寒さを感じなくなる「抗寒薬」を米軍が開発へ! 大寒波を克服するDARPAの最先端バイオハック技術
「マッドサイエンティスト集団」にも喩えられる米国防高等研究計画局(DARPA)が今、寒さを感じなくなる薬に注目しているという。そのメカニズムとは――?
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考えるだけで、モニターに頭の中の文章が次々と表示される――そんな機械を使ったテレパシーのような技術を「Brain-to-Text」という。米カルフォルリア大学などの研究チームが、AIの深層学習を使って基礎技術を開発した。心が読めるニュータイプの時代がくるのか?
なにかをしようとする時、たとえば指を動かそうとすると、脳から指の筋肉へと神経信号が送られる。この筋肉を動かす時の電気信号を筋電位という。人間の動作は、ほぼすべて筋肉が関わっているので、筋電位をキャッチすれば体をどう動かそうとしているのかわかる。
剣豪小説やバトル漫画では相手の動きを先読みする描写が登場するが、筋電位に注目することで、こんな離れ業に近いことを実際にやってしまおうというのが最新科学の凄いところだ。
最新の義手は筋電位を読み取って動く。腕の切断面まで神経は来ているので、腕を動かそうと思ったら、切断面に筋電位が発生する。腕の動きと筋電位の関係をコンピュータのデータベースに登録しておけば、筋電位を読み取り、データベースと照合して思うように義手を動かすことができる。技術自体は古くからあったが、照合に時間がかかったり、毎日筋電位が微妙に変化するので、義手の起動時に基本動作を毎回覚え直させる必要があったりと実用的ではなかった。そうしたロスや手間がAIの登場で劇的に改善され、一般にも普及しつつあるのだ。
この技術を応用して、次は脳から言葉を読み取ろうというのがBrain-to-Textなのである。
脳から言葉を読み取ると聞くと、頭の中に浮かんだ言葉を脳波センサーで読み取るイメージだが、実際はまだそうした技術はない。読み取る以前の問題で、脳の中で私たちの意識がどのように存在しているのか、まだ人間にはわかっていないからだ。
断片的にわかっているのは、言葉を頭に浮かべた時にも脳波が発生することだけだ。どの脳波がどの言葉に対応するのかまではわかっていない。
2014年にフランスの研究チームが脳波を使って相手に言葉を送る実験に成功した。英語のハローやスペイン語のオラといった挨拶の言葉を思い浮かべてもらい、その時の脳波をそのまま読み取ってネット経由で被験者に送るというかなり乱暴な方法である。受信側の被験者は視界に光がちらつき、挨拶する声が聞こえたという。
ほとんど超能力の世界だが、脳波に言葉の情報が含まれているのは間違いないらしい。しかし、脳波を分析して言語に対応させるのは非常に難しい。フランスの実験でも4人の被験者から読み取り成功する確率は11パーセントだった。挨拶という単純な単語でも送受信は難しいし、ましてや会話を送るなんて夢のまた夢。そう思われていた。
だが、カルフォルニア大学のチームは発想を変えた。飛躍的に精度が向上してきた筋電位の読み取り技術を使い、言葉を発する時に声帯へと流れる筋電位を脳波から読み取ったのだ。
脳波からピンポイントで声帯への神経信号だけを抜き取ることは容易ではない。発音する時の喉の筋肉の動きは単純ではなく、喉や舌、唇など数十もの筋肉が連動して動く。
ごちゃまぜの脳波から声に関連する信号だけを抜き出すために、四肢が麻痺し、発話も難しくなった人の脳に読み取り用のチップを埋め込んだ。体が動かず、喉も動かないので、無駄なノイズを排して喉頭の筋電位を測定できるからだ。そして言葉と喉頭の筋電位のデータベースを作った。
しかし、一般人の脳にチップを埋め込むわけにはいかない。そこでAIの深層学習を使って、被験者の頭蓋骨から漏れる脳波と、先述のデータセットを対応させ、読み取り精度を上げることに成功したというわけだ。単語の判別精度は47.1%と、かなり高い。
脳からダイレクトに情報を読み取る、肉体を使わずに脳波で機器の操作を行う技術は、障害者支援から軍事へと軸足を変え、中国が圧倒的に先行している。しかし、脳波と目のトラッキング技術を組み合わせて入力作業を行う技術と、脳波から文章を読み取る技術では、複雑さがまったく違う。
カルフォルニア大学の今回の研究がさらに進み、脳波から文章を読み取ることができるようになったら、何が起きるのか? 普通に考えれば、テープ起こしならぬ思考起こしで文章がサクサク作れるようになる。
しかし、作家のように頭の中できれいに文章が浮かぶタイプの人には奇跡のようなグッズになるが、一般の人が長い文章を想像することはまず不可能だ。逆に言えば、思考が盗難されるようなことも起こり得ない。人間はまとまった思考をしていない。同時にいくつもの非言語の思考が動いているのが脳だ。だから、読み取ることはデータが複雑すぎて不可能なのだ。
一方、グルーヴの可視化、会場にいる人たちの意識の一致を視覚化することは可能だろう。言葉の脳波を集計することは困難だが、感情の波を読み取り、それを可視化することは可能と思われるからだ。
これを応用すれば、感情の強制もできるだろう。興奮する時にアドレナリンが出る、その神経信号を模倣して脳に送り込めば、相手はいきなり興奮する。
そして、こうした技術を総合し、おそらくもっとも恐ろしくかつ実現度も高いのが、思考の強制だ。誰かの思考を読み取り、そのアルゴリズムを被験者の脳に流し込むことで、思考パターンをハッキングする。思考そのものを押し付けることはできなくても、思考の流れを押し付けることはできる。文章を丸ごと思い浮かべることはできなくても、主人公がどのように苦境におちいるのか、その大枠なら想起できる。あるいは感情の流れをシュミレートし、体内の生化学物質をコントロールしてアルゴリズムを脳の中に作り出す。
文章なり映像なりを体験しながら、感情の起伏を強制されると、思考の型が脳に刻み込まれるだろう。ロマンティックな思考を強制されたら、今までバカにしていた恋愛映画でダダ泣きするかもしれない。
もしこれが実現したら、兵士の思想統制はすぐにできる。ニュータイプは戦争の道具というアニメの設定が、そのまま実社会での話になる。DARPAあたりが本気で考えていそうで、嫌な話だ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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