映画『地獄少女』は復讐欲を感染させる! 白石晃士・地獄愛インタビュー/吉田悠軌

文=吉田悠軌 写真=我妻慶一

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    「いっぺん、死んでみる?」 我が身を永遠の苦しみにさらしてでも、怨み殺したい人がいる。戦慄の怨恨サイクルを描く「地獄少女」を、暴力ホラー映画の鬼才・白石晃士が実写映画化。 Blu-ray&DVDリリースをきっかけに、白石作品『シロメ』に出演したこともある怪談師・吉田悠軌が、“白石地獄”の描写に迫る!

    復讐3部作としての『地獄少女』

    白石 「ムー」は小学生高学年くらいから中学生くらいまで買っていました。途中で、「あれ? この総力特集とか……ちょっとおかしいぞ」って思いはじめて、それで買わなくなっちゃったんですけどね。

    吉田 今回の映画『地獄少女』についてですが、描いているのは祟りというよりも、呪い・恨みですよね。
    白石 ――はい。
    吉田 神様の祟りではなく、人間関係にまつわるもの。恨む相手を地獄に落とすなら、自分も地獄に落ちる……というところが、白石監督がずっと描いてきた「暴力の世界に飛び込んでいく人たち」というモチーフと、確かに共通しているのかな、と。
    白石 これの前に『不能犯』があって……まあちょっとわけあって公開されなくなった『善悪の屑』があって。どれも依頼を受けて復讐を果たす、みたいな話。しかも漫画原作で、一話完結の連作もので……というところは、『地獄少女』も同じなんですよね。だから自分にとっての「復讐3部作」って呼んでいます。
    吉田 そうだったんですか!
    白石 まあ、ひとつなくなっちゃったんですけど……。本当はテレビドラマ的な連作として表現した方が合っていそうな内容を、2時間弱の映画一本にまとめるということで、やり方を色々考えました。『不能犯』での試行錯誤を、『地獄少女』では進化した形でやれたかな、と。この作品における復讐は、「地獄に落とす」という超常現象的な方法です。でも結局それは「理不尽な暴力で復讐する」ってことと同じです。自分はずっと暴力映画を撮ろうと思ってきた人間です。自分がつくるホラー映画の中の超常現象も、暴力のメタファーになっていることが多い。今回の『地獄少女』も、それにすごく近い表現になってるかなと思います。

    怨みや暴力が観客にも感染する

    吉田 本当に、その通りだなという感じです。世間では「暴力の連鎖」ということがよく言われます。誰かが何か悪いことをされて、その仕返しをすると、さらにまた仕返しした相手の報復を呼んで……という。『地獄少女』は原作からして、そういうモチーフが含まれてるとは思うんですけども。ただ白石監督の場合は「暴力の連鎖」というより「暴力の感染」といった方が正確だと思うんです。ただの「やられたからやり返す」ではなくて、その場にいるだけでどんどん巻き込まれていく、全然暴力的じゃない人も暴力的になっていく……。そこが白石映画のすごく面白いところだし、いい意味で危険なところです。そもそも『地獄少女』では、中盤で「暴力の連鎖」が断ち切られてますからね。もう復讐しません……っていう人たちがいて。でもそれを、どちらかといえば「偽善者」だと描いている。
    白石 ……そうですね。

    ごく普通の少女・美保(森七奈・左)も、友だちの遥(仁村紗和・右)を救うために<地獄通信>という暴力に手を染める……(映画『地獄少女』より)。

    吉田 やっぱり暴力の世界、あちら側の世界に飛び込んでいく人の方にシンパシーがあるのでしょうか。飛び込んでいかない人は、社会的には善人なんでしょうけど、どこかダメなやつらだ、みたいな。もちろん、白石監督も暴力を無批判に肯定しているわけではないですけど。
    白石 陥らざるをえない暴力の連鎖、この作品ならば復讐の連鎖みたいなもの。それに巻き込まれざるをえない、そこへ向かわざるをえない人が絶対いるのだ、と思っていて……。そういう人をただ否定したくはないな、と。この社会においては罰せられることなんだけど、映画の中ではそういう人を否定したくない。そう思ってつくっている作品ではありますね。
    吉田 暴力の世界にいく人の描き方も、その暴力がある意味で笑っちゃう描き方をする時があるじゃないですか。
    白石 いきなりビンタしたりとか!
    吉田 今回の映画でいえば、ルポライター役の工藤仁。『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの工藤と同姓同名のやつが出てきて、取材の仕方も同じ感じ(笑)。喫茶店とかで話し合えばいいのに、いきなり取材対象者をぶん殴ってワゴン車の中に入れて、縛りつけてから話をするという……(笑)。あそこもちょっと笑っちゃったんですけど、同時にそれを笑っちゃう自分が「やばい、危険だな」とも思うんです。白石映画を観ているうち、観客側も、本当は向かっちゃいけない暴力の方に引きずり込まれていく。
    白石 そうですね。「踏み越える人たちの、愚かさと魅力」みたいな。人間味みたいなところを見たい、っていうのはあります。この作品でいったら、美保役の森七菜さん。美保というのは、フラットなかわいい女の子なんだけど、それが周囲に巻き込まれていくことで、復讐というどす黒い感情、怒りと憎しみの感情に目覚めてしまう。劇中で描かれるのはある意味で人助けでもあるんだけど、その中には嫉妬とか独占欲もある。その上で復讐の依頼をするという様、普通だった子が道を踏み外してしまう様を描いています。でも同時に、こういうこともあるのだってことも、しっかり描きたいなと思ってますね。

    白石監督作品でおなじみの暴力的ジャーナリスト、工藤仁を波岡一喜が演じる(映画『地獄少女』より)。

    地獄描写と工藤仁

    吉田 地獄描写も、やっぱり昔の白石映画とかぶっているじゃないですか、“地獄ミミズ”とか。工藤仁が出てきたり、地獄ミミズも同じだったり、裏設定的にはやっぱり繋がってたりするんですか?
    白石 いや、明確には裏設定を考えているわけではないんですけど、まぁ、あの、同じ人がつくってるので。
    吉田 でも同姓同名の暴力的な取材をする人が出てくるんですよ!
    白石 まぁ、同じようなキャラクターになってきたら、じゃあ同じ名前つけたほうがいいか! みたいな。名前考えるのも一苦労なんで。
    吉田 ファンサービスじゃないんですか?
    白石 でも、そうね、同じ名前つけとくと、自分の他の作品見てる人は「あ! こんな風にしてるんだ!」っていうちょっと別の楽しみを見つけることができるので。まあ、それはそれであった方がいいかな、くらい。

    吉田 映画『オカルト』について以前に白石監督から聞いた話ですけど。あの映画では最後、割とくだらない地獄に落ちるじゃないですか。
    白石 バカみたいな世界。
    吉田 でもあれこそが本当は怖ろしい世界で、主人公はあそこに落ちるべきだと思ったから、ああいうバカみたいな描写にした、と白石監督がおっしゃってました。今回の地獄も入り口が地獄ミミズっぽいですが、思い入れがあってああしたんですか?
    白石 あそこまでチープにしたつもりはないんですけど。
    吉田 いやいや! 落ちてからはそうですけど、最初の入り口部分は完全に”地獄ミミズ”ですよ。
    白石 あー……まあ、そうですね。それはでも地獄が感覚的に不快な場所だろうなっていうのがありまして。で、自分にとっての不快さは、やっぱりああいうミミズ的なものに象徴される、クネクネ動く原始的な生物っていうのになる。すごくゾッとするものを感じるので、ついつい出しちゃう。
    吉田 でも『ある優しき殺人者の記録』における暴力の先、向こう側の世界も、最終的にはクネクネしたものが出てくるじゃないですか。単純に気持ち悪いっていうよりは、向こう側の世界へのある種のピュアなあこがれみたいな。そういうものの象徴なのかな、とも思いました。
    白石 大きくいったら、自然界の象徴として出してますね。人間がごにゃごにゃやろうが、厳然とある宇宙のシステムは、早々には変えられない。そういったシステムの象徴として、有機的であり、不気味であり、人間を叩き落して大殺戮する時もあるけれども、人間を手助けするときもある……ってまあ、要はやっぱり神なんですけど。そういう、人間の価値観ではどうこうできない、ただ厳然と力のある存在として描いている……っていうのはありますね。
    吉田 やっぱりクトゥルー的な。
    白石 クトゥルー的ですね、確かに。

    ほかの白石作品の地獄描写とも見比べてほしい描写(映画『地獄少女』より)。

    地獄の中の、花

    長い時間を抱いた存在としての閻魔あいを玉城ティナが好演(映画『地獄少女』より)。

    編集部 あとは、女の子の怖さが印象的です。「玉城ティナさんかわいいな」と思いながら見てたんですけど、人間離れした地獄少女のビジュアルも、見どころでしょうか。
    白石 美しくてミステリアスな女性が、「必殺仕事人」的な感じで、嫌なやつらをやっつけていく。社会的には批判されることだけど、まるですごく美しく痛快であるかのようにやるというのが、映画の面白さだと思うので。玉城さんはそういった役に適任でしたね。
    吉田 決め台詞こそあれ、ごてごてした仕草はない。ひたすら、そこにいる。
    白石 そうですね、なるべく人間的な要素を排除したかった。髪の毛を直したりとか、どっか掻いたりとか、そうゆうことは絶対にしないでくれ、と。玉城さんは本番中、瞬きを絶対にしないようにしてくれました。あと、お願いしたのが、基本的に相手を見ないでくださいということ。それによって、今その場にある世界よりも遠くを見ている感じにしたかった。地獄少女にはもっと長い時間の流れがあって、いろんなことを経験して体験してきたはず。目の前のちっぽけな人間じゃなくて、すごく大きな流れをみてるというニュアンスを出したかった。で、決め台詞を言う時、大事なことを言う時だけ、相手を見てください、そのほうが決まるので……っていうお願いをしましたね。
    吉田 白石映画ならではのCG、というのもあると思います。『地獄少女』で印象的なのは「花」のCG。漫画原作からあるイメージですが、やっぱり白石映画の中で、「地獄ミミズ」と「花」とで、すごく対照的なCGだな、と。
    白石 原作での「花」は、着物の袖からばあーって出る感じなんですけど、自分は「花」でマンダラを描くみたいなイメージでした。風忍(かぜ しのぶ)みたいな感じにしたかったんです、実は。あの風忍ニュアンス、マンダラを作ってそこから回っていくんだ……とCGの人にお願いしました。
    吉田 風忍! 地上最強の必殺技!

    言葉だけの暴力――呪いを描きたい

    編集部 監督は、都市伝説や心霊には全然興味ないそうですが……。
    白石 いやいや、心霊・幽霊話は……あんまり興味ないですけど、都市伝説は興味ありますよ。でもそれより犯罪のほうが興味がありますかね。あと、興味はあっても、基本的には超常現象を信じていない、っていうのがありますけど。
    吉田 都市伝説や怪談というのは、「感染」というのがすごく大事な要素です。かつ、「暴力」も感染していくもの。そしてまたドキュメンタリーも、原一男監督の作品のように、撮る/撮られるの暴力だし、お互いに感染していくもの。だからやっぱり心霊ドキュメンタリーというのは、白石監督に合っているのかな、と。で、そこで培われたものを、劇映画のほうでもやっているのかな、という気がしますけどね。
    白石 あとは言葉。ある種の言葉の暴力が「呪い」として実際に機能する場合もあるじゃないですか。言葉によって人を殺すことができる。そういうことを、今回も明確にはやれなかったんで、そのうちまたやりたいんですけど……。「自分の息子を殺されたお母さんが、裁判の時に、その犯人の心ない言葉を聞いて、心を病んで自殺してしまった」ってことがあったらしいんです。これは本当に「呪い」だなと思って。犯人が人を殺したのは間違いない。そういうことで告訴されて拘束されている、圧倒的に不利な人間。そんな人間が、そんな風に人を殺すことができる……というのは「呪い」以外のなにものでもないな、って。そういう邪悪な力というのを、本当はもっと突っ込んでいきたいな、というのが根底にあります。
    吉田 「呪い」も多種多様な要素を含んだモチーフだと思うんですが、やっぱり白石監督は「呪い」の中でも「暴力」の側面にひどく惹かれているような気がします。
    白石 そうですね。逃れられない理不尽な暴力っていうのが、世の中には絶対あると思うので。状況によっては自分も人を殺さざるをえなくなってしまう瞬間が絶対にある。「それがきたとき、どうするよ!」と思うので、予行演習をしておきたいんじゃないかな……っていう気はします。

    (左)白石晃士(しらいしこうじ)●1973年生まれ、福岡県出身。本作では監督・脚本を務める。主な監督作品に『ノロイ』『オカルト』『戦慄怪奇ファイル コワすぎシリーズ』『貞子vs伽椰子』『不能犯』など。
    (右)吉田悠軌(よしだゆうき)●1980年生まれ、東京都出身。「ムー」で連載「怪談解題」を執筆する怪談師、オカルト探偵。白石監督の映画『シロメ』に出演し、不気味な怪談師を演じた。

    映画『地獄少女』5月8日(金)BD&DVDリリース
    午前0時にのみ出現する〈地獄通信〉にアクセスし、怨みを抱く相手の名前を入力すると、〈地獄少女〉が地獄送りにしてくれる――。だが、依頼をした者にも、恐ろしい代償が待っている……。誰もが抱く、“復讐欲”と呪いを描いた人気シリーズが実写映画化。『貞子vs伽椰子』『不能犯』などで知られる鬼才・白石晃士監督が、現代の怨みと地獄を送り出した。暴力ホラーと、妖美な世界観が混ぜ合わされた、戦慄の因果応報ファンタジー!

    Blu-ray ¥4,700(税別)/DVD ¥3,800(税別)
    発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
    Ⓒ地獄少女プロジェクト/2019映画『地獄少女』製作委員会

    https://gaga.ne.jp/jigokushoujo-movie/dvd/

    吉田悠軌

    怪談・オカルト研究家。1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の現場および資料研究をライフワークとする。

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