消えた友達と、残った穴と。伊山亮吉「瀬谷のお菓子の家」怪談/吉田悠軌
怪談師の珠玉の一話を、オカルト探偵が考察する「怪談連鎖」。今月は、夢と現実、異界と現世の境界をさまようような奇妙な思い出にまつわる怪を追う。
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怪談研究家吉田悠軌さんが、2023年の実話怪談・呪物の界隈を振り返る。
「ムー」で実話怪談を取材、考察する「怪談連鎖」を連載し、怪談研究家・オカルト探偵として活動する吉田悠軌さんに、2023年の実話怪談の界隈を振り返っていただいた。
コロナ禍を機に広がった動画配信のトレンドに乗って「怪談イベント」の実施本数、視聴者数、そして語り手が急速に拡大してきた現在、2023年も勢いは止まることはない。はたして「ブーム」の行く末を、ド真ん中の当事者はどう捉えているのか?
2023年の実話怪談界について、まず挙げるべきトピックは「女性たちの活躍」についてだろう。実話怪談はファン層において女性比率が高いものの、プレイヤーの人口比率は明らかに男性に偏っていることがかねてより問題視されていた。しかし「怪談最恐戦2023」では、深津さくらが女性として初の優勝タイトルを獲得。これと軌を一にするかのように、本年は女性プレイヤーの数が目に見えて増加した。深津と決勝戦を争ったはおまりこを初め、ここ一年以内にデビューもしくは活動を活発化した女性たちは枚挙に暇がないほど。実話怪談業界のさらなる活性化に結びつくものと期待できるはずだ。
2020年からのいわゆる「怪談ブーム」とはつまり、演者としての実話怪談プレイヤーの激増にある。前述した女性たちの参加、あるいは動画配信者など周辺ジャンルからの参戦者、そしてなにより若年層の増加がたいへん目立つ。中でも特筆に値するのは、各大学の「オカルト研究会」の興隆だ。
私自身に限れば多摩美術大学・國學院大學・日本大学芸術学部のオカ研メンバーと接しており、日本全国では他にも数を増やしているかもしれない。これらオカ研の活動は実話怪談のみに限定されるものではないが、2023年8月26日には前述の三大学合同での「百物語」イベントが催されており、実話怪談プレイヤーたちも多く参加した。実話怪談が大学生たちにも訴求力を持っていることの表れだろう。
また私・吉田個人としては’23年12月、武蔵大学や説話伝承学会などの研究会にて実話怪談についての講演を行っている。実話怪談というものは、大学における研究テーマと見なされるようになってきたのだろうか。
武蔵大学「話芸・パフォーマンスアートとしての実話怪談」
https://www.musashi.ac.jp/sougou/news/d29irm0000000h9r.html
実話怪談と呪物が結びついた“ブーム”は――アシタノホラー主催『祝祭の呪物展』の盛況に象徴されるように――2022年に興ったと見るべきだろう。2023年もまだブームが継続していたとはいえ(実際『祝祭の呪物展2』も盛況であった)、その反動が目立つ年だったともいえる。
はたして今持て囃されている「呪物」とはなんなのか、「呪物」を実話怪談とセットにして語ることの妥当性や責任はどうなっているのか。いわゆる「木札事件」をきっかけに各所からの疑義や問題視、あるいは庇護が巻き起こったのは記憶に新しい。
実話怪談は文学・映画・演劇などその他の表現ジャンルと異なり、定義や方法論などについての論争や批評すら発生していないのが現状だ。私個人としてはむしろこうした猥雑でカオスな状況は、そのジャンルにとってはたいへん“幸福”な時期だと捉えている。揺りかごの赤ん坊のようにめいめいが無責任に好き勝手できる状況は、また成長前のジャンルにとって必要な時期でもあるだろう。しかし産業規模が増大し、他業界からも怪談ブームと注目される近年、実話怪談というジャンルの揺籃期はもはや終わりを告げたのだろうか。
2023年の実話怪談の動向は、良くも悪くも2020年からの怪談ブームの区切りとして捉えられるかもしれない。プレイヤーやファンの新規参入はよりバラエティを増し、私のような古参組からすれば「こんな人たちまで実話怪談に興味を!?」と驚くばかりだ。
それは一面においては新たな創造をもたらす豊穣なる混沌なのだが、かたや様々な問題や諍いをもたらす悪しき混乱も生じさせている。これまでカオスを楽しんでいた実話怪談にも整理が、すなわち「批評」が必要になっている時期なのでは……と最近の私は愚考している。
はたして2023年という区切りポイントは、さらなる発展のための中間地点だったのか、それともブーム終焉に向かう折り返し地点だったのか。翌2024年の動向によって、実話怪談の今後がより鮮明に浮かび上がってくるだろう。
吉田悠軌
怪談・オカルト研究家。1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の現場および資料研究をライフワークとする。
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