滅亡予言は喜劇である! 明るい未来のための集合不安/シークエンスはやとも 噂のホウダン 第8回

文=シークエンスはやとも 構成=倉本菜生 イラスト=ネルノダイスキ

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    霊界と芸能界、そして都市伝説界隈から世界を見る芸人が、気になる噂のヴェールをめくる。今回は「滅亡予言」。未来のためのネガティブカウンター、みんなで滅べば怖くない!?

    7月5日の大災難を乗り越えて……

     都市伝説を愛してやまない吉本興業所属の霊能者、シークエンスはやともです。

     この号が発売されているころには、巷でささやかれていた「2025年大災難予言」の7月5日を過ぎていますが……日本、どうなっていますか?
     この記事を読んでいるということは、少なくともあなたは生き延びたわけですね。ほっと安心している人、がっかりしている人、次の予言を心待ちにしている人……気持ちはさまざまだと思います。

     それにしても、人類は終末の話が大好きですよね。今回の予言は、台湾や香港でもちょっとした騒動を起こすほどでした。皆、なんでこんなに滅亡に関心があるんでしょうか。

     その答えを僕は、「人間の生存本能からくるもの」と考えています。

     実は、今回のような滅亡予言や、世界を揺るがす大事件は13年周期で発生しています。前回が2012年のマヤ予言。その前が1999年のノストラダムス。こう見るとただの流行の周期にも思えますが、1986年にはチェルノブイリ原発の事故が起こり、その13年前の1973年にはオイルショックが始まっていて、実際に世界を揺るがす大事件が起きていました。
     風説や事件の違いは大きくありますが、不思議なことに、13年周期で終末の声が高まる。つまり滅亡予言はただの妄想ではなく、「生き残らねば」という人類の意識の表れなのではないでしょうか。
     恐るべきことが起きたとき、僕たち人間は「何としてでも生きねば」という方向に意識が働きます。かつては、「人口爆発で食糧難が来るから、人を減らさなきゃいけない」と恐れられていた時代があった。だから人が一気に減る、滅亡する予言が流行った。

     本連載の第2回目で語ったように、今回は少子化への危機感から、限定的な滅亡予言が広まりました。周期的に意識が反転しているんですよね。

     1998年に開始された超心理学の実験「地球意識計画」では、世界中のハードウェア乱数生成器が乱れたタイミング――それはもしかすると、人々が「もう終わりかもしれない」と強い不安を共有した瞬間に、実際に大災害やテロが起こったとされています。

     でも僕は、みんなが不安なときこそ、「生きたい」って気持ちが強くなっている状態なんじゃないかと思うんです。
    「滅亡してほしい」といっている人ほど、本当は「死にたくない」と願っている。これは、僕が芸人かつ霊能者として、多くの人を見てきて気づいたことです。
     社会や自分の置かれている環境など、現実がつらいと感じている人や、「これ以上生きる理由がない」と思っているほど、滅亡予言に惹かれる傾向にあります。だからこそ、日付が指定された滅亡予言に興味を持つ。「〇月〇日に滅亡するらしいから、その日までもう少し頑張ってみようか」と、生きるモチベーションになるんです。

    大災難を過ぎたら人口増加に転じるかも

     今の世の中は、多様性ですべてが肯定されているようで、実はチャレンジする機会を奪われている。
     でも「〇月〇日に人類が滅亡して死ぬんだ」と思えば、行動する勇気もわいてきます。好きな人には告白しておこう。行ってみたかった場所に行ってみよう。滅亡予言は、願望を叶える活力のきっかけになるのです。

     世の中には、生きる理由を深く考え出すと虚無感を覚えてしまう人もいます。でも滅亡する未来があれば、人間が本来考えるべき「生きる」という目的に立ち戻れて、サバイブ精神が復活する。滅亡予言は、現実に絶望している人たちに必要な生存装置なんです。

     では、予言が外れてしまった今、滅亡に希望を抱いていた人たちはどうしているのか?
    「滅びなかった……」と、さらに絶望を深めてしまっているのでしょうか。
     僕はそうは思いません。「7月5日、日本がなくなると思ってたのに!(笑)」って、ネタにしている人も多いはずです。もしくは、信じていたからこそ何か行動を起こして、「乗り越えたぜ!」と、明るいイズムで生きているかもしれない。
     なんにせよ、苦痛を笑いに変えながら、明日も生きようとしているはず。

     それは芸人の笑いにも通じます。
     僕は人生で、親父の会社の倒産や実家全焼を経験しています。自分では恵まれて楽しい人生を送っていると思っているけど、人に話すと「苦労しているんだね」といわれる。でも同じ話を芸人仲間にすると、一撃で爆笑が起こります。似た地獄を見てきた人たちが、お笑い界には多いからです。
     貧困、一家離散、身内の自殺……潰れてしまいそうな現実を、なんとか笑いに変えてきた人たちなんですよ。耐え難い経験を、笑うという視点で考えられたから生きられて、笑いに救われたから芸人をやっている。
     だから、人の不幸を「お前それ最悪だな」って笑い飛ばしてあげることで、「そのしんどい出来事、笑っていいんだよ」って伝えているんです。一種の傷の乗り越え方、エネルギーの変換です。同情して寄り添うよりも、よほど強い支えになると僕は思っています。

     滅亡予言も同じで、「しんどさを笑いに変える」という視点で受け取れたら、救われる人もいるかもしれない。本気で落ち込んでいる自分って、意外と笑えるくらい必死だったりする。そこに気づけたら、ちょっとだけ生きやすくなります。

     それに、放っておいてもまた13年後には新たな滅亡予言がやってきますから。これまで人口爆発による危機、現在が少子化不安なので、次は再び人口増加による恐怖のターンでしょう。きっとすでに次の予言に向けた布石が存在していて、10年後くらいに発見される。そして3年かけて大衆の間で騒がれていくんだと思います。

     こんなことをいうのは、本末転倒かもしれないですが……本当は、滅亡という言葉をもっと派手に、もっと具体的に語った方が、きっと多くの人が興味を持ってくれるのでしょう。でも僕が大事だと感じているのは、滅亡予言を抜けた先にある感情です。
    「ああ、なんだ。予言なんて当たらなかったじゃん」と笑えたときこそが、実は一番、幸福度が高いはず。今の僕たちは、そんなタイミングにいるのかもしれないですね。

    (2025年 月刊ムー8月号)

    シークエンスはやとも

    1991年7月8日、東京生まれ。吉本興業所属の〝霊が視えすぎる〞芸人。芸能界から実業界、政財界にも通じる交友があり、世相の表も都市伝説も覗いている。主な著書に『近づいてはいけない いい人』(ヨシモトブックス)、『霊視ができるようになる本』(サンマーク出版)など。

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