワー」理論だというのが定説だが、それより一年前、シンシナティ州立大学物理学教授であるサミュエル・ジェイムズ・マッキントッシュ・アレンという人物によってすでに指摘されていた、という説もあるらしい(『ムー』1989年12月号)。
その異説は置くとして、現在では「ピラミッドパワー」の発見者として名を残すアントワーヌ・ボビーという人は、金物屋さんでありながらダウジング研究の第一人者でもあり、『ペンデュラム・ダウジング』などの著作も残している。もともとガチにオカルト体質の人物だったようだ。
そんな彼がクフ王のピラミッドを見学に訪れたとき、ピラミッド内部で迷い猫の死骸を発見した。猫の死骸は完全に脱水状態で、つまりミイラ化していたという。これを疑問に思った彼は自分で実験を繰り返し、「ピラミッド(の形をした容器)の内部では死体は腐らずにミイラ化する」と発表した。つまり、ピラミッドの形状には有機物の腐敗を防ぐ(遅らせる)不思議なパワーが秘められている、と主張したわけだ。ただ、この発表の経緯についても異説があり、そもそもアントワーヌ・ボビーはエジプトを訪れたことはない、という指摘もあるそうだ(『ムー』2015年5月号)。
ボビーの「ピラミッドパワー」理論に多大な興味を抱いたのが、チェコスロバキアのエンジニア、カレル・ドレバルという人物。彼も自作のピラミッドの模型で様々な実験を繰り返した。
ボビーが提唱した「有機物が腐らない」という効果は確かに実証できたそうで、さらに彼はオリジナルの実験を思いつく。なぜか「カミソリの刃を入れたらどうなるか?」ということが気になったらしい(妙なことを気にする人である)。当初は「ピラミッド内のエネルギーのせいで刃こぼれが起こるのではないか?」と考えていたそうだが、やってみると結果は正反対。使い古しのカミソリが新品同様の切れ味になったのだという。毎日ヒゲ剃りをしてはカミソリをピラミッドのなかに保管し……という作業を繰り返し試してみたところ、同じカミソリをなんと200回も使うことができたそうだ。
カミソリの切れ味が悪くなるのは、刃の結晶構造が崩れることによる。この結晶構造を再生するパワーがピラミッドに宿っている、と彼は考えた。そこで1/1000スケールのクフ王のピラミッドを考案し、1959年に「ケオプス(クフ王)ピラミッド型カミソリ刃再生装置」として正式な特許の取得に成功している。
この話は、僕ら昭和の子どもたちの間で「ピラミッドパワー」が話題になりはじめたころ、さまざまなメディアで盛んに語られた。確かに「すでに特許を取得している!」という事実は、この不思議なパワーの実在性を強調する逸話としては凄まじい説得力だ。確かに僕も「へぇ、すごいなぁ」とは思った。しかし、同時に僕が「ピラミッドパワー」に対して「なんかつまんないな」という印象を抱いたのは、このエピソードによるところも大きい。
「カミソリの切れ味がよくなるっ!」と言われても、子どもとしてはあんまりピンとこなかったのである。どうも「うわぁ、すげえーっ!」と心底興奮できる感じがない。「カミソリの刃くらい、ケチケチしないで買い替えればいいじゃないか」と思ってしまう。同じく盛んに取り沙汰された「食べものが腐りにくい」という効果にしても、不思議なパワーの作用としてはなんだか地味で細かすぎる。ネタの方向性が主婦向けというか、「家計が助かる」みたいな所帯じみたレベルで、オカルトとしての迫力や凄みがないのだ。不思議というよりは単に「便利」なだけのパワーという印象で、少しもゾクゾクできなかった。
すでに1930年に「発見」されていた「ピラミッドパワー」だが、欧米でブームになったのは1970年ごろだといわれている。きっかけとなったのは、70年にベストセラーとなった『Psychic Discoveries Behind the Iron Curtain』(鉄のカーテンの向こう側の霊的発見)という本。シーラ・オストランダーとリーン・シュローダーという女性ジャーナリストのコンビによる著作で、ソビエトや東欧のオカルト科学研究について一般向けに解説した本だ。『ソ連・東欧の超科学』(たま出版)として翻訳も出ているが、刊行は1990年になってから。欧米での大ブームをつくった本書は、日本での「ピラミッドパワー」ブームにはまったく影響を与えていない。
では、日本でのブームはなにがきっかけで起こったのかというと……これを明確に特定して断言するのは難しいが、少なくとも一般的な子ども・若者層の間に「ピラミッドパワー」を知らしめたのは、やはりまたしても中岡俊哉御大だと思う(ほんとにこの人の仕掛人的才覚はオソロシイ……)。
僕の知る限り、一冊まるごと「ピラミッドパワー」に特化した一般書籍が国内で初めて刊行されたのは、1976年になってから(それ以前にも雑誌などでは触れられていたと思うが)。勁文社の新書シリーズ「エコーブックス」から出た『謎のピラミッド・パワー 現代の驚異エネルギー』(ビル・シュール、エドペティ・著、井上篤夫・訳)が国内最初の「ピラミッドパワー」本だろう。が、失礼ながら「エコーブックス」からはバカ売れしたようなタイトルは出ていないはずなので(たぶん)、さして大きな話題にはならなかったと思う。
ドカンと売れたのはその2年後、78年に刊行された中岡俊哉大先生の『ピラミッド・パワー』だ。中岡氏の過去の著作だけでなく、オカルト本のベストセラーを多数生んできた「サラ・ブックス」(二見書房)からの刊行である。また、この年は中岡氏の本の2か月前に、KKベストセラーズの「ワニの本」シリーズからも『ピラミッド・パワーを発見した』(マックス・トス、グレッグ・ニールセン著、岩倉明・訳)が出ている。こちらも表紙に見覚えがあるので、翻訳本ながらもそこそこは売れたのだろう。どうやらこの1978年あたりが、日本における「ピラミッドパワー」ブームの元年らしい。
ところで、「ピラミッドパワー」のブームがほかのオカルトネタの流行に比べて特異だったのは、とにかく大量の関連グッズが市場にあふれたことである。これら怪しくも魅惑的な「ピラミッドパワーグッズ」の数々については、次回の本コラムで回顧してみたい。
(2020年2月13日記事を再編集)
初見健一
昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。
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