バナナを恐れる男の話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2026年6月号、第506回目の内容です。

    くちどけがよくない

     オーストラリアはシドニー中心街の歩行者天国「ピットストリートモール」を訪れた男性買い物客のG氏が、ふとした気まぐれで通りがかりに衝動的にやった何気ない行為が、とんでもない結果を招いてしまった。
     G氏は宣伝用に某エナジードリンク剤の液体を凍らせて作った彫刻細工を、ひと口ペロリと舐めたのだが、それがいけなかった。
     G氏の舌はそのまま氷細工にピタリと張りついて、取れなくなってしまったのだ!
     急遽、現場に駆けつけた救助隊が、氷細工に熱湯をかけて溶かそうとしたものの、どうしてもうまくいかなかった。
     2024年12月13日付「デイリーテレグラフ」紙豪州版によれば、最後に塩を氷にかけて氷点を下げる手段を講じて、ようやくG氏の舌を氷から解放できた。

    ノーム像復元協会

     カナダはブリティッシュコロンビア州ケロウナのケリー・ブレア氏は、とある早朝、自宅の前庭に飾られていた伝説の小人妖精ノームの陶器像数体が、いつのまにか姿を消しているのに気がついた。
     ノームはヨーロッパ伝承に登場する〝大地を司る精霊〟で、赤帽子と長髭の老人の姿で描かれる。
     ケリーは(どこかのだれかに盗まれたな)とさして気にも留めなかったが、それから数日経ってから、ひとりの老女が門口に立ち、ケリーに〝自家所有者様〟と表書きされた封筒を渡した。
     封筒の裏には〝ノーム像復元協会〟とあり、中にはノーム陶器像の切り抜き画像が入っていた。
     ケリーはあれやこれやと質問を浴びせたが、老女は一切返事を拒んだまま、ケリーを車まで連れて行くと、見事に新品同様にまで復元された数体のノーム陶器像を返してくれた。
     同じ地元では、ほかにも似たような体験をした者が数人いるが、いずれも〝ノーム像復元協会〟がどこのだれなのか、その正体を突き止めた者はなく、現在に至るまですべては謎に包まれている。

    バナナ恐怖症

     スウェーデンのジェンダー平等大臣パウリーナ・ブランドベルイさんは、世にも珍しい大の〝バナナ嫌い〟——英語でいう〝バナナフォビア〟、精神医学的にはバナナ恐怖症患者だそうだ。
     バナナフォビアの患者は、このフルーツをちょっと目にしたり、その匂いを少し嗅いだだけでも、不安になったり吐き気を催したり湿疹ができたり、正常な人には信じられぬような症状に襲われる。
     したがって公的な訪問や出席に際しては、必ず直前にお付きのスタッフが危険物の排除に入念な気配りをしなければならない。
     驚いたことに対立する政敵のテレサ・カルバリョさんも、じつは同じバナナ恐怖症だそうで、まさに同病相憐れむ仲なのだそうだ。

    赤リス騒動

     大都会ニューヨーク北方郊外のニューヨーク州パターソンに、突如として真っ赤なリスたちが出現し、地元の野生動物保護官たちはびっくり仰天した。
     だが、よく観察すると、彼らは頭から尻尾の先まで赤ペンキまみれになっていることが判明した。
     赤リスの群れを追跡調査したニューヨーク州保護官たちは、郊外の一軒家にたどり着いた。その家の主を問い詰めると、赤リス出現のばかばかしい裏事情がようやく判明した。
     主の男が白状したところでは、自宅の中庭にしょっちゅうやってくるリスたちがいつも同じリスなのかどうかを確かめるため、「罠を仕掛けていちいち捕獲しては、赤ペンキを塗りたくってまた逃がしてやった」という。
     後日、男は野生動物と動物虐待に関わる種々の罪に問われた。保護官たちはこう慨嘆する。
    「まさかこんなお願いをする日がくるとは思いもしなかったよ——〝どうかリスたちにペンキは塗らないでください!〟」
     いやはやどうも。

    俺は死んでない

     ブルガリアの名門サッカーチーム「レフスキソフィア」と「アルダカルジャリ」の試合がスタートする前に、両軍の選手たちはピッチ上に整列して、78歳で逝去した往年の名選手ペトコ・ガンチェフ氏に、1分間の黙祷を捧げた。
     その時所用で外出していた当のガンチェフは、このニュースを知ってびっくり仰天した。
     大急ぎで帰宅したものの、そのころにはマスコミや友人たちから問い合わせやお悔やみの電話・メールが、それこそ洪水のように殺到していて、当人はもちろん家族や関係者たちがこぞって、
    「それはまったくの誤報です! 当人はピンピンしてますよ!」
     と完全否定に大わらわとなったのは、むろんいうまでもない。
     2025年3月18日付「英ガーディアン紙電子版」によれば、ガンチェフ自身はこう語る。
    「この恐ろしいニュースを聞いた時は、自分でもほんとに肝を潰したよ。〝生き埋めにされる〟っていうのは、まさにこういう感じなんだなって思ったね!」

    幽霊退治人、大忙し

     オンライン雑用マーケット「エアタスカー」によると、英国ロンドンでは、2023年から翌年にかけての2年間で〝わが家に出る破壊的な幽霊や悪さをする悪霊〟を退治してほしいと、超常現象研究家——平たくいえばエクソシスト(悪魔祓い師)やゴーストバスター(幽霊退治人)の助けを求める依頼者の数が、いっぺんに60パーセント以上も急増し、おかげで幽霊退治の手数料も倍増して平均200ポンド(約4万2600円)に跳ね上がったそうだ。
     例えば、ロンドン在住のミア・コーム氏は自宅の棚板が、何度壁に取り付けてもなぜかひとりでに外れて落ちるのに困惑し、ゴーストバスターの助けにすがったそうだ。
     また、バラム在住のキャロン・C氏は自室の壁の中でしょっちゅう奇妙な物音がするのを怪しみ、最初はネズミのせいかと殺鼠剤を仕掛けたものの効果がなかったため、やはりゴーストバスターに助けを求めて、なんとか怪音を鎮めてもらったという。

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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