夢の中のストレスは身体に高負担という事実! 最新研究でわかった「本当に危ない」悪夢のリスク

文=仲田しんじ

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    真夜中に冷や汗をかいて目覚めるような悪夢はいかにも健康に悪そうだが、夢の中で死亡して現実に死んでしまうことがあり得るのだろうか――。

    夢で死に、現実でも死ぬ可能性

     連続殺人鬼フレディ・クルーガーが夢の中で少年少女を追い詰めて斬殺するホラー映画の古典的名作『エルム街の悪夢』が今年で40周年を迎えるにあたり、科学者らは夢の中で死ぬことは現実世界での死に関係しているのかどうかを探っている。

    『エルム街の悪夢』のポスター 画像は「Wikipedia」より

     いわゆる悪夢とは、恐怖、嫌悪、失望などの否定的な感情を強く感じる、特に苦痛な夢のことである。一般的に3~4歳くらいから悪夢を見るようになり、年を取るにつれて悪夢を見る頻度が減るといわれている。

     悪夢は、通常、ストレスやパニックに関連する脳の領域が活性化するレム睡眠中に発生し、悪夢を見ている間、恐怖、不安、怒りに関連する脳の領域である扁桃体と青斑核でノルアドレナリンのレベルが急上昇する。

     生理学的レベルで悪夢を引き起こす原因は正確には明らかではないのだが、ヘルシンキ大学の睡眠専門家であるティナ・パウニオ教授は、悪夢はストレスに関連する脳の部分に関係している可能性が高いと英紙「Daily Mail」 に語る。

    「悪夢は、通常、感情的なストレス下で起こるため、急性の生活ストレスは一つの(死につながる)リスク要因です。それにライフスタイル、特にアルコール摂取は、悪夢のもう1つのよく知られたリスク要因です」(パウニオ教授)

     さらに、恐怖体験やトラウマで悪夢が誘発されることもある。ちなみに『エルム街の悪夢』の出演者の多くが、特に恐ろしいシーンの撮影後に実際に悪夢を見たと報告している。撮影が疑似的なトラウマ体験になってしまったのかもしれない。

     夢の中で殺人鬼に追われて命からがら逃げなければならない場合、いわゆる「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」がはたらき、アドレナリンやコルチゾールなどの化学物質が大量に放出される。

     一時的に身体能力が高まる一方、アドレナリンが大量に放出されると臓器にダメージを与える。アドレナリンが心臓の筋肉細胞の受容体と接触すると、心臓に収縮を指示する化学反応が始まる。大量のアドレナリンによって心臓はリラックスすることができず、まさにホラー映画を見ているような“ハラハラドキドキ”したリズムが続いてしまう。

    「一般的に、悪夢の健康リスクは間接的であり、悪夢の根底にある原因に関連しています。心臓病を患っている人など、脆弱な人の場合、稀ですが悪夢は間接的に死につながる可能性があります」(パウニオ教授)

     つまり、夢の中で死ぬことで実際に現実世界でも死ぬ可能性は低いがゼロではないということだ。

    「アメリカ心臓財団」によると、夢の中で死ぬほどの恐怖を感じるケースは非常にまれで、通常は何らかの心臓の病気が関係しているという。悪夢による健康被害を懸念すべきは、すでに心臓に問題を抱えている人々だということになる。

    Izzy LoneyによるPixabayからの画像

    悪夢による睡眠不足とストレスの危険度

     死に至ることは珍しいとはいえ、専門家は頻繁に悪夢を見ることは危険であると警告している。

     英スウォンジー大学の心理学者で、悪夢の専門家であるマーク・ブラグローブ教授は、悪夢がもたらす2つの影響のうち、健康上の問題を引き起こす可能性があるものを説明している。

    「悪夢から目覚め、再び眠りにつくことを恐れる人がいます。したがって、悪夢が起こると大きな問題となるのは、その結果として人々が睡眠不足になることです」(ブラグローブ教授)

     平均的な人にとって、時々眠れない夜があっても、それほど大きな問題にはならないが、しかし悪夢に頻繁に悩まされている人口の2~6%にとっては、失われた睡眠時間が積み重なっていく可能性がある。

    「ほぼすべての人が悪夢を見ますが、平均すると1年に数回だけです。しかし、もっと頻繁に、毎晩のように見る人もいるかもしれません」(ブラグローブ教授)

     睡眠が頻繁に妨げられると、肥満や2型糖尿病、心臓発作、脳卒中などの代謝障害のリスクが高まる可能性がある。PTSDが原因で悪夢に悩まされている人にとって特に心配なのは、睡眠が頻繁に中断されると、うつ病、不安障害、自殺のリスクも高まることである。

    Izzy LoneyによるPixabayからの画像

     睡眠不足に加えて、悪夢が危険となる2つめの要因は、ストレスを増やすことである。

     悪夢による苦痛のレベルがきわめて高い人は、悪夢を見るのではないかと恐れて寝るのが怖かったり、目覚めたときに悪夢が現実になるのではないかと心配したりするかもしれない。

     一般的に悪夢による苦痛のレベルは年齢とともに低下するのだが、人によっては生涯を通じて非常に高いままのケースもある。

    「悪夢をたくさん見る人にとっては、悪夢そのものが新たなストレス源となる可能性があるのです。ストレスを感じている人が悪夢を見るという悪循環に陥りますが、その悪夢が、その人にとってさらなるストレスを生みます」(ブラグローブ教授)

     かつて韓国の大学で行われた研究では、悪夢をよく見る人はほとんど見ない人よりも心停止のリスクが2倍以上高いことが報告されているそうだ。同様に、米ノースカロライナ州ダーラムの「ダーラムVAヘルスケアシステム」の研究者が昨年発表した研究では、ひどい悪夢を見る人は高血圧や心臓の問題を抱える可能性が高いことを示唆している。

     しかも、このリスクは非常に顕著であるため、欧州心臓病学会が発表した研究では、医師は心臓病患者に悪夢について尋ねるようアドバイスしているほどだ。

     つまり、夢の中で殺人鬼に追われてもその場で死ぬことはないかもしれないが、悪夢が頻繁に続けば、最終的には致命的な健康被害になる可能性はあるということだ。悪夢をよく見るという人は、その原因がどこにあるのか一度検証してみてもよいのだろう。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Warner Bros. Entertainment」より

    【参考】
    https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-14059097/grisly-truth-die-dream-scientists.html

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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