楽聖を降ろした音楽霊媒 ローズマリー・ブラウン/世界の霊媒師
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シャーマンがその身に精霊エグンを降ろし、メッセージや祝福をもたらす。ベナンのブードゥー儀式「エグングン」は毎年1月10日に開催される。
口寄せや降霊術などで、霊的世界と交信するシャーマンは世界各地の信仰文化に息づいている。
ブードゥー(ヴォドゥン)教発祥の地、西アフリカ・ベナン共和国には、祖先や死者の霊を自分の体に憑依させ、その言葉を伝える儀式がある。死者を降ろすというと日本でいう恐山のイタコや、沖縄のユタを想起するが、ここで現れるのは霊が憑依した精霊であり、神聖な存在として畏れられている「エグン」。人間の霊などではない超常の存在なのだ。
そのエグンが一同に会す日がある。毎年1月10日にベナン共和国で開催されるブードゥー教徒最大の精霊祭「エグングン」である。動物の皮やカラフルな刺繍が施された衣装をまとったシャーマンたちが、かつて奴隷貿易が行われていた「帰らざる門」を中心に集結する。種明かしのようだが、集まったシャーマンたちが先祖の霊が憑依した精霊エグンとなり、集まった人々に死者からのメッセージや祝福を与えるのだという。この日は国民の祝日とされ、ブードゥー教徒たちは1週間もの間、踊りや音楽で神々に祈りを捧げるのだそうだ。
エグンは、西アフリカ地域で暮らすヨルバ族のシャーマンが、葬儀の際に故人の霊を自分に降ろし、参列者にその言葉を伝えたことが始まりと伝えられている。この能力については、ある血筋のシャーマンに代々継承されるものなのか、修行によって取得できるものなのかは明らかにされていない。
だが、ブードゥー信仰が根ざした地域では、現在でも日常的にエグンによる降霊が行われており、なかには外国人や女性の参加をきつく禁じるといった厳しい戒律のある集落もあるそうだ。
ブードゥー教というと、黒魔術を操る秘密結社のようなイメージがあるかもしれない。だが、もとは西アフリカの自然や祖先の霊を信仰する「ヴォドゥン」から派生したもので、植民地時代、奴隷貿易の船着き場であったベナン沿岸部からカリブ海地域へと強制的に連れて行かれたアフリカ人奴隷たちによって広まった信仰である。ハイチでは英語名で「ブードゥー」、キューバでは「サンテリア」などと呼び名が変わるが、ここでは統一してブードゥーと呼ばせていただく。
奴隷として厳しい迫害を受ける中で、信仰体系は徐々にハイブリッド化し、そのスタイルが変化している部分もあるかもしれないが、彼らの教義の根底には、西アフリカのヴォドゥンの精霊信仰がしっかりと根付いているのだ。
死者の世界は生者の世界と重なり合っており、先祖の霊はとても身近な存在とされるブードゥー教。エグングンはこの伝統と文化復興のため1993年から始まったものだが、今では、世界各地から観光客が押し寄せる一大イベントとなっているそうだ。
2023年のエグングンも予定通り1月10日に開催予定だというが、苦しい時や、人生の岐路で生きるヒントをくれるというエグン。もし機会があれば、会ってみたいものである。
遠野そら
UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。
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