両手が刃物の武器人間が鬼退治! ちょっと変わった昔話の英雄/妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

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    今月は英雄譚! 昔話の英雄として抜群の知名度を誇る、あの人の物語の類話、そしてあの人と同じく鬼討伐譚が語られている昔話を補遺々々しました。ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!

    桃太郎のお供は「石臼」

     日本の昔話に登場する英雄といえば、だれを思い浮かべますか?
     謎多き出生。育まれる正義の心と勇気。自然と集まる異類の仲間。——旅。そして、悪をうち滅ぼし、たくさんの富を持ち帰って人々に安寧の日々をもたらす。
     やはり、桃から生まれた彼でしょうか。
     数ある類話から、愛媛県北宇和郡で採取された一話をご紹介しましょう。

     昔、あるところに住んでいたお爺さんとお婆さんが、それぞれ芝刈りに山へ、洗濯しに川へ行った、ある日のこと。
     洗濯をしていたお婆さんは、桃が流れて来るのに気づき、川から拾い上げ、食べてしまいます。
     美味しかったのでお爺さんにも食べさせてあげたくなり、「もうひとつ来い」と言葉に出しますと、なんとまた桃が流れてきたので、これを持ち帰って戸棚に入れておきました。
     やがてお爺さんが芝刈りから戻ったので桃を出してやろうと戸棚を開けますと、桃が勝手に割れ、中から子供が出てきました。この子は【桃太郎】と名づけられ、すくすくと育ち、ある日、「鬼を退治に行きたい」といい出します。 
     そして、作ってもらった黍団子を持って旅立ちますと、道中で【石臼】に出会います。    
     石臼は桃太郎に「黍団子をひとつくれたら、旅のお供をします」といいますが、桃太郎は「ひとつはだめだ。半分ならやる」と、半分だけ黍団子を上げます。
     石臼は、桃太郎のお供になりました。
     その後、【針】【ムカデ】【馬糞】【ムクロジ(ムクロジの木の実?)】と出会い、黍団子を半分だけ与え、彼らをお供にしていきます。
     たくさんのお供を連れて、ようやく鬼の家に到着しましたが、鬼は留守。
     このあいだにムクロジは囲炉裏の中に、ムカデは手水鉢の中、針は手拭いに、馬糞は門口で、石臼は門口の屋根に隠れ、鬼の帰りを待ちました。
     しばらくして鬼が帰宅し、囲炉裏の前に座って火にあたろうとすると、ムクロジが爆ぜて鬼は火傷をします。アチチチチ。すぐに手水鉢の水で患部を冷やそうとしますが、隠れていたムカデが鬼を刺し、手拭いで拭こうとすると今度は潜んでいた針が突き、「これはたまらん」と逃げ出した鬼は門口で馬糞を踏んですべって転び、そこに石臼が落ちてきました。
     ズタボロで身動きの取れないところに桃太郎がやってきて。
     鬼を殺してしまいました。

     ——この鬼が何をしたかは知りませんが、たった1匹を相手に容赦がありません。しかも、桃太郎は最後にだけ出てきてズタボロの鬼にトドメを刺しただけで戦ってもいないのです。宝物を持ち帰って家族と幸せに暮らしたという後日譚も語られていませんし、黍団子は半分しかくれないケチ太郎。それに他の昔話も混じっているような……。

     広く知られる桃太郎伝説とはいろいろ違っている気もいたしますが、この話が囲炉裏端で語られていた当時は、桃太郎の「いい面」がもっと描写され、「めでたしめでたし」で終われる英雄譚になっていたのかもしれません。なにせ類話の多い昔話ですから、記録の際に省かれた部分もあるでしょうし、採取時に語り手が端折ったことも考えられます。
     馬糞が黍団子をどのように摂取したのかとか、お婆さんの食べた桃・第一号の中には何も入っていなかったのかなど、他にも気になるポイントはたくさんありますが。

    両手が刃物の武器人間・うーし殿

     鬼を退治するのは、何も桃から生まれた彼だけではありません。
     あまり知られてはいないけれど、立派な鬼討伐譚が語られている英雄がおります。
     そのひとりをここにご紹介いたしましょう。

     ミシゲ殿という人のひとり息子【うーし殿】は、普通の子ではありませんでした。
     脛(すね)には手斧が、手には鉋(かんな)が生えていたのです。
     手足が刃物なので、外で遊ぶと友だちに怪我を負わせてしまいます。親が叱ってゲンコツでもくれようものなら、親にまで怪我をさせてしまいます。
     こういう危険な子ですから、手に余った両親は役所へ行き、「なんとか、うちの子を処分してくれませんか」と頼みます。
     役人が【うーし殿】を呼びつけてみると、やってきたのは、手斧と鉋を体から生やした、なんとも異様な姿の子ども。こんな子どもは役所でもどうすることもできません。処分は親の方でどうにかしろと断られてしまいます。
     困り果てたミシゲ殿は、山の中を歩いている時に大きな松の木を見つけ、良い案が浮かびます。この松の木で舟を作って、その舟で【うーし殿】を海へと流してしまうのです。
     ミシゲ殿は家に帰ると、さっそく【うーし殿】を漁に誘います。
     立派な松の木で舟を作ろうというと、【うーし殿】は素直に山までついてきます。
     松の大木の生える場所まで連れて来て、ミシゲ殿が「2日もかければ伐り倒せるだろう」というと、「こんなの今すぐ伐り倒します」と、【うーし殿】は本当に松の大木をたちまちのうちに伐り倒しました。なにせ、彼の脛は手斧ですから。
     続けて、ミシゲ殿は、言います。
    「うーし殿、お前は体が大きいから、木の根元の方で舟を作ろう。私は体が小さいから、末の方で小舟を作ろう」

     こうして、2隻の船ができあがります。
    「うーし殿、舟ができたな。何十人かの者に頼んだら、舟を海へと出せるだろう」
    「こんなもの、人に頼むまでもない」と【うーし殿】は自分の大舟を肩に担ぎ、父の小舟を左手に持って浜へと向かいました。
     ふたりの舟に乗って海に出ますが、ミシゲ殿は「お前は力が強いから早いな」といって【うーし殿】を先に沖へ行かせ、自分はササッと浜へ戻ってしまいます。
     やがて、【うーし殿】の舟は、鬼の島へと到着します。
     お腹が空いた彼は、島に上陸し、食べ物を求めてさまよいます。
     食べ物を探しているうちに鬼の家を見つけたので、勝手に入って漁っていますと、大鍋の中に人間が煮込まれていました。さすがにこれは食べられません。
     大樽を開けてみると中に味噌が入っていたので、とりあえず味噌で空腹をしのぎ、その味噌樽の中に自分の大便を入れておきました。
     そして自分は塩甕から塩を抜いて、その中に入って隠れていました。

     やがて【八人の鬼】が帰宅します。
     夕飯を作ろうとひとりの鬼が塩甕から塩を取ろうとしたので、【うーし殿】は手に生えた鉋で、鬼の手の甲を削り取ってしまいます。「手が痛い!」と鬼は泣き出します。
     別の鬼は味噌を取ろうと味噌樽に手を突っ込んで、大便を掴んでしまいます。
     手を舐めてみると、これが臭くて仕方がないので、「この味噌、腐っているぞ!」といいます。それを聞いて【頭鬼(八鬼のボス的な存在)】は「味噌が腐るはずはない」と自分も嘗めてみるのですが、「なるほど、ひじょうに臭い」。
     そんな会話を聞いていたら【うーし殿】はおかしくてたまらなくなり、つい塩甕から出てきてしまいました。
     鬼どもは、こいつが自分たちに糞を食わせたと怒り狂い、食ってやろうと追いかけてきました。
     庭へと逃げた【うーし殿】は、そこに生えていた松の木に登りました。
     追ってきた【頭鬼】の手が届きそうになったので、手斧の生えた足で蹴りますと、【頭鬼】は首が切れ、身体が真っぷたつになって地面に落ちました。
     その瞬間を目にした鬼たちは、我らが鬼だと思っていたが、アイツこそ鬼だと【うーし殿】を恐れ、宝を持って逃げだしました。

     鬼たちは逃げながら、長櫃(ながびつ=衣類などを入れる長箱)は重いので後で運ぼうと置いていったので、【うーし殿】は長櫃の中に隠れます。
     やがて戻ってきた鬼たちが長櫃を運んで舟に乗せ、海へ出ました。
     鬼の島を離れ、ひと息ついた鬼たち。
     長櫃に入っている酒で一杯やろうじゃないかという話になります。
     1匹の鬼が酒を取ろうと長櫃を開けて手を入れますと、【うーし殿】に手首を切られてしまいます。
    「あの糞野郎、長櫃の中にいるぞ!」
     鬼たちは一斉に海へと飛び込んで逃げてしまいました。
     舟にひとり残った【うーし殿】は浜に戻り、鬼が運んだ宝を舟の帆柱を使って担ぐと、家へ持ち帰りました。
     驚いたのは両親です。捨てた子が戻ってきたのですから。
     もう人に迷惑をかけることはないと安心していたのにと大泣きです。
    【うーし殿】は宝をすべて家の中に運ぶと、川へ行って水を浴びました。
     すると、不思議なことが起きました。
     川石で手足をこすると、足の手斧も手の鉋も取れて、立派な男の姿になったのです。
     彼は家に戻ると、生まれ変わったような自分の身体を両親に見せました。
    「私は人間の体になりました。もう心配しないでください」
     それから彼は親を大切にし、幸せに暮らしたといいます。

    【参考資料】
    関敬吾『日本昔話集成 第二部 本格昔話1』角川書店
    『山口麻太郎著作集3歴史民俗篇』佼成出版社

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

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