電位治療器で健康増進する効果は血行改善程度! 電気に期待する医療の微妙な経緯を解説/久野友萬

文=久野友萬

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    催眠療法の代表例として知られる「電位治療器」。しかし、電気で病気を治療しようとする試みは太古の昔から存在した。電気と医療、その微妙な関係とは――!?

    水を振動させ、凍らせない技術

     DENBAという装置をご存じだろうか。元々は食品の冷蔵保存用の装置で、生鮮食品の鮮度が保持できるということから、食品の流通倉庫やスーパーのバックヤードで利用されている。

     オフィシャルサイトの解説にもある通り、静電気で水を振動させるというのが、DENBAの仕組みだ。
     食品を冷蔵する時、氷点下にすれば保存期間は伸びるが、細胞の中の水が凍ると氷になってサイズが大きくなる。大きくなった氷は細胞を壊してしまい、食材の味は落ちてしまうし見た目も悪い。氷点下でも氷ができなければ、食品は新鮮な状態を長く持たせることができるだろう。
     静電気で食品内部の水分を振動させると、水が氷になろうとしても振動で分子同士が結びつけない。そのため、氷はできにくく、氷点下でも氷にならない。さらに冷やすと氷になるものの、できる氷のサイズが非常に小さいため、細胞が壊れない。

     水だけではない。揚げ物を揚げるフライヤーに使うと、油の酸化をかなり抑えることができ、油が長持ちする。某大手そばチェーンが導入、油代を浮かせることができたそうだ。実際にデータも出ているので、今後も食品流通で活躍する新技術として注目だろう。

     ところで、このDENBAの静電気振動の効果が、人間にも有効なのだという。血行が良くなってよく眠れる、頭痛や肩こりが治るといった健康増進効果があるらしい。アパホテルでは『グッドスリーププラン』と銘打って、素泊まりプラス1000円でDENBAの貸し出しを行っている。

    DENBAのイメージ。一定範囲内を電場で覆い、身体に影響を与える。画像は、PRTIMES「アパホテルとDENBA社による新プラン『グッドスリーププラン』が2月1日より予約開始」(アパホテルズ&リゾーツ)より引用。

    電気と医療の微妙な関係

     電気で病気が治ると聞くと非常にいかがわしく思うのは、電位治療器が催眠商法の商材として使われることがあるからだ。商店街の隅に、人を集めて何かよくわからないものを売っている店があったら、催眠商法の会場となっている可能性が高い(偏見だが)。

     電位治療器は高電圧により周囲に電界を作り、その中に入った人体に弱い電流を流す装置だ。効果がないわけではなく、厚労省では「頭痛、肩こり、不眠症および慢性便秘の緩解」を効果として認めている。だが、この手の催眠商法では「ガンが治った人がいる」「白髪が黒くなった人がいる」「糖尿病が治った人もいる」などと謳い、高額の装置を買わせようとするのだ。

     電気を病気の治療に利用しようという試みは非常に古く、紀元前46年にローマ人の医師がシビレエイを使って、頭痛と痛風の痛み軽減を行った記録が残っている(※1)。平賀源内のエレキテルも痛みをとる治療器として利用されていた。電気の利用は電灯や通信よりも、治療器が最も早かったのだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     現在、電気刺激療法は理学療法の一環として取り入れられ、痛みを軽減させたり、筋力の低下を防ぐ、傷の回復を早めるなどの効果が確認されている。ただし、電気治療器はあくまで治療の補助で、腰痛や肩こりは痛みが減るだけなので、きちんとマッサージやトレーニングをしないと治らない。

     精神疾患の治療に電気刺激を行うこともある。昔のサスペンス映画には、捕まった人の頭に電極を付けて電流を流すシーンがよくあったが、あれは精神科電気けいれん療法という治療法を大げさに見せたもので、希死念慮の強い重度のうつ病患者に施されることはある。90パーセント以上の患者で効果があるのだそうだ。またパーキンソン病に効果があるとして、2000年から保険適用になった脳深部刺激療法や失禁を治療する仙骨神経刺激療法などがある。

     頭に微弱電流を流す経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)には、理化学研究所の神経グリア回路研究チームらが脳神経の伝達力強化を確認している(※2)。記憶力強化の効果があるらしい。

    電位治療器は疑似科学か?

     電位治療器は理学療法に使われる電気刺激装置の亜流なので、まったく効果がないわけではなく、痛みの軽減や寝つきを良くする効果はある(※3)。血圧も血糖値も下がるが、高血圧や糖尿病が治るは言い過ぎ。ましてガンや白髪には効く道理がない。催眠商法での大げさな説明は信じてはいけないが、電位治療器で寝つきは良くなるし、血行も良くなる。それ以上ではないというだけだ。

     実は、筆者の実家に電位治療器のバカでかい椅子がある。例にもれず、糖尿病になった父親のためにと大枚はたいて買ったらしい。4~5年使っていたと思うが、結局父の糖尿病は治らないまま透析が必要になり、鬼籍に入ったので、電位治療器で糖尿病が治るなんて、アホか、である。

    某社の電位治療器。今回初めて電源を入れた。

     さらにもう1台、ポータブルタイプ(画像)が手元にある。知り合いの鍼灸院から安く譲ってもらったが、そのまま放置していた。何かの折に見せびらかそうと思っていたので、今回、見せびらかす。

     スイッチを入れると、ビビビとパッドが震え出した。触ると少しピリピリする。パッドを体の下に敷いて寝ると安眠できるし、血行が良くなって頭もすっきり、肩こりや腰痛もなくなるという。
     せっかくなので、パッドを敷いてその上で寝てみたが、特に何ということもない。なんとなくじんわり温まる気はする。私はのび太と呼ばれるほど寝つきがいいので、眠れるかどうかはよくわからない。健康な人には、あまり関係がないのだろう。

     電気治療器はこれからもいろいろな商品として世に出てくるだろうが、冒頭に述べたDENBAのように、よく眠れるようになって、血行が良くなるぐらいの宣伝が適切だ。昔は電気刺激ベルトというのが売られていて、男性が元気になるとの触れ込みでバカ売れしたそうだが……くれぐれもガンが治る、糖尿病が治る、男性が元気になるという効果の喧伝にはだまされないように。

    ※1『電位治療器の歴史、原理、効能、生理反応および結党調節の可能性について』(中村達也ほか、武蔵丘短期大学紀要、2004年)
    ※2『微弱な電気刺激が脳を活性化する仕組みを解明』(プレスリリース、2016年3月22日、理化学研究所ほか)
    ※3『シェンペクス臨床試験集』(シェンペクス・インターナショナル株式会社)

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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