寿命を伸ばす物質LCAのメカニズムとは? 不老長寿の妙薬「エリクサー」の有力候補か
中世の錬金術師たちが追い求めた不老長寿の秘薬「エリクサー」はこの世に存在するのか――。最新の研究でその有力な候補が見つかったようだ。
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愛犬家にとっての悲哀は、イヌの寿命の短さだ。そこで現在、イヌの寿命を延ばす研究が進行中だが、これは人間にとっても光明になるという。
愛犬と過ごす楽しく充実した日々は、あまりにも短いと嘆く愛犬家は少なくない。しかし、一部の科学者は、老化の根本的な生物学的メカニズムにアプローチする薬を開発することで、老化に起因する病気の多くをコントロールできる可能性があると考えている。
長寿研究においてイヌを対象にする意味は大きい。犬種間の多様性がきわめて大きいため、それぞれの違いを研究することで、老化のプロセスについて多くのことを明らかにできるのだ。
アフガンハウンドもヨークシャーテリアも、外見は大きく異なるが全ての飼いイヌは同じ種、イヌ科に属しており、遺伝子の大部分を共有している。DNAが十分に類似しているため、異なる犬種のイヌ同士でも交配して子犬を産むことができる。
老化はきわめて複雑なプロセスだが、犬種間のわずかな遺伝的差異が寿命に大きな差をもたらす可能性も示唆されている。ほんの数個の遺伝子が動物の寿命を左右するのであれば、ピンポイントで働きかける医療的介入の道が見えてくるのだ。
イヌは加齢とともに人間と同じような病気にかかりやすく、数千年にわたる家畜化を通じて、イヌの腸内細菌(マイクロバイオーム)は、マウスやブタよりもはるかに人間に近いものになっている。したがって、将来の人間への応用を考慮するうえで、イヌは老化研究の絶好の対象であるという。
また、飼い主にとっては残念なことだが、イヌの寿命が短いことは長寿実験にとっては有利である。動物の寿命が長ければ長いほど、長寿治療の効果が出るまで待つ時間も長くなるためだ。そのため、寿命が10年前後の中型犬から大型犬は、人間よりも現実的な研究対象となるのだ。
こうした理由から、長寿科学者のダニエル・プロミスロウ教授とマット・ケーバーライン教授は、2014年に「ドッグ・エイジング・プロジェクト」を立ち上げた。
「ドッグ・エイジング・プロジェクト」はいわゆる縦断研究であり、基本的に研究者が同じイヌを長期にわたって追跡し、どのように老化するか理解を深めるという。
5万匹のイヌの飼い主から詳細なアンケートを収集することで、研究チームはすでにイヌがより長く健康でいるために役立つものについて、興味深い知見を得ている。
「ドッグ・エイジング・プロジェクト」の初期段階における発見の一つは、間欠的ファスティング(断続的断食)がイヌの寿命を延ばす可能性があることだ。
5万匹のデータから、食事を1日1回にしているイヌは加齢に伴うさまざまな疾患を発症するリスクが有意に低くなることが判明したのだ。
間欠的ファスティングのメカニズムはオートファジーと呼ばれるプロセスにあり、断食によって細胞から古い成分を排出し、新しい成分と置き換えることが促され、細胞の若さが保たれるのだ。
この間欠的ファスティングを行わなくともオートファジーを起動させる薬剤として「ラパマイシン」が存在する。そしてラパマイシンは、すでにヒトにおいても有望な効果を示しており、科学的に健康寿命を延ばす可能性が最も高い薬剤の1つと考えられている。
「ドッグ・エイジング・プロジェクト」では、2026年から580匹のイヌに1年間ラパマイシンを投与した後、さらに2年間観察して、薬の長期的影響を評価する予定である。すでに短期間にわたる2件の小規模研究で、イヌにとってラパマイシンが安全であることが確認され、高齢犬の心臓に良い影響があることも示唆されている。来年から行われる試験では、ラパマイシンの効能のさらなる解明も期待される。
イヌの長寿については民間でも研究が加速している。この分野でトップを走っているのは、2019年以降、220億円以上の資金を調達し、実験薬「LOY-002」がアメリカ食品医薬品局(FDA)から「有効性が期待できる」として暫定承認されているロイヤル社である。
同社の研究にはすでに1000匹の犬が参加しており、さらに300匹が参加予定だ。現時点で「LOY-002」の成分は公表されていないが、ウェブサイトでは「カロリー制限模倣薬」と説明している。つまり、イヌの細胞にカロリー制限をしていると錯覚させ、オートファジーを起動させることを意味している。
ロイヤル社の他の薬剤、「LOY-001」と「LOY-003」は、体重18kgを超える大型犬向けに特別に開発されている。これは、大型犬と小型犬の間の重要な生物学的差異であるインスリン様成長因子1「IGF-1」と呼ばれるホルモンを標的としている。
IGF-1は成長の調節に重要な役割を果たし、動物界全体で体の大きさと寿命の両方に関連している。大型犬はIGF-1をより多く産生するため、小型犬よりも早く老化する傾向がある理由を説明できる可能性がある。
アメリカで約1000万匹のイヌを対象に行われた調査によると、大型犬種の平均寿命は9.5歳であるのに対し、小型犬種は13.5歳と長寿であった。よく知られていることだが、実際に小型犬は大型犬よりも40%以上寿命が長いのだ。
たとえば大型犬に分類されるゴールデンレトリバーは平均寿命が10~12歳ほどといわれているが、ミニチュアダックスフンドは13~16歳ほどである。
ロイヤル社は、大型犬のIGF-1レベルを低下させることで、動物がより長く、より健康に生きられることを予期している。もしこれが真実であれば、IGF-1が人間の老化に与える影響を解析することで、将来的に人間の寿命を延ばすこともできるかもしれない。
興味深いことに、科学者たちはすでに、100歳を超えて生きる人々のIGF-1遺伝子に変異があることを発見しており、これも人間の長寿との関連を強く示唆している。
愛犬と過ごす時間を延ばすためのイヌの長寿研究が、人間の健康寿命の延長に密接に繋がっているとすれば希望は膨らむばかりだ。
【参考】
https://www.sciencefocus.com/nature/dogs-ageing-breakthrough-humans
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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