永劫回帰の軌跡「ウロボロス」と永遠なる回転運動「スワスティカ」/秘教シンボル事典
占術や魔術、神智学で用いられるシンボルを解説。対立と合一を象徴する「ウロボロス」と回転運動によって安定と調和を描く「スワスティカ」について。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、現生人類の祖先となる根源人種の誕生地で、異質な古代文明が栄えていたという太古の巨大大陸を取りあげる。
時代は19世紀後半、ダーウィンが進化論を発表し、科学、哲学、そして宗教の分野で世界中に大きな衝撃を与えた直後のことである。
進化論という革命的な学説は、旧来のキリスト教的世界観に縛られた層からは強い反発を受けたが、当時の著名な動物学者の多くはこぞってこの仮説を受け入れた。イギリスのフィリップ・スクレーターもまた、そうした気鋭の動物学者のひとりであった。
スクレーターは、ロンドン動物学会の事務局長を1860年から42年間にわたって務める一方、特定の動物の居住区域を地理的に分類する動物地理区の研究でも功績を挙げた人物だ。
ところが、この動物地理区に関連してどうしても解決できない事例があった。
進化論に基づけば、同じ祖先から進化した生き物は比較的近接した地域に分布していることになる。ある特定の種が絶滅したとしても、その化石は仲間の近くで見つかるはずだ。ところがマダガスカルの動物相には、この考えがうまくあてはまらなかったのだ。
マダガスカルは、アフリカ大陸東岸沖にある島国である。領土の大部分を占める最大の島がマダガスカル島で、島としては世界で4番目に大きく、面積は58万7401平方キロと、日本の約1・6倍もある。
アフリカ大陸からは400キロほど離れているが、島に棲息する生物はアフリカとは大きく異なっている。とくに、島に固有の動物キツネザルは、アフリカにはいないが、遠く離れたインドに近縁種が見つかっていた
のだ。
スクレーターは1864年、このキツネザル類の分布を説明するため、太古の昔、マダガスカルとインドを結ぶ陸塊がインド洋に存在したと想定し、キツネザルの学名「レムール」にちなんで「レムリア大陸」と名づけた。
もうひとつ、進化論との関連で議論を呼んでいたのが、人類の起源とその進化の問題だった。
ダーウィン学説では、人類は類人猿から進化したはずであるが、その中間となるべき生物の化石が当時はまだ発見されておらず、進化の上でのミッシング・リンクとなっていたのだ。
だが、もしこの中間的存在がレムリアで生まれ、そこで進化した人類が他の地域に移動した後にこの故地が沈んでしまったとしたら、化石が見つからないことにも説明がつく。
こう考えたのが、ドイツのエルンスト・ヘッケルであった。こうしてヘッケルは、1870年に、レムリアこそ人類の発祥地であると発表した。
ヘッケルのこの仮説は、イギリスの生物学者トマス・ハクスリーや社会主義革命を唱えたフリードリヒ・エンゲルスにも支持された。
このように、一流の動物学者たちが人類誕生の場所として、当時の科学的知見に基づいて提唱したレムリアであるが、この大陸に注目したのは科学者ばかりではなかった。
神智学協会の創始者であり、現在に至るまで神秘思想の分野に大きな影響を残すヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーは、1888年に出版した『シークレット・ドクトリン』の中で、失われたレムリア大陸とそこに発生したレムリア人について、より詳しい情報を提供している。
この『シークレット・ドクトリン』は、ブラヴァツキーが霊視によりアクセスしたという、古代言語センザルで記された『ジャーンの書』の情報に基づいて書かれたもので、7つの根源人種の存在を基調とする独自の進化論を展開している。
ブラヴァツキーによれば、人類には時代を違えて誕生する7つの根源人種が存在する。
最初の根源人種は、「不滅の聖地」と呼ばれる未知の場所で生まれ、アストラル体のみで肉体は持たなかった。
第2根源人種は北極近くの大陸に生まれたハイパーボリア人であり、レムリアは第3の根源人種が生じた場所である。
さらにルドルフ・シュタイナーやチャールズ・ウェブスター・リードビーター、ウィリアム・スコット=エリオットなど、ブラヴァツキーの後継者ともいうべき神智学協会の関係者たちは、いずれも霊視によっていっそう詳しいレムリア情報を追加した。
こうした人物は自らの神秘思想の中にレムリアを取り込んでいき、本来科学的な仮説として提唱されたこの大陸は、異質の古代文明が栄えた神秘的な場所へと変貌してしまった。
スクレーターはレムリアの位置をインド洋に想定したのだが、こうした神智学系統の人物によって、それはアフリカからインド、さらには太平洋の大部分を占め、オーストラリアや南極にまで至り、さらには南アメリカ大陸の一部まで含む広大な陸地へと変化していった。
そして、彼らのいうレムリア人も、現在の人類学的な視点からは到底ありえないような異形の存在となっている。
スコット=エリオットによれば、レムリア人は身長が3・7〜4・6メートルもある巨人で、肌は茶色。顔は平べったく、額はないが、顎が突きだしていた。彼らの目はかなり離れていて、鳥のように横を見ることができ、前後に同じように歩けたという。また頭の後ろには第3の目があり、この目により霊視ができた。
第3根源人種であるレムリア人は、初めて肉体を持った種族であったが、当初は男女両性具有であり、卵で繁殖していた。それが5番目の派生種族の段階になると男女の性文化が生じ、性交するようになった。性の快楽を覚えたレムリア人は動物とも交配するようになり、人とはいえないような劣等生物も多く生みだされた。
しかし20世紀になると、科学界でのレムリアに対する評価は、大きく変化していくことになる。
原因は、1912年、ドイツの気象学者アルフレッド・ウェゲナーが唱えた大陸移動説である。大陸移動説によれば、かつてインドとマダガスカルはひとつの陸塊として一体であったが、後に分裂したと考えられる。マダガスカルとインドの動物相に共通点が見られることも、それで説明ができるのだ。
類人猿と現生人類をつなぐミッシング・リンクについても、その後多くの化石人類の存在が確認され、レムリアに起源を求める必要はなくなっている。
ただ、現在通説となっている大陸移動説とスコット=エリオットが公表したレムリアの地図とを比較すると、奇妙な一致にも気づかされる。
大陸移動説によれば、かつて地球上の大陸すべてが集まって、「パンゲア」と呼ばれるひとつの超大陸を形成していた。このパンゲアは今から1億8000万年ほど前、北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸とに分裂した。
このゴンドワナ大陸を構成していたのが、現在の南極大陸、インド亜大陸、オーストラリア、マダガスカル、そしてアフリカ大陸と南アメリカ大陸だった。スコット=エリオットの主張によれば、レムリアはまさにこれらの領域を結合する大陸だったのだ。
もしかしたら、レムリアの情報を探ろうとした彼らの霊視は、実在したゴンドワナ大陸の情報にたどり着いたのかもしれない。
さらに20世紀になっても、レムリアの実在を主張する情報はいくつも現れている。
たとえば、アメリカの作家リチャード・シャープ・シェイヴァーは、前世でレムリアに住んでいたと主張している。彼は自分の過去世の記憶などから得た情報に基づいて、当時のレムリアの様子を「レムリアの記憶」としてSF雑誌「アメイジング・ストーリーズ」に掲載し、大きな反響を呼んだ。
それによれば、太古の昔、地球にはアトランティスとレムリアというふたつの大陸が存在し、アトランティスにはアトラン人、レムリアにはタイタン人という種族が住んでいたが、今から1万2000年前、太陽から有害な射線が流れだすようになったため、彼らは地球を捨てて他の星に移住したのだという。
アメリカのコンタクティー、ダニエル・フライのコンタクト・ストーリーにもレムリアが登場する。彼は1950年7月4日、アメリカのニューメキシコ州ホワイトサンズで無人のUFOに搭乗し、UFOの中でア・ランという異星人と会話したというが、このア・ランは自らを、昔レムリアから火星へ移住した民族の子孫であると説明している。
アメリカのチャネラー、オレリア・ルイーズ・ジョーンズなどは、カリフォルニア州にあるシャスタ山の地下には、レムリア人の子孫が住み、テロスという地下都市を築いていると主張する。
一方、SFやファンタジーの世界になると、レムリアはしばしば太平洋に存在した大陸として、多くの小説や映画に登場している。太平洋に沈んだ古代の大陸というと、日本の場合はムー大陸の知名度のほうが高いが、欧米においては大西洋のアトランティス大陸に対応する太平洋の大陸はレムリアという観念が根強く広まっているようだ。
●参考資料=『謎の大陸』(ロイ・ステマン著/学研)、『現代オカルトの根源』(大田俊寛著/ちくま書房)、『レムリアの真実』(オレリア・ルイーズ・ジョーンズ著/太陽出版)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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