実話怪談『闇異本』の重要人物“黒い人”の正体は? ホラー漫画で幸せになった鬼才・外薗昌也インタビュー

構成=山内貴範 取材協力=LINEマンガ編集部

    LINEマンガで連載中の「闇異本」が最終回を迎える。外薗昌也氏が体験または収集した実話怪談に基づくコミカライズ作品だが、外薗氏の周囲で起こる怪異は尽きることはない……。ホラー漫画家を取り巻く怪奇事情についてインタビューした。

    『闇異本』はLINEマンガで連載中。2月9日には完結回を配信。2月4日〜2月8日まで全話無料キャンペーンを実施。©Masaya Hokazono・Motosuke Takaminato/LINE Digital Frontier

    自宅が心霊スポットで、家族全員が霊に慣れる

    ――原作の『異本』シリーズでは外薗先生が自身で体験した怪奇現象も収録されています。ご実家のエピソードが強烈でした。

    外薗 『赤異本』に収録して、漫画版でも題材になっています。僕が若いころに住んでいた家が“お化け屋敷”だったんですよ。家の中で知らない人の姿が見えたり、突然声が聞こえたりしはじめたときは、本当に怖かったです。霊なのかどうかという以前に、自分の感覚がおかしくなったのかもしれないと、真剣に悩んだこともありました。

    ――自宅では逃げ場がない! ご家族は無事だったんでしょうか。

    外薗 自分だけかと思って悩んでいたら、妹も声が聞こえたと言い出したんです。具体的なことを聞いたら、どうやら私が聞いた声と同じだったんですよ。そして、次におふくろも同じ体験をしてしまったんです。一時期は家族全員が気持ち悪い体験に苛まれてしまい、今の家に引っ越しました。

    ――複数人で話が一致すると、「いる」「ある」感覚がぐっと高まりますね……。

    外薗 あの家は今も誰かが住んでいるので、近くを通ったときに見に行ったことがあります。もし、今の住人に何も現象が及んでないとしたら……家ではなくて僕ら家族に何かあったのかもしれない、と思うことがあります。

    ――今現在、外薗先生の自宅兼仕事場で取材をしているわけですが……この家では何も起きなくなったのですか?

    外薗 女房が一人で『奇跡体験アンビリバボー』を見ていたとき、突然ポルターガイストが起きたこともあったし。誰もいないのに足音がしたり、バターンと何かが倒れるような音がしたり、そんなことは、それこそ何度もありました。実は家の目の前が墓地なんですが、ひょっとしたらこの敷地も昔はお寺の敷地で、墓地の一部だったのかもしれない、なんて話しています。もう家族全員が霊現象に慣れてしまっているんですよ。

    ――ぜんぜん解決していないじゃないですか!

    実家の怪奇現象については『赤異本と黒異本』(ぶんか社)に収録されている。©︎外薗昌也・鯛夢・呪みちる/ぶんか社

    霊は見るけれど信じないようにする

    ――お祓いとか除霊はしていないですか?

    外薗 お祓いはしたことないですね。そもそも僕は霊を信じないようにしているんですよ。だって、信じたら向こうの、霊の思う壺じゃないですか(笑)

    ――体験しているのに、いや、体験しているからこそ、信じないようにしていると。

    外薗 霊側のルール、世界観に入ってしまわないようにしようと、変なスイッチが入っているんです。怪談を集めていると、スピリチュアル系の人とも会うのですが、話が合わないんですよね。「この話は障るから出しちゃいけない」と言われた怪談をあえて書いてしまえるのは、祟りなんてないと思っているからできるんです。とはいえ、『異本』シリーズの制作中は変なこともあって、マネージャーの息子(漫画プロデューサーの外薗史明氏)が編集者と電話しているとき、電話に雑音や女性の声が混じっていたとか、鐘の音が聞こえたこともあったと聞いています。

    ――作者でなく、周囲に。ホラー漫画のパワーとしてありがたいのか迷惑なのか(笑)。でも『鬼畜島』はじめ、ホラー系の作品が大ヒットしていますよね。

    外薗 ホラー系の仕事はやってみたかったので挑戦的にやってみたら売れてしまいました。『鬼畜島』も最初は2巻くらいで終わる想定で、好き勝手に描いてたんです。ところが大ヒットしてしまって連載継続になり、ホラー系の仕事が増えて急激に忙しくなったんです。今はLINEマンガで毎週の連載ですからね。これはもう一種の祟りかもしれない(苦笑)。そして、『鬼畜島』が忙しすぎて『異本』シリーズで怪談が書けなくなったのは、もしかすると霊の妨害なんじゃないかなと思うこともあります。

    ――霊のほうも、どんなに驚かせても存在を信じてくれないし、ましてや漫画のネタにまでされてしまい、たまったものではないと思っているのでしょうか。

    外薗 僕が霊的な体験や怪談話をお金に換えてしまうので、向こうとしては面白くないのかもしれませんね。ただ、編集さんが僕と仕事をしているとき、突然気持ち悪くなったりすることはありましたけどね。

    ――やはり解決していないようで、周囲のみなさんが心配です。

    ホラー大作『鬼畜島』は24巻の第1部を経て第2部へ突入! ©Masaya Hokazono/LINE Digital Frontier

    怪談提供者「黒い人」の謎

    ――『異本』シリーズの実話怪談は、どのように集めているのですか。

    外薗 『赤異本』は僕自身の体験談を出していたのですが、『黒異本』はTwitterで知り合った人から集まってきた話をもとにまとめています。もちろん、全員の話がそのまま使えるわけではないのですが、「これは!」と思う話もある。提供してくれた人とは電話やメールなどでやりとりして、話を整理していきますね。そのまま書くと相手が身バレするので、性別や住んでいる場所を変えたりして、特定されない工夫はしています。

    ――漫画版では、ネタの提供者である「黒い人」がキャラとして出てきます。怪異と恐怖を育てて食べるという怪人になっていましたが……さすがにそこは創作として、怪談提供者の「黒い人」は実在するんですか?

    外薗 「黒い人」は興味深いネタをたくさん送ってくる常連さんで、存在自体は創作でなく、やりとりしています。ただ、お会いしたことはないんですよ。実体験なのか、聞いた話なのか。ネットの怪談をアレンジしているような節もあって、どういった人なのか。

    「黒い人」は漫画版では常軌を逸した怪奇収集者としてキャラ化されている。©Masaya Hokazono・Motosuke Takaminato/LINE Digital Frontier

    ――謎ですね。漫画版も読んでいると思いますが。

    外薗 一度、怪談に関するトークイベントで、「会場に黒い人、来てないかな?」なんて話していたんです。もちろんそこで名乗り出る人はいなかったんですが、その帰り道の電車で、ちょっと不思議な雰囲気の人が正面に座ってたんですよ。

    ――もしかして……?

    外薗 スタッフさんが途中の駅で下りて、僕だけになったとき、その人がふっと立ち上がったんです。そして、僕のかぶっていた帽子のつばをクイっと触って、次の駅で降りていきました。

    ――いや、それはもう、接近遭遇なのでは? イベント会場からつけてきたとか……。

    外薗 その人が「黒い人」だったのか……いや、そうであっても、そうでなくても、奇妙な出来事でしたね……。

    ――ご自宅の話といい、外薗先生の体験談そのものが相当面白いですよ。

    漫画に描いたことが現実になる!?

    ――先生の作品では『エマージング』がパンデミックの世界を予言していると話題になりました。感染症の蔓延自体というよりも、満員電車でウイルスが広がっていくイメージはコロナ禍でさんざん目にしましたが、そのものの絵が16年前の『エマージング』で描かれていたという。

    外薗 そうなんですよね……。実際、予知夢を見ることもありますし、何となく思い浮かべたものが悲劇に巻き込まれた例もあります。爆撃機のB-17が妙に気になった時期があって、あの機体かっこよかったなあと思い浮かべていたら、次の日にB-17が航空ショーで墜落したとかね。あとは、『鬼畜島』にアリスというキャラを出したら、広瀬アリスさんが僕の事務所で漫画家体験をする仕事の依頼がきたんです(笑)。

    ――B-17の話は恐ろしいですが、広瀬さんの話はほっこりしました。東日本大震災を予言したと話題のたつき諒さんの漫画『私が見た未来』(飛鳥新社)のように、漫画の内容が予知したビジョンだった、ということですね。

    外薗 講談社のヤングマガジンで連載中の『徘徊者』には鈴木ユウヘイというペンネームで原作を担当しているのですが、ネームを単行本1冊分くらい描き終え、連載が半年後に決まった時に、京王線の「ジョーカー」事件が起きてしまいました。

    ――書いて、世に出す前に事件が起きてしまうと、作品として出しにくくなってしまう。そういう体験があると、なかなか漫画化するのも怖くなりませんか。

    外薗 もうそこは自分で考えてもどうしようもなくて(笑)。実は、火山が噴火して日本がえらいことになる……というネームを単行本4巻分くらい描いてあるんです出来がいいので作画を担当してくれる漫画家さんがいたら、今すぐにでも連載したいんですけれどね。でも、もしこの作品を世に出す際に……。

    ――地震が起きたら……ちょっと考えたくないですね。

    2006年に描いた『エマージング』はパンデミック状況の様子が予言的だと話題再燃した。©Masaya Hokazono/LINE Digital Frontier

    心霊現象に対する冷静な視点

    ――数々の怪奇現象をその目で見ているのに、冷静な視点で向き合っているのは凄いですね。

    外薗 「ムー」を読んでいたくらいですから怪談も好きだし、神秘体験にも興味があるのですが、あくまでもニュートラルにしているんですよね。『赤異本』を出し、『鬼畜島』を出して、ここ10年で僕はホラー漫画家として知られるようになったけれど、もともとホラーは隠れ趣味だったんですよ。

    ――外薗先生は、『異本』シリーズの前はまったく別ジャンルの漫画を描いていましたよね。『犬神』はSFテイストの作品ですし。

    外薗 実は狭心症を患ったことをきっかけに、好きな漫画を描こうと思って浮かんだのが、昔から好きだったホラーなんです。とくにネット上ではホラーの隠れ需要があると予想して始めたら、人気が出た(笑)。僕は、もとはSF系の作家だったんです。ホラーを描いても全面的に怪談寄りにならなかったので、他の漫画家さんとは違うものが描けているのかなと思います。

    ――『闇異本』の完結で、実話怪談を土台にした作品はひと段落ですが、『鬼畜島』は第2部に突入し、ますます盛り上がっていきます。まさか『鬼畜島』の内容が現実にならないか、不安になってしまうのですが(笑)。

    外薗 『鬼畜島』は最近だいぶ設定がぶっ飛んできたので、大丈夫でしょう。さすがにこれはないだろう、これがあったらおかしいよね、と思いながら描いていますから。ある意味、僕自身も安心して描けます。あ、そうだ、先日、『鬼畜島』でヨゼフが「ムー」を読んでいるシーンを描いたんですよ。小さいころに彼が読んだオカルト本として出るのですが。もしかして、漫画に描いたから今回の取材を呼んじゃったのかなと思いました(笑)。

    ――それくらいの「予知」だと、現実的には安心です!

    ヨゼフは「ムー」読者だった! まさか『鬼畜島』がUFO展開になるとは……第2部から目が離せない。©Masaya Hokazono/LINE Digital Frontier

    『闇異本』キャンペーン開始!
    2/4(土)〜2/8(水)まで全話無料公開(※先読み有料話を除く)
    対象話:episode_volume1「赤鬼」〜episode_volume89「アンノン①」

    『闇異本』
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    『鬼畜島』
    https://lin.ee/wgJLeCA/pnjo

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