アメリカ史上唯一の霊による殺人「ベル・ウィッチ」事件をめぐる謎/テネシー州ミステリー案内
超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
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アメリカ南東部に位置するジョージア州。東はサウスカロライナ州と大西洋、西はアラバマ州、南はフロリダ州、北はテネシー州とノースカロライナ州に接している。ニックネームは「ピーチ・ステート」。高品質な桃の生産地として世界中に知られていることに由来する。桃はジョージア州のアイデンティティであり、州の旗やナンバープレートデザインにもあしらわれている。
1996年のオリンピック開催地となった州都アトランタは南部経済圏の中核であり、あのCNNの本社があることでも知られる。ジョージア州はアトランタ大都市圏を中心に文化や経済などさまざまな面で進化を続けるエネルギッシュな州として認知されている。
北部に目を転じると丘陵地帯が多くなり、ピーチ・ステートらしいのどかな風景が広がる。今回紹介する話の舞台は、そんな美しい田園風景の中にあるラニアー湖だ。四季を問わず観光客でにぎわう人造湖だが、青く輝く美しい湖面からは想像もできない呼ばれ方をすることのほうが多い。「呪われた湖」、「アメリカで最も呪われた場所のひとつ」——ラニアー湖の歴史に少しでも触れた人なら、こういうイメージも納得できるという。
500人を超える死者、失われた町、湖底に沈んだ墓地、青いドレスを着た女の幽霊……と、ラニアー湖にまつわる怪異は数多く存在する。それら一つひとつの物語が絡み合い、恐怖と悲劇の象徴というイメージが形成された。しかも、この地にまつわる怪異は単なる都市伝説ではなく、実際の事故、未解決の死亡事件、そして忘れ去られた歴史がないまぜになったものだ。
ラニアー湖は、前述の通り1956年にアメリカ陸軍工兵隊によってチャタフーチー川をせき止めて造られた人工湖である。詩人シドニー・ラニアーの名を冠し、洪水制御、水力発電、飲料水供給、そしてレクリエーションを目的として設計された。
しかしこの巨大プロジェクトには大きな代償が伴った。湖の造成にあたり、州政府と連邦政府は周辺の土地を買収し、町や教会、農地、墓地までもが湖の底に沈められてしまったのだ。特筆すべきはオスカービルという町だ。1912年、人種暴動によって強制排除されたこの町の住民たちはリンチ被害に遭い、住んでいた家を燃やされたりしたことが原因で、ほかの町に移らざるを得なくなった。ゴーストタウン化したところで町ごと買収され、そのままの状態で湖底に沈められた。沈められる前に多くの墓が掘り起こされ、棺が別の場所に移されたが、未確認のまま湖底に残された墓も多かったようだ。湖底に沈んだ多くの建物や墓石が、後になって生まれる幽霊伝説のベースとなったことは想像に難くない。
ラニアー湖では実際に500人以上が命を落としている。多くは水難事故やボートの衝突、あるいは原因不明の溺死だった。水泳の経験が豊富な人や、装備を整えたダイバーまで突如として水中で姿を消してしまったという事例もある。湖の水は濁っており、水中には倒木や鉄筋、建物の残骸などが多数存在するため、救助活動は困難といわれている。
2011年には十数件の溺死事故が立て続けに発生し、現地の救助ダイバーの多くが「水の中で目に見えない手に腕や足をつかまれた。ものすごい力で底の方に引っぱられた」と語った。それほど深くない場所を泳いでいる人たちが突然水中に引きずり込まれたり、足を取られてバランスを崩したり。これは水中の障害物や植物が絡まったからだと説明されることが多いのだが、それらがない場所で引きずり込まれたという人もおり、単なる偶然とは言い切れない無気味さが漂う。
ラニアー湖の伝説の中でも特に有名なのは、「青いドレスを着た女」の話だ。1958年、ディリア・メイ・パーカー・ヤングとスージー・ロバーツという2人の女性が、ラニアー湖にかかる橋を走行中に車ごと湖へ転落した。事故後、車もスージーの遺体も発見されず、ディリアの遺体のみが湖岸に打ち上げられたが、当時は身元不明のままだった。その後、湖の近くで手のない女性が夜な夜な橋の上をさまよう姿が目撃されるようになる。青いドレスをまとい、血まみれの腕を抑えながら叫び声を上げるのだ。
1990年、とある釣り人が湖に沈んでいる車両と遺体を発見し、それがスージー・ロバーツと判明した。以降、幽霊の目撃例は減ったが、いまだに「青いドレスの女」は湖にかかる橋の周辺で目撃され続けているという。
怪現象はそれだけではない。夜の湖面をすべるように移動する無人のボートに近づこうとすると、突如として消えてしまう。また、水面近くを飛ぶような光の球体、霧の中を横切る不気味な影まで目撃されている。さらに、湖岸でキャンプしていた人や湖沿いの住宅に住む人たちが、「助けて」という声やすすり泣くような声を聞き、外へ出てみると誰もおらず、声の主は見つからないという報告も多い。
ラニアー湖の怪異は、今の時代もアメリカ国内外のメディアでたびたび触れられている。特に頻繁に取り上げる媒体は心霊系のテレビ番組やYouTube動画、ミステリー系ポッドキャスト、そしてTikTokやInstagramなどのSNSだ。新しいメディアを経由して怪異を知る人が増えた現在、ラニアー湖はジョージア州随一の観光地となっており、年間1100万人以上もの人々が訪れる。バーベキューを楽しむ家族、ボートを楽しむカップル、崖から飛び込む若者たちなどで賑わう一方、地元住民の間では、「ラニアー湖には近づくな」という暗黙の了解が根強く存在する。夜には湖に入らない。湖水に近づくときには必ず十字架を持参する。こうしたことが今なお、確実に行われているのだ。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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