「今、幸せ?」と観客に問う世界観が怖い! 予測不能のJホラー映画「みなに幸あれ」監督&総合プロヂューサー・インタビュー

文=山口直樹

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    第1回日本ホラー映画大賞を受賞した期待作について監督インタビュー!

    第1回日本ホラー映画大賞を受賞!

     2021年、ジャパニーズ・ホラーに風穴を開け、新たな映像作家を発掘・支援する一般公募フィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」(主催:KADOKAWA)が開催された。この第1回大賞に選ばれたのは、CMやMVを撮っている下津優太監督の短編『みなに幸あれ』。大賞受賞者は商業監督デビューが約束されたが、このほど下津監督が選考委員長である清水崇監督(『呪怨』『犬鳴村』など)の総合プロデュースで受賞作を長編化した『みなに幸あれ』が完成した。

     1月19日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される『みなに幸あれ』は、古川琴音が演じる都会の看護学校に通うヒロインが、田舎の祖父母の家を訪ねるところから始まる。久しぶりの再会を喜ぶものの、祖父母の様子はどこかおかしい。さらに奇妙な物音をたびたび聞いたヒロインは、この家には「何か」がいると思い、調べはじめる……。
    “幸せ”をキーワードに、不気味な雰囲気の中、しだいに浮かび上がってくる怪異の真相と顛末に戦慄する作品で、新たな才能の誕生を強く印象づける。

    次々と恐ろしい事実を知り、精神的に追い詰められていくヒロインを、古川琴音が見事に体現。その心情をリアルに伝える表情の変化に息を呑む。©2023「みなに幸あれ」製作委員会

    下津優太監督&清水崇監督にインタビュー

     下津優太監督と清水崇監督に、これまでにないテイストのホラー映画が生まれた経緯と、おもしろさの秘密をうかがった。

     まず、下津監督は、この奇妙な物語の発想をある都市伝説から得たという。
    「“地球上感情保存の法則”というもので、世界のどこでも、誰かの不幸の上に誰かの幸せは成り立っているという。それをモチーフにして応募作の短編を撮り、そこに肉付けをしていって長編にしました」

     その仕上がりを、短編を大いに気に入った清水監督は高く評価している。
    「モンスターやゴーストものとは違う世界観の怖さで、まずそこが新しい。下津監督が言う地球上感情保存の法則のような発想や思考は昔からあるが、それを具体的に映像作品に落とし込んだものは、これまでなかった。それをここまでがっちり掘り下げられたのはすごいと思う」

    ヒロインは幼なじみの青年(松大航也)と奇妙な老いた男性を助ける。©2023「みなに幸あれ」製作委員会

     その斬新な恐怖は『みなに幸あれ』というタイトルに集約される。下津監督は言う。
    「タイトルは最後に浮かびました。ちょっと皮肉さもあり、つかみもあるかなと思い、気に入っています。物語は、田舎の村で展開します。でも、実際は、この村に限らず、世界中でひそやかに起きていることをヒロインの視点で見ていくという比喩的な物語ですから」

     清水監督がつづける。
    「映画の初め、ヒロインが田舎に出掛ける際に都会のシーンが伏線としてあり、現実からの地続き感が徐々に狂っていくはず。このタイトルから、内容を自分なりに想像して見た人たちが、まさかの皮肉な世界観に衝撃を受け、鑑賞後も引きずると思うんですよね。それは、言葉や文化、生活習慣が違っても理解/共感可能で、世界中で楽しんでもらえる作品だと思います」

    ヒロインの両親も、体調が戻った幼い弟を連れて2日後に祖父母の家にやって来た。しかし、祖父母と同様、両親の様子はどこか変だった。©2023「みなに幸あれ」製作委員会

     タイトルと並び、しばしば祖母らが口にする「今、幸せ?」という問いかけも、どこか不気味で呪いの言葉のように響いてくる。下津監督に狙いを聞いた。
    「ふつうの言葉が怖く聞こえたり、ふつうの状態が怖く見えることこそ、ホラー表現のベストではないかと思っているんです。じつはあのセリフ、4回出てくるんですね。そして、だんだん意味が変わっていくので、そのへんも楽しんでいただければと思います」

     さて、突然立ち尽くしたり、ブタの鳴き真似をしたり、祖父母らがときおり見せる異様なふるまいが意味深だが、下津監督はその意味を劇中で何も説明しない。
    「もちろん、僕なりの設定はあるのですが、描いていません。見た方にあれこれ想像していただければいいなと思っています」

     清水監督も同意見だ。
    「お客さんが、見ているうちに、なんとなく意味合いを感じ取っていくのも怖さの仕掛けのひとつだと思う。下津監督があえて秘めたニュアンスの描写が、見ている人のイマジネーションに訴えかけてくるから怖いんじゃないかな」

     じつは、脚本の段階で清水監督は、そうした描写にたびたび意見をしたという。
    「下津監督に『これ、お客さんにわかるかな、流れとして伝わるかな』と何度も指摘したけど、自信があるところでは『大丈夫です』と突っぱねられましたね。下津監督の独特のセンスを削り過ぎたら意味がないので、後は委ねるといった感じでした。できあがった作品を見て、『よくぞやったな』と思いましたよ。意味を説明し、わからせるのでなく、感じ取ってもらえるかと、勝負をかけている部分がいくつもあったのでよかった。僕はホラーに限らず、映画を鑑賞後、友人たちと感想を語り合ったとしても、そのまま帰宅したとしても、日常に戻ってひとりになったときに甦ってくるものがある作品こそ心に残ると思う。『みなに幸あれ』は、その域に達した作品になっていると思うので、多くの方に見ていただき、みんなに幸せになってもらいたいですね(笑)」

    祖父母と両親は、ヒロインが出ていった家で奇妙な儀式のようなことを始める。©2023「みなに幸あれ」製作委員会
    下津優太監督(右)と清水崇監督(左)。

    下津優太監督 プロフィール
    1990年福岡県北九州市出身。佐賀大学在学時よりTV-CMを監督。現在東京にて活躍中。CMやMVの企画・監督をするかたわら、短編映画を製作している。

    清水崇監督 プロフィール
    1972年群馬県前橋市出身。ブースタープロジェクト所属。〈PEEK A BOO films 代表〉大学で演劇を学び、助監督を経て1998年に監督デビュー。原案・脚本・監督の『呪怨』シリーズ(1999~2006年)は、Vシネマから劇場版を経てハリウッドリメイク。日本人監督初の全米No.1を記録。近作に『犬鳴村』(2020年)『樹海村』(21年)『牛首村』(22年)、ホラー以外に『魔女の宅急便』(14年)『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』(17年)『ホムンクルス』(21年)など。プラネタリウム『9次元からきた男』が、日本科学未来館にて上映中。2023年は『忌怪島』と『ミンナのウタ』が公開された。

    映画「みなに幸あれ」公式サイト https://movies.kadokawa.co.jp/minasachi/

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