レインボーマンはレ陰謀マンか?「インドの山奥で」問題を考える/大槻ケンヂ・医者にオカルトを止められた男(7)
「インドの山奥で」から始まる替え歌は亜種が亜種を産み、原曲や作品よりも有名になった。その意図は……お釈迦さまでも、気がつくまい。
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
学校のクラスにいた「見える」同級生が賑わせた、ひと時の悪魔騒動。ほんのイタズラだったのか、それとも…?
プーチン大統領がエクソシストになるのだそうだ。もうなったのかもしれない。10月27日「Newsweek」ネット記事は「ロシア正教もプーチンを『首席エクソシスト』に任命」とプーチン悪魔祓い師化計画を報じている。なんでも、今までウクライナの非ナチ化を軍事侵攻の理由にしてきたロシアだが、このところ旗色が今一つのためなのかわからないが、その理由を、ウクライナと西側諸国がサタニズムに毒されているので、この悪魔崇拝主義化、いうなればサタン化を阻止するためと改め、プーチン大統領を首席エクソシストとして、世界のサタン化に敢然と立ち上がるのだと宣言してみせたわけだ。サタンVSプーチン……中二病かな?
思わず心配になってしまうプーチン首席任命であるが、エクソシストと聞くと、昭和の生まれとしてはプーチンが神父服着て首の180°回ったリンダ・ブレアーに聖水をかける図を想像せずにはいられない。
74年日本公開の映画「エクソシスト」は、リンダ・ブレアー演じる少女に取り憑いた悪魔と、悪魔祓いの神父・エクソシストとの戦いを描いたホラー映画だ。当時大ブームになった。特に少女の首が180°回転したり緑のドロドロしたものをウヴァーッ!と吐いてみせる場面など、今観るとちょっと笑っちゃう愛嬌もあるものの、小学生の僕にはとても正視できない恐ろしさであった。
どのくらい恐かったかというと、この映画の続編「エクソシスト2」(77‘)を、小学校の同級生数人で観に行こうと計画を立てていたのに、当日になって「ちょっとお腹が痛くなって」とあからさまなおじ気付きでドタキャンした程だ。その後しばらく学校でヘタレの烙印を押された状態になりアレはつらかった。同級生の中には好きな女子もいて痛恨の逃走劇と言えた。プーチンだったら率先して観に行ったのだろうなぁ……そんなポイントでプーチンとおのれを比較してなんになる。
ところで僕の小学校にはエクソシストがいた。小5~6の同級生だ。彼が祓っていたものが悪魔なのか悪霊なのか覚えていないのだけれど、とにかく彼は「魔的な何かを祓えし者」と自称していたから、広義の意味での小学生エクソシスト、なのであった。クリクリした目の美少年で、運動も勉強もよく出来た。彼の父が商店をやっていた。僕もよく店に買い物に行っていた。無口なお父さんだった。父と逆に快活にしゃべる同級生の彼がある日「見える」と告白したのだ。
「オレ『見える』んだよ。例えばオーケンの横に今、霊が2つ、見える」
もしかしたら「悪魔」あるいは「魔物」と言ったかもしれない。いずれにせよ唐突な彼の『見える』発言に同級生数人が「ええっ」と騒然となった。「ほら、そこにもいる。ホラ、あっちにも」彼はそう言って四方を指差した。そして言ったのだ「でも大丈夫、オレ、祓えるからさ」クリクリした目の美少年はニコッと笑った。
それからしばらくの間、彼を中心に同級生5~6人が異様な状態になってしまったのである。休み時間や放課後、彼が「ホラっ、そこにいるぞ!」と叫ぶと皆が「ワーッ!」と悲鳴を上げて逃げまどった。「ダメだ、そこにもいる!」また同級生たちがパニックになって走り回る。「大丈夫、ここのやつらはオレがやる。でもピロ……」ピロとは、そういうアダ名の同級生男子のことである。家が僕の近所で確か卓球をやっていた。大人しい男子であった。
「ピロ! お前はあそこにいるやつらと戦え」
今にして思ってもあれは見事な催眠術師の仕事……あるいは洗脳であったと思う。彼の恫喝一発で、同級生のピロは一瞬『え? どうすればいいの?』という表情になった後、ふらふらっと小学生エクソシストの指差す方向に二~三歩進んで、そこでエイッ、と右ストレートを、弱々しく放ったのだ。
「そうだピロ、お前のパンチ効いてるぞ。もう一発だ」
言われるがままピロが今度は逆の手で拳を突き出した。再び弱々しく。
「やったぞピロ、相手は倒れた。その調子でそこらのやつらを倒すんだ」
言われてピロはその気になった。「うん」と答えて見えない敵たちに向かってパンチ、キックを連打し始めたのだ。それは校庭の隅だったか裏だったか、ピロの対魔エアファイトはその後も何度か見た。
さすがに『……それは無いんじゃないかなぁ』と僕は思ったのだ。でも、小学生エクソシストを中心に、同級生たちはこの異様な状況に、なんと言ったらいいだろう……そう、フィーバーしてしまった。ほんの数週間ではあったが、僕らは「見える」彼の指差すポイントから「ぎゃぁっ!」「やべっ」と叫んで逃げまどった。そして指差す彼は得意気に微笑み、そのかたわらで、ピロが渾身のエアファイトをし続けた。パンチだピロ。キックだピロ。
昭和の小学生は高学年と言っても今の子より全然ウブだったから、男子と女子が休み時間や放課後に一緒に遊んで騒ぐなどということは滅多に無かった。けれど小学生エクソシストは男女隔てなく「そこにいる。そこにも」とやってみせた。結果、男子と女子が共にワーキャー騒ぐという空間が生まれた。僕たちが彼の言葉を信じたかったのは、異性が気になる年頃、という要因もあったのではないかと思う。
『女子と(男子と)一緒に騒げるなんてチャンスだ』
しかし僕らはやはりウブだった。その後に彼が「お祓いのためには股間周辺のツボを指圧しなければいけない」と言い出し、女子を寝かせ男子にそれをやらせようとしたところ「そんなことできるか」と、ハバちゃんという男子が怒り出した。ハバちゃんの怒りにハッと皆目が覚めた。その騒動は急速に終息し、ピロもエアファイトをやめた。
「エクソシストなんてウソだ。皆で彼を明日から仲間はずれにしなくては」と言い合ったが、翌日学校へ行くと「よっオーケン」と“元”小学生エクソシストがいつもと変わらぬ調子で話しかけてきた。目はやはりクリクリしていた。仲間外れの話はウヤムヤになった。彼が今どうしているのか知らない。魔物より人が一番コワい、などとよく言う。それを最初に僕に教えたのは彼、小学生エクソシストだ。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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