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プラズマから直接電気を取り出せば、中性子線が出ない! 夢の核融合発電の可能性が見えてきた。
6月19日、米国のスタートアップRealta Fusion社は核融合で作り出したプラズマから直接電気を取り出すDEC(Direct Energy Conversion、直接エネルギー変換)の試験に成功した。
この実験の成功には2つの史上初が含まれている。1つは史上初の核融合発電だということだ。
今、国際プロジェクトとしてEUで進んでいるITERは巨大な予算を使った核融合の実験炉だが、まだ火も入っていない。過去、あまたの核融合炉が使われたが、いまだに発電どころか投入エネルギーを上回る核融合反応さえ起きていない。2022年12月に米ローレンス・リバモア国立研究所でレーザー核融合炉が入力を出力を上回ったが、上回っただけで発電には程遠い。

今回、Realta Fusion社のDECで得られた電力は、電圧は約100ボルト、数アンペア程度で家庭用にも及ばず、電球をいくつか点灯させる程度だが、それでも初めて核融合発電に成功した。核融合炉はただの金食い虫だと考える財界にとっても、これは無視できない。すべての電気技術がエジソンの電球から始まったように、こんな小さな成功からイノベーションは始まるものだ。
2つめはDECの成功だ。核融合炉で発電というとなにか今までとは違う発電方法を想像するが、やっていることは巨大な湯沸かしだ。火力発電も水力発電も原子力発電も、タービンを回して発電することに違いはなく、それが水か蒸気かの違いで、蒸気なら重油を燃やして沸かすのか核分裂の熱で沸かすのかの違いだ。核融合も同じで、核融合で発生したプラズマの熱でお湯を沸かし、タービンを回す。
アニメではロボットが核融合炉を積んでいるが、あれも電気に変換しないとモーターは動かせない。ではロボットは核融合炉の隣に湯沸かしとタービンを載せて、蒸気で発電している? そういうことになる。間抜けだ。
DECにはこの間抜けさがない。プラズマから直接電力を取り出すのだ。
電磁力と力学には奇妙な類似がある。引力のように電荷はクーロン力で引き合い、ほぼ力学と同様のふるまいをする。力学でいうポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)は、高い場所にある物体は低い場所との差の位置エネルギーをもつが、電気も電位というポテンシャルエネルギーをもつ。電位が高い方から低い方へと流れると、その差が電圧となる。
核融合で高エネルギーを持った荷電粒子(プラズマを構成する電荷を帯びた粒子)の電荷をトラップして減速させれば、その差のエネルギーを電力として取り出せる。DECの基本的な考え方だ。
Realta Fusion社の核融合炉は磁気ミラー型だ。ドーナツ状の電磁石のトンネルの中をプラズマがぐるぐる回る一般的なトカマク型ではなく、炉はシリンダーの形をしている。両端は強力な磁石でプラズマを弾き返す。鏡のように荷電粒子は弾き返され、往復しながら加速し、核融合を起こす。

核融合で発生したエネルギーは、荷電粒子を激しく運動させる。運動エネルギーとして炉内にあるわけだ。加速した荷電粒子はエネルギーが高いためにミラーリングの磁気を超えて、一部は炉の中から溢れる。これをロスコーンといい、磁気ミラー型ではどうしても発生する。
Realta Fusion社はロスコーンをそのままDECに使えば、無駄なくエネルギーを回収できると考えた。そこで試験的に(核融合反応がまだ起きていない)ロスコーンの進行方向に電極を用意、ロスコーンが電極に向かって飛び込むように設定した。
電極には正の電荷をかけ、近づいてくる荷電粒子の電荷と反発、ブレーキがかかるようにした。粒子が減速した分の運動エネルギーがそのまま電圧に変換され、電極に電流が流れる。
火力発電や原子力発電では30〜40パーセント程度で、熱の損失は避けられない。DECは運動エネルギーを水を沸騰させるような媒体なしにそのまま電気に変えるので、損失は非常に少なく、電気へのエネルギー変換効率は90パーセント以上だ。
DECの問題は、荷電粒子しかトラップできないことだ。核融合反応の場合、現在はDT反応、重水素とトリチウムからヘリウム核(アルファ線)と中性子が発生する反応を利用している。中性子は電荷でトラップできないので、素通りしてしまい、電力にならない。発生するエネルギーの80パーセントが中性子なので、現状では無駄になるだけだ(中性子は中性子で熱源として使い、旧来の湯沸かしを行うというハイブリッド発電も考えられている)。
では中性子そのものを出さない核融合反応を使えば、エネルギーの無駄はなくなる。実際、その研究は行われていて、プロトン・ホウ素反応の場合、ヘリウム原子核(アルファ粒子)のみで、中性子が理論上発生しない。重水素とヘリウム3の反応も中性子を押さええることができる。ただし、こうした新しい反応を利用した核融合炉は費用が高額になるため、コストダウンの必要がある。

中性子が出ない核融合反応なら、粒子を電荷ですべてトラップできるので、放射能汚染がまったく発生しなくなる。炉の遮蔽も簡易になり、廃炉も容易だ。さらに小型化が可能になり、それこそロボットの動力源に核融合炉が夢ではなくなる。もっと小さな車にも飛行機にも積めるだろう。
Realta Fusion社の今回の成功は、100年後のエネルギーを変える大発明の一歩だ。これまでのエネルギーの概念ががらっと変わる。ガソリンエンジンのように発電が手軽になる未来がこの6月に始まったのだ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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