魔女狩りの犠牲者たちへの哀悼を込めたタータンチェック「スコットランドの魔女たち」の秘話
伝統織物タータンチェックに悲劇の歴史も織り込んまれている……。「スコットランドの魔女たち」の名誉回復キャンペーンとして、現地在住ライターが歴史を紹介。
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幻獣、妖怪、妖精の伝説が数多く存在するミステリー大国スコットランド。その北部ハイランド地方には、「幽霊が出る」という古城ホテルがある。現地在住ライターが、そのいわくをレポート。
ハイランド地方の主要都市インヴァネスから車で約30分のところにある町ディングウォールに、「タロッホキャッスル」という古城がある。
城の基礎は12世紀のものらしいが、タロッホキャッスルと呼ばれるようになったのは16世紀のこと。1762年から1917年までは、当地の領主デイヴィッドソン一族の居城であった。第2次世界大戦中には、ダンケルクの戦いでフランスから撤退したイギリス軍の負傷兵を収容する軍病院として使われた時期もあり、その後1947年から1976年までの期間は地元中等学校の女子寄宿舎となっていた。
現在のようにホテルとして使われるようになったのは1988年のことである。
この歴史あるタロッホキャッスルで、数多くの心霊現象の目撃証言や体験談が報告されている。
現象の多くは、客室8と客室15で起こっており、ベッドで眠っていると、急に胸の上にだれかが座っていったという体験談が多い。なかには、実際にふたりの少女の霊が自分の胸の上に座っているのを見たという宿泊客もいるそうだ。
さらに、ある宿泊客夫婦の体験によると、妻が「睡眠中、だれかに足を引っぱられるような感覚があった」という。そして、その翌日の夜には、一緒に連れてきていたペットの犬の吠え声で夫が目を覚ましたところ、かたわらで眠っている妻の身体が、まるで何者かに足を引かれているように動くのを目撃したという。
タロッホキャッスルでは、亡霊が何体も徘徊しているという話もあるが、そのうち正体が判明している(?)のは、「グリーンレディ」と呼ばれる少女の霊である。グリーンレディとは、スコットランドで古城や屋敷に出没する若い女性の霊に与えられる呼び名だそうだ。
タロッホキャッスルのグリーンレディは、4代目城主ダンカン・デイヴィッドソン(1800~1881)の娘で、10代で悲劇的な死を遂げたエリザベスだと信じられている。
エリザベスの父ダンカンは女癖がすこぶる悪く、結婚と離婚を5回繰り返し、嫡出子の数は18人、非嫡出子は30人を超えた。 一説によると、ある日エリザベスはダンカンが若いメイドと情事にふけっている現場(現在の客室10)を目撃し、ショックのあまり自分の部屋(現在の客室15)に駆け込もうとしたところ、階段から転げ落ちて首の骨を折り、即死したという。
夫ダンカンの不貞が引き起こした事故で娘を失い、怒りと悲しみに心をかきむしられたエリザベスの母は、一家の肖像画から夫の姿を塗りつぶさせたという。件の肖像画をよく見ると、エリザベスの背後が不自然に黒くなっているのがわかる。ここにダンカンが描かれていたのであろう。
また、この肖像画が飾られている大ホールでは、恐怖に慄いた表情で走り去るメイドの亡霊も何度か目撃されている。果たしてそれは、エリザベスを不慮の事故死に追いやってしまったメイドの霊なのだろうか。
2004年、霊能者を名乗る女性がここに滞在し、城のいたる場所でさまざまな時代と年齢の男女の幽霊に遭遇したと報告している。
さらに、この霊能者は客室15につながる廊下で、暗い色合いをした裾の長いシルクドレス姿で、怒りと嘆きのオーラを漂わせた女性の霊が
窓の外を眺めながら「Why(なぜ)?」と繰り返し呟いているのを目撃したという。その女性はグリーンレディの母親だったのだろうか。
驚くべきことに、グリーンレディとおぼしき姿がカメラに捉えられている。2012年に「デイリーレコード」紙で記事とともに公開された写真があるのだ。
写真の左側にはぼんやりと白っぽいモヤのようなものがあり、まるで白いドレスをまとった女性の姿のように見える。そして、階段の手すりを握る手がはっきりと写っている。
客室フロアをつなぐこの階段は、エリザベスの時代には存在しなかったということなので、彼女の悲劇の現場そのものではないだろう。だが不思議なことに、ここで宿泊客が不意につまずくことがよくあるという。
宿泊客は、夜間スタッフが案内するゴーストツアーに参加できる。夜11時からスタートするこのツアーでは、城の歴史と、グリーンレディをはじめとする奇怪な話を聞きながら、塔や土牢といった心霊スポットを見学させてもらえるそうだ。
土牢の床にはかつて10メートルほどの穴が掘られており、囚人たちがその中で餓死するまで幽閉されていたという。先述の霊能者は、ここで複数の囚人たちが拷問にかけられている様子を「目撃」したと話している。
現在、土牢跡は貸し切り専用の個室ダイニングルームとなっている。オカルトファンの宴会にうってつけの会場といえるだろう。
筆者が取材で訪れたのはクリスマス前であったため、城内はクリスマスのデコレーションで華やかに演出されており、怨霊漂う古城のダークで不穏な空気は感じ取れなかった。
だが、静まり返った客室フロアの廊下に足を踏み入れた途端、名優ジャック・ニコルソンの怪演が光る1980年の映画『シャイニング』の舞台となったオーバールック・ホテルの廊下のイメージが重なり、ゾッとするような冷気を感じた。もしかすると、城の夜の住人たちとすれ違っていたのかもしれない。
(月刊ムー 2025年5月号掲載)
ケリー狩野智映
スコットランド在住フリーライター、翻訳者、コピーライター。海外書き人クラブ所属。
大阪府出身。海外在住歴30年。2020年より現夫の故郷スコットランド・ハイランド地方に居を構える。
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