4失点で命がけ!? 独裁者への怒りを込めた珍プレー/サッカー都市伝説(6)

文=中野雄二

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    世界最大のスポーツの祭典にまつわる、ウソのような本当の話。

     サッカースタジアムには、ときに神々が舞い降りる。
     あたかも女神ブリュンヒルデが戦場を駆け回り勇敢な戦士の魂をヴァルハラ宮殿に招き入れるように、スタジアムに舞い降りた神々は名選手たちにスーパープレーを演じさせる。〝神の手ゴール〟のマラドーナを始め、ペレ、ベッケンバウアー、クライフら伝説の名選手たちのプレーは、神々が手を差し伸べたとしか思えないほど美しく、そして気高い。

     しかし、神々は気まぐれである。W杯のスタジアムでは、ときに名プレーとは別の、信じられないようなプレーが飛びだすこともある。

     1974年の西ドイツ大会。いまも語り草になっているザイール(現コンゴ共和国)代表の珍プレーは、グループリーグ第3戦のブラジル戦で演じられた。
     後半39分、ブラジルはペナルティエリア近くでフリーキックを得る。キッカーがボールの後ろに下がり、助走を始めようとしたそのとき……。
     観客はわが目を疑った。
     審判の笛が鳴ると同時に、壁に並んでいたザイールの選手が走りだし、ボールを大きく蹴ってしまったのだ。スタジアムはどよめいた。TVの解説者は爆笑しながら「アフリカ人はルールを知らないのか!?」と嘲った。

     イエローカードを出されたザイールのイルンガ選手は、ただ黙って下を向くだけだった。

     しかし──。
     その奇抜な行動には、悲痛な理由があった。問題のプレーを演じたイルンガ選手が、十数年後に初めて重い口を開いたのだ。

    「あのときは、とにかく少しでもいいから時間を稼ごうと思ったんだ。俺たちの命が、あのプレーにかかっていたから……」

     実は、試合開始直前、チームには一本の電話がかかっていた。受話器から流れてきたのは、悪名高きザイールの独裁者モブツ大統領の冷たい声。

    「もし今日の試合で4点以上取られたら、お前たち全員の命はないと思え‼」

     ザイール代表は1戦、2戦とも敗退。とくに2戦目のユーゴスラビア戦は0−9という大敗を喫し、モブツ大統領は激怒していたのである。 件のブラジル戦では、問題のプレーの前にすでに3点を失っていた。したがって、もしもフリーキックを決められれば、代表選手全員が絞首刑の憂き目に遭っていたかもしれなかったのだ。

     なお、試合は0−3のまま終了。死の宣告となる4失点までは至らなかった。イルンガ選手のプレーには、〝決死の覚悟〟が込められていたのである。それは、決して言葉にはできない、独裁者への怒りを込めたひと蹴りだった。

    自国代表に「死の宣告」をしたモブツ大統領(写真は1983年)。画像=Wikipedia

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