第一番目の神にはなぜ神話がないのか? 「最初の神アメノミナカヌシ」/ムー民のためのブックガイド
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
「カムカムエヴリバディ」でも描かれたように、1970年代は「人類滅亡」はお茶の間レベルの身近な話題だった。 医者によって「オカルトという病」を宣告された男・大槻ケンヂが、その半生を、反省交じりに振り返る。まさかの連載コラム。 オーケンは、「ノストラダムスの大予言」を無事に通過した!
「賢ちゃん、人類が滅亡するわよ!」
と母がいきなり言ったのだ。
小学生の頃だ。学校から帰って「ただいま」と言うと、母が険しい血相でもってやおら人類の滅亡を息子に伝えたのだ。
「ノストラなんちゃらって人がいったのよ。予言よ。人類が滅亡するとかなんとか」
人類の存亡に関する報告にしてはいささかアバウトに過ぎるぜ母ちゃん! とは思ったが、母の表情は真剣そのものであった。
昭和48年、五島勉著『ノストラダムスの大予言―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』が発売され、大ベストセラーとなった。同書で紹介されたノストラダムスの「1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてくる~」との詩は、人類滅亡を予言する言葉だといわれ、日本中を一大パニックに陥れた。
その騒ぎたるや想像をはるかに越えたものだった。なにせ本などまるで読んだことのないわが母までが「ノストラなんちゃら」の名を口にしたほどなのだから。
そして息子の賢二はあれから49年経った今でも「恐怖の大王」の詩をフルで暗唱することができる。自分のバンドの歌詞はプロンプター(※歌詞読み用のモニター)がないと歌えないというのに! 恐れるべきトラウマ本だ。
それくらい強烈だった「ノストラダムスの大予言」。しかし、人類滅亡のお知らせからの母の一言がまた、ショッキングであったのだ。大終末をわが子に伝えた約1秒後、母はいった。
「人類が滅亡するわよ! ……おかえりなさい」
ごく普通のトーンでおかえりなさいをいった。「ただいま」「おかえり」の間に「人類滅亡」が挟まれるという、恐怖の大サンドイッチにはそりゃ驚いたもんだが、人類が滅亡しようとも、とりあえずおやつあるわよ、宿題してからね、という母の“日常立ち返り力”には圧倒された。
先日NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で「ノストラダムスの大予言」が話題となった。もういい大人の登場人物が予言を信じていて、1999年にみんな死んでしまうのだから、というようなセリフをいう。「え? 大人はそんなの信じてなかったでしょ?」との声が若い層からあったらしい。
いやいや、とんでもないですよ。あの時代、活字の力は絶大で、本に書いてあることはすべて真実、みたいな雰囲気があった。オカルトについても同様で、みんな五島勉の大予言の本を信じた。みんな「1999年に俺は(私は)死ぬんだ」と、33年後の自分の死を想ってボンヤリしたものだ。国民総メメント・モリだった。いわずもがな、僕も信じた。いかんともしがたく、途方に暮れた。
6年後の昭和56年には五島勉による第2弾『ノストラダムスの大予言2 1999年の破局を不可避にする大十字』が発売され、惑星直列によるいわゆるグランドクロスの大災害の恐怖が再び僕らを襲った。この時は小学校の同級生で花屋さんの息子のナオトが「やべぇよ大予言!」と大騒ぎしたものだ。なんと彼は歌まで作った。
「予言の書のその表紙にぃ~大いなるウソと~書いてやろ~ぜ~」
花屋の二階の自室でカシオのミニキーボードを弾きながら彼は自作曲を朗々と歌ってくれたものだ。題して「ノストラダムスの大予言外れろ!の歌」を。
「そ~して平和な新しい年を~」
ナオトはそこで声を振りしぼり、シャウトした。
「しるこすすって迎えるの~さ~‼」
し、しるこ? ナオトお汁粉? お汁粉って今、いった?
「そうさ、汁粉さ、大槻。ノストラダムスの予言を乗り越えて正月に汁粉を食えたらさ……最強だろ?」
なるほど彼なりのそれが「日常立ち返り」ということだったのだろう。不安や恐怖から逃れるにはまず日常に立ち返ることだ。重要だ。でも、ノストラダムス→グランドクロス→しるこすすって迎えるのさ、のホップ・ステップ・ジャンプにはいささか戸惑った花屋の二階であった。
……人類が滅亡しなかった1999年の翌年、2000年の正月、はたしてナオトはお汁粉をすすったのであろうか? 今年の元旦に、89歳になる母に会いにいったとき、ナオトの生花店の前を通ったが、もう花屋さんはなくなっていた……。
……そう、ノストラダムスの大予言は見事に外れたのである。というか、そもそもノストラダムスが人類の滅亡を予言していたという事実があったのかどうかも本当はよくわからないようなのだ。
ノストラダムスこと、医師・詩人・料理研究家のミシェル・デ・ノートルダムはルネサンス期にたくさんの四行詩を書いた。それらは「百詩篇」(※諸世紀と訳されることもある)という書物にまとめられたが、どれもシュールというか、散文的な、どうとでも解釈可能な、まさに詩的な文章であった。たしかに予言として読むことも不可能ではなく、五島勉さんの著作は、彼が“予言解釈”したノストラダムスの詩を、人類滅亡に特化し、「1999年」で始まる一編が滅亡の時を示すとしてピークに持ってきた、なるほどよくできた怖がらせの書「五島勉解釈の大予言」であったともいえる。
「五島勉解釈の大予言」は見事に外れた。1999年の7の月、人類は滅亡しなかった。もう23年も昔のことだ。
では、もしノストラダムスの四行詩が予言だったなら、いったいなにを彼は予言していたのだろう? オカルトだもの、西暦の誤差などはどうとでもなる。現在2022年、世界は緊迫したムードに包まれている。もしかしたらノストラダムスの大予言とは、2022年のこの状況から起こり得る第3次世界大戦であるとか、それこそ核による大終末をいっていたのではないか、との解釈も今後流布するのではなかろうか……。
しかし、惑わされてはいけないと思うのだ。たしかに今、世界はノストラダムスの大予言のごとく不穏な空気に覆われてはいるけれど、あんまり悪いように解釈するもんじゃない。もしもノストラダムスの大予言が現在の世界の不安を予言しているということがあるとするなら、ではわれわれはどうやってそこから日常に立ち返ればよいのか? その方法を考え、それを可能にするための機会、タイミングをノストラダムスが与えてくれているのだと解釈したらよいのではないだろうか。「1999年7の月」を平和のための暗号と考える新しい解釈だ。
「ただいま」
「人類が滅亡するわよ! ……おかえりなさい」
五島勉の「ノストラダムスの大予言」を読むような現在の不安定な世界に今、必要なのは、このぐらいのキッパリとした「日常立ち返り力」なのだと僕は思う。「現実立ち返り力」といっていいかもしれない。早く世界が現実に立ち返り、日常を取り戻し、人類滅亡の不安などはなくなって、誰もメメント・モリなんて意識しないで済む世の中になったらいいな、と近頃よく思うのだ。お汁粉より甘い考えだということはわかっているが。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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