あのアメリカ大統領の名が記されたマナティの話など/南山宏のちょっと不思議な話
「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2023年4月号、第468回目の内容です。
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
球体の地球を目視した人数は限られている。”やつら”の手にかかれば、平面の地球を隠蔽することなど容易いのだ……! 異説をフラットに受け止め、その場を丸く収めよう。ハァッ!
「だって地球はまるいんだもん!」とは、昭和のトップアイドルグループ・フォーリーブスの名曲「地球はひとつ」の一節だ。
コロナ禍で家にいる時間が多くなり、よくラジオを聴くようになった。懐かしの昭和歌謡を流す番組が沢山ある。現代の楽曲とは異なるシンプルな曲構成、独特な歌詞世界観にすっかりハマってしまった。ペドロ&カプリシャス、ピンクレディーその他、毎日うっとり聴いている。フォーリーブスもいい。彼らがゴム縄を引き伸ばしながら舞い踊る「ブルドッグ」などは思わず「ニッチもサッチもど~にもブルドッグ」ハァッ! 声を揃えて歌ってしまう。
「地球はひとつ」も素晴らしい。なんと北公次の作詞であるという同曲は「~君が僕からどんなに逃げたっていつか必ず追いつくさ~」との究極のストーカー宣言な歌詞も強烈だが、追いついてみせるその理由というのがこうなのだ。
「だって地球はまるいんだもん!」
地球球体説。
その起源は古代ギリシア哲学に遡ると言うが、僕ら昭和の歌謡曲っ子にしてみればそれよりも、フォーリーブスが「地球はまるい」と歌っていたから、「地球はまるい」のだ。江木俊夫が高らかにそう宣言したからゆるぎ無き球体の地球は存在するのだ。
……最近、知人がフラットアーサー(地球平面論者)になった。
ここ数年、オカルトに興味を示してるなぁと思っていたらある日突然「地球はまるくない、平面だ」と真剣に言うようになったのだ。
「え? じゃフォーリーブスの歌はどうなるの?」
思わず尋ねてしまったが、彼女は『そんな話じゃなくて』といった真顔で首を振り、丸でなく平たい地球……フラットアースについて熱く論じ始めた。
なんでも、地球は球体ではなく平面である。その上をドームのようなものが覆っている。宇宙は広大ではない。太陽と月はドームと地球の間を回っているだけだ。アポロは月に行っていないし人工衛星も実は飛んでいない。そういった映像はほぼ全てNASAのCGによる捏造である。そもそも現在信じられている科学の大半がウソ。重力も無い。重力の存在を証明した者はいない。全部大ウソ。地球は丸くないのだ。地球は平面なのである。
……ニッチもサッチもどうにもブルドッグ。
ハァッ!
と思わずゴム縄伸ばして天を仰ぎそうになったが、フラットアーサー的視点から言えばその天もまたNASAの作ったCG映像に過ぎないのであろうなぁ。
~だって地球は平たいんだもん!~
これはフォーリーブスの絶対の危機と言える。フラットに考えて地球はやっぱりまるいんじゃないかな~と思う僕としては、不意の知人地球平面説ガチ論者転向に困惑するばかりだったが、こういう時はむしろビリーバーの側に寄り添って考察することが大切なのだと長いオカルトファンとして知っているつもりだ。書店へ行って、知人が熟読しているらしい本を二冊買ってみた。
「地球平面説『フラットアース』の世界」
「究極の洗脳を突破する『フラットアース超入門』」
両方ともヒカルランドから出版されていて、言いたかないが二冊で4000円したよ。
読んでみたところ、知人の論じていたままのことが書いてあった。
地球はまるくない、平面である。月も太陽も宇宙も何もかも、現在信じられている科学はそもそもみんなウソ。NASAもウソつき。みな騙されている……では騙しているのは誰なのか? それも、書いてあった。
「地球球体説というのは、ただのフリーメイソンリーなんです」
「フリーメイソンが勝手に作って、勝手に唱えている説です」
出たぁ、というかなんだか『あ、やっぱりそれなのね』と、むしろホッとする、フリーメイソン陰謀論の登場なのであった。ではなぜフリーメイソンは地球球体説を唱えているのか? それによって何をしようとしているのか? その理由は、フリーメイソンは悪魔崇拝主義で、地球はまるい、宇宙は広大とするウソから算出される「すごく大きい数字」によって、人類を「ほんの小さなカスにすぎない存在」だと自分たちに思わせ、結果的に『神から遠ざける意図』がある、とのこと……。
もう一度叫んでいいですか?
ニッチもサッチもどうにもブルドッグ!
なんだかわかったようなわからないようなフリーメイソンの意図なのだ。そのためにNASAにCGを発注したりなんだりお金もかかるだろうし、大変だなぁメイソンさんも、と素朴に思うんだが、僕が考えるに、この本の著者の方々は、聖書の原理主義の一派なのであろうかなと。この世が聖書のままでなければいけないと信じる人々にとっては、まず地球がまるくてはいかんのだ。自分たちの聖書の読み解き方の通りに、そもそも地球は平面でなければいけないんだよ、と。そこから始まる進化論の否定、現代科学の欺瞞、派生してNASAの捏造、それらパズルをくっつけて埋め合わせるための悪魔崇拝主義(とフラットアーサーが考える)フリーメイソンの陰謀、となるわけだ。
となればこれはもう信仰の問題である。反論したってヤボである。だって信仰は理屈じゃないからね。知人は地球平面説という信仰を得たのかもわからない。違うのかもわからないけれど、本の感想だけ伝えることにした。
「読んだよフラットアース本。興味深かった。僕はあんまりウ~ンって感じだったけどさ、読んでてハッ!と気付いた。フォーリーブスの『だって地球はまるいんだもん!』って歌詞、アレ、考えてみたらどこへ逃げても追いついてみせるって……それ考えてみたら、地球がまるいって理由に全然なってないんだよね。むしろ平面な方が早く追いつめられるし、変なんだよ。だから、あの歌はあれかもね、地球球体説洗脳ソングだったのかもね。フォーリーブスやその関係の誰かがフリーメイソンで、昭和の昔にお茶の間のテレビの前の人々を『神から遠ざける意図』で歌っていたのかもしれないね。『だって地球はまるいんだもん!』って。すごいね、令和に知るフォーリーブス・フリーメイソン陰謀説だね!」
すると知人は『そんな話じゃなくて』といった真顔で首を振り、丸でなく平たい地球、フラットアースについて熱く論じ始めた……うん、いろんな地球の見方があるのだなとは思います。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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