夏越の祓に巳年の精霊に祈る! 呪術師き りん「ウロコ剥がし」で罪ケガレを落とす実践法

文=本田不二雄(神仏探偵) 取材協力=まじない屋きりん堂

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    毎年6月末には全国の神社で大祓(夏なこし越の祓)が行われる。一年の折り返しを迎え、リセットを果たす機会だ。嶽啓道・き りん師に、一願成就を実現する特別なまじない秘法を公開していただいた。ぜひ試みていただきたい。

    一、巳から出たサビを落とし、脱皮を果たす方法

    巳年の折り返しにリセット(祓え)と再起動

    「大祓」という神道の行事がある。
     毎年6月と12月の晦日、すなわち、新暦6月30日と12月31日に行われる「ハラエ(祓え)」の儀礼だ。「祓え」とは、一般に罪ケガレや厄災を除くための行事や作法全般を指す言葉だが、とくに「大」の文字が冠せられているのは、天下万民の罪ケガレを祓うという大きな目的(本来は宮廷内での作法だった)が想定されているためだが、平安時代後期には、民間行事のひとつとして広まった。

    「よみ人知らず」のこんな和歌がある。

    「水無月のなごしの祓する人はちとせの命のぶというふなり」(『拾遺和歌集』)

     水無月は旧暦6月の異称で、「なごし(夏越)の祓」は6月末の大祓のこと。つまり、この時期の祓えは、民間でも「千歳の命を延ばす」行事として重んじられていたことを物語っている。
     ともあれ、一年のちょうど半分にあたる6月末にそれが行われるのは、一年の折り返しを迎え、心身にたまったケガレを落とし、リセットするタイミングだと認識されていたわけである。
     ちなみに、現在伝わっている夏越の行事は、神社で行う「茅の輪くぐり」や「人形代の祓い」のほか、粽を食べる風習といったところだろうか。実際のところ、これらはやや形式的、もっといえば「やった感」を満足させることにとどまっている感は否めない。
     もちろん、伝統として伝わっている行事や風習はそれとして、大切なことは、心身ともに実感できる「祓え」の実践であり、さらにいえば、「祓え」ののちに何を行うかだろう。なお、リセットとは「元に戻すこと」「最初からやり直すこと」だが、リセット=初期化だとすれば、次に行うのは再起動である。
     そこで今回紹介するのは、実際の行動をともなうリセット(祓え)術の紹介と、再起動のエンジンとなる特別な呪法の提案である。

    嶽啓道の大祓は身から出たサビ落とし

     そこで、嶽啓道のき りん師にご登場願おう。

     嶽啓道(洞呪術)では、祓うべき罪ケガレを「サビ」に譬えている。

    「『身から出た錆』という言葉がありますよね。これを洞では、『巳(年)から出たサビ』と呼び習わしていました。これは巳の年はサビやすいという意味でもありますが、それだけではなく、前の巳年から12年(巳年から辰年まで)のいろいろな行いによってついたサビでもあります」(き りん師)

    「身から出た錆」の慣用句は、「自分のした行為の結果として、自分自身が苦しむこと、または災難を受けること」をいう。つまりサビとは災難の根本原因であり、それは自分のした行為によって生じている。四文字熟語でいうところの「自業自得」である。
     ところが、語呂合わせ的な解釈拡大を駆使する洞呪術の文脈では、身は巳であり、「身から」は「巳年から」であるという。それにより、ただの教訓めいた慣用句が、十二支12年サイクルの運勢観に変換されているのが興味深い。

    「サビ落としって、身(心身)を削ることでもあり、やや痛みをともなうものでもありますが、それでも錆びたものを磨けるか、磨き直しが効くのか、さびを落として少し細くなっても自分をやり直すのか、そこが重要なポイントです。
     では、サビをどうやって調えるのか、サビをそのまま持ち込んでこれからの12年を迎えるのか、いったん落としてサビない生き方にするのか。それを決める最大のチャンスが、今年の夏なんですよね」(き りん師)

    神社の大祓行事に登場する茅の輪(大神神社)。正面から最初に左回り、次に右回りと8字を描いて計3回くぐることで、半年間にたまった病と穢れを落とす。

    ウロコを剥がし脱皮を促す大掃除と断捨離

     ちなみに、山岳龍神信仰の流れをくみ、地霊詠みと地龍鎮めに従事する、き りん師の世界観では、辰年から巳年への年回りは「辰年で龍のウロコが大きく仕上がって、それが剥がれながら巳年になっていく」ときにあたるという。
     つまり、師によれば、巳年に生まれた「巳さん」が12年をかけて生長し、天がける巨大な龍(辰)となり、次の巳年でウロコを剥がし(脱皮をし)、再生を果たす。その際に、「その大きなウロコを全とっかえするのがこの夏の大祓のタイミング」なのだという。

     そこで提案するのが、嶽啓道流の大祓だ。師の言葉を借りれば、「巳年のウロコ剥がしとウロコ磨き」の実践である。

    「願掛け(まじない)の作法も、余計なウロコもしっかり剥がして、余計な皮も全部とっぱらって、ツルツルのプルンプルンになっておくような状態でしたほうが、素直に通りやすい」とき りん師。

     では、“ウロコ剥がし”の方法だが、き りん師推奨の方法はこうだ。

    大掃除(断捨離)をする。
    「『身から出たサビ』」が『巳(身)のサビ』として顕在化するのが今年です。脱皮(ウロコ剥がし)を実感するいちはんよい方法は、巳(身)の回り(衣食住)の環境を物理的に整えること。つまり大掃除です。できれば、要らなくなった過去のモノを思い切って処分する断捨離を断行すると、なおよいと考えます」(き りん師)
    「行動習慣改めノート」を書く。
    「巳(身)のサビをつくってしまうのは、いつの間にか身についてしまった生活習慣や思考法、自身の行動そのもの。その振り返り(反省)を確かなものにするには、なんとなく反省するだけではなく、自分自身の問題点を具体的にノートに書き出してみること。書くことで、意識も変わります」(き りん師)
    社寺に詣でる。
    「①、②とセットで詣でることをお勧めします。基本は氏神様への参拝ですが、行きたかった聖地があれば、そこの神社でもОK。気持ちを切り替える意味でも、区切りをつける意味でも、おかげ様(精霊)のはたらきを促す意味でも、善き運びです」(き りん師)

    き りん師(まじない屋きりん堂店主)。九州の島で営まれていた土着民俗宗教・嶽啓道(洞呪術)の最後の継承者。6月末にはじめての単行本『嶽啓道 まじなゐ作法』(共著)が刊行予定。

    『嶽啓道 まじなゐ作法』
    駒草出版より¥1,870(税込)にて、2025年7月8日発売予定。

    (月刊ムー 2025年7月号掲載)

    本田不二雄

    ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。

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