ブリューゲルの名画に恐竜が描かれていた!! 16世紀の美術オーパーツ/権藤正勝
画家ピーテル・ブリューゲルの名画「サウロの自害」に、人間と共存している恐竜の姿が描かれていた。昔話を伝え聞いたのか、それとも「見て」描いたのか。謎の絵画に世界が注目している。
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山陽の山深くに鎮座する、「魔法」を冠する珍しい神社。その祭神は、南蛮船に乗り渡来したという一匹の化け狸だ。自在に火を操ったという不思議な力や「サンヤン」という奇妙な口ぐせから、その意外な正体が見えてきた!
目次
岡山県中央部、吉備中央(きびちゅうおう)町の非常に山深い地に、「魔法宮火雷(まほうぐうほのいかづち)神社」という不思議な名の神社がある。
そこには「キュウモウ」という名の狸が祀られており、詳しい由来が江戸時代に書かれた『備前加茂化生狸由来記(びぜんかもけしょうだぬきゆらいき) 』(以下、由来記)という書物に載っている。
そのあらすじは以下の通りだ。
戦国時代、南蛮の「合甚尾大王(ごうじんびだいおう)」が悪逆を企み、バテレン(宣教師)を日本に差し向けた。キュウモウは、その船に紛れて渡来した。渡来の目的は「神国」日本を訪ねるためであり、堺を経て、住吉大社へ参拝する。すると、社殿が震動したり大量の松が抜けるなどの異変が起き、朝廷に奏上される。怪異は南蛮による危機を神々が知らせるものとさ
れ、伊勢、春日、八幡の天皇巡拝が決定した。しかし、途中で行幸の車を曳く牛が動かなくなる。
キュウモウはその牛の故郷を見たくなり、呰部(あざえ)(現在は岡山県真庭市)にやってくる。呰部周辺には岩窟が多数あり、長い年月そこに住んだ。しかしそこにはメスの狸がいなかったので、ムジナと交わって子を作った。
江戸時代中期、加茂(現在は吉備中央町)の黒杭(くろくい)に銅山が開かれ、茶店や遊郭も作られて、空前の賑わいを見せた。キュウモウは鉱夫に化けてその銅山にやってきて、遊び回った。やがて銅山は閉鎖されたが、その廃坑に住みついた。
キュウモウは黒杭に来てから、初めは大声でものをいうくらいで、特に悪さをしなかった。時折穴から出てきて、牛に引かせる犂(すき)を鉦(かね)がわり叩き「サンヤンサンヤン」といいながら山の中で遊んだ。しかし、やがて人に化けて人家に入ったり、人の行動をいいふらすといったさまざまな悪事を行うようになる。遊郭に出入りして、木の葉や小石を金に見せるなどして、人々を誑かしもした。
ある家に、唐団扇(とううちわ)のようなものを置き忘れていったが、それは骨もなく、紙でも皮でもない不思議なもので、解読不可能な文字が書いてあった。家の者がこの唐団扇を隠匿したところ、火をつけられ焼死した。
こうした悪事、変事の原因がキュウモウであることがわかり、村人は退治しようとしたが、それを企んだ者は家に火をつけられたり、病気になったりした。あるとき、キュウモウを退治するため、村人が山に入ったが、深夜になっても見つからなかった。夜明けごろになると夥しい数の注連縄が山に引き渡されており、人々は恐れをなし、魔法宮を建てキュウモウを祀った。社の名は、もともと摩利支天の社が建っていたことに由来する。
また、キュウモウは鉦を叩きながら、自分は大陸の長者の下に生まれ長い年月を送ったが、日本が神国だと聞いて移住し、敬虔な暮らしをして、善人に寄り添ってきたと語った。だから自分には飢餓も病気もなく、死も知らない。
命ある限り、牛馬の難を助け、火難盗難を知らせ、善人を助けたい、と。そうして、魔法宮は火難盗難除け、牛馬の守護神として知られるようになり、縁日には多くの人が牛馬を引いて参詣し、大変賑わった。夜には花火が打ち上げられた。
キュウモウの子孫たちの話も「由来記」に載っている。黒杭の銅山で生まれたキュウモウとムジナの間の子、頬四郎(ほおしろう)は、鉱山から鉄の仕入れを行う者で、金比羅参りの帰りと称し、遊郭に逗留して宴を開き、木の葉や小石を金に見せて人々を誑かした。頬四郎が行った放火は数知れず、恐れた人々は“魔王宮”を建てて祀り、火災の守護神となった。魔法宮に近い山の中の久保田神社がそれだといわれ、参道には狸の置物が並べられている。魔法山ともいう。
頬四郎の子供たちの話も伝わっており、火災や病気などの災いをもたらすが、神として祀られるか、僧侶や神主の呪術によって鎮まっている。そのさらに子孫たちもあちこちの山や谷へ穴を掘って隠れ住んだが、大した悪事を成すことはなかったという。
以上が「由来記」のあらすじだが、キュウモウは「魔法様」とも呼ばれ、その信仰は加茂だけでなく、岡山県中部の吉備高原に広がっている。総社(そうじゃ)市槁(けやき)の魔法神社は火雷神社に匹敵する非常に山深い場所にあるが、牛の神として信仰され、遠方からの参詣も多かった。祭りのときには花火が上がる。
キュウモウが加茂の前に住んでいたという呰部やその周辺にも、魔法様の信仰はある。ただし狸とはまったく関係なく、旧家が屋敷の隅や山裾の小さな祠に祀ることが多い。不浄を嫌う神で、摩利支天と同一ともいう。
キュウモウ、魔法様というのはいったい何者なのか。化生狸というが、狸と関係のない信仰もある。徳川家康を狸親父というように、狡猾な人間を揶揄して狸という。狸が人化かすからだというが、人を狸と呼ぶことがあるのは間違いない。キュウモウの伝説を人間の話として読めば、戦国時代に異国から渡来した人物ということになる。 キュウモウは「九毛」と書くとも伝えられ、その場合は「金毛九尾」の意味とされる。金毛九尾といえば九尾の狐、玉藻前が有名だが、時代設定が違うとはいえ、まさにインド、中国から渡来した化生の者である。
呰部と同じ真庭市には、玉藻前が封じられた、那須の殺生石を砕いた際に、欠片(かけら)が落ちてきて祀ったという、化生寺(かせいじ)もある。
「魔法」という言葉について見てみると、伝承や信仰では、摩利支天の法力、法術といった意味に取れる。また「魔法」という言葉は近代になって西洋語の訳語として作られた感があり、現代人の思う「魔法」とは無関係のように思われる。しかし、実は室町時代の文献に「魔法」という語が登場しており、道を外れた邪悪な教えや術、といった意味合いがある。
類義語として「外法(げほう)」があり、これを使う天狗を「外法様」とも呼んだ。戦国時代の宣教師も、西洋の書物を翻訳する際「魔法」という語を用いている。
西洋といえば、「サンヤン」という言葉も、「聖ヨハネ(ラテン語ではサンクティヨハネス)」が訛ったかのようだ。解読不能な唐団扇の文字も、異国の文字を思わせる。
これらを考え合わせれば、「魔法様」ことキュウモウは、異国からやってきた「魔法使い」ということになる。
ではどのような「魔法使い」だったのか。
伝説を構成する要素に、その鍵がある。キュウモウやその子孫たちは、穴を好んで住んでいる。狸は巣穴を掘るものだが、穴に住むことの比喩として狸と呼ばれたとも考えられる。
黒杭の穴は銅山の廃坑といわれ、頬四郎は鉄鉱山から仕入れを行うと称しており、金属採掘との関係が強い。吉備は「真金吹(まがねふく)」という枕詞があるほど、古代からの鉄産地だ。桃太郎が退治した鬼のモデルとされる「温羅(うら)」も、製鉄と関係が深い。その根拠地は総社市の鬼(き)ノ城といわれる。同じ総社市の魔法神社が鎮座する山の麓には、かつて鉱山があり、銅や珪石を採取していた。現在も砂利の採取が行われている。
また、黒杭の前にキュウモウが住んだ呰部周辺は、沢山の洞穴があり、『由来記』も言及している。呰部には諏訪洞や井弥(いや)の穴といった洞穴があり、その付近には魔法様の信仰もある。『由来記』にも登場する真庭市の井殿(いどの)には備中鍾乳穴という大きな鍾乳洞もあり、ここから鍾乳石が薬として朝廷に献上されたことが、平安時代の記録に残っている。鍾乳洞を祀る式内社もあって、古くから産出が知られていた。
吉備高原は、石灰岩を含む土地が多く、このような鍾乳洞やカルスト地形が形成されている。
キュウモウ、魔法様は、鉱産資源の採掘に深く関係している。真庭市化生寺の殺生石の伝説も、那須の殺生石が硫黄を産することを考えると、鉱産資源と繋がる。
伝説では、火も目立つ。キュウモウの一族は、火災を起こすのが得意で、後に防火の神となったと「由来記」にある。また、魔法宮や魔法神社では、祭礼の際に盛大に花火を上げることが『由来記』や民俗資料に特筆されている。花火は江戸時代に流行してはいるが、現代ですら参拝が難儀なほどの山奥としては異例のことと思われる。
火は鉱山資源との関係が深い。金属の加工には火が欠かせない。花火の色付けにも金属は必須だ。火薬にもさまざまな鉱産資源が必要である。
キュウモウは牛とも深く結びついている。呰部にやってきたきっかけは牛であり、自らも牛馬を守ると宣言している。魔法宮や魔法神社には牛飼いや牛連れでの参拝が多く、現在でも牛の絵馬が奉納されている。呰部にあった大きな牛市と伝承の関係も指摘されている。
牛については、牛糞が注目される。インドやモンゴルでは、牛糞を乾燥させて燃料として使用する。牛糞は火薬の原料ともなり、発酵すると窒素分が化学変化を起こし、黒色火薬の原料となる硝石が生成される。
ヨーロッパではかつて家畜の小屋から硝石を得ていた。日本でも戦国時代から、糞尿や草、土を原料として生産している。その際、石灰質の土壌だと硝酸石灰ができやすく、生産性が上がる。吉備高原は最適な場所である。
この硝石と、木炭、硫黄で、黒色火薬が作られる。先に述べた通り、殺生石を通じて、硫黄とキュウモウも関係がある。摩利支天との関係も、もともと光の神であることから火薬との結びつきが想定される。キュウモウが祀られる火雷神社は平安時代の創建とされるが、それにしても示唆的な名だ。
花火は、少なくとも戦国時代には日本に伝来しており、大友宗麟の意を受けて、宣教師が打ち上げた記録もある。
宣教師は火薬を使う鉄砲はじめ西洋の先端技術をもたらし、戦国大名にも厚遇された。キュウモウは、宣教師とともに渡来し、火薬や花火と深い関係がある。初めて日本の土を踏んだ堺も、鉄砲の生産で知られた街だ。
ではキュウモウは宣教師だったのか。
「聖ヨハネ」を思わせる言葉を唱えるなど、そうした節もある。はじめは災いをもたらしていたが、善人の味方と称して神となっており、博打や酒食に溺れる者を罰するとも伝えられる。
このように、宗教的、禁欲的な要素がかなりあり、そこに宣教師の要素を見なくもない。とはいえ、二十六聖人の殉教など、強固な信仰で知られる宣教師が、潜伏しつづけるというのも考えにくい。潜伏キリシタン(平信徒)の可能性はある。信仰自体は隠し通したにせよ、習慣の違いから奇異の目で見られ、摩擦があって伝説が生まれたのかもしれない。しかしそれだけでは、金属採掘や火薬が宙に浮く。
物語を構成する、西洋・金属採掘・火薬・宗教性といった要素。その交点にあるのは「錬金術」だ。化学の基礎となった錬金術は、金属や火薬の原料を扱う。硝石も硫黄も石灰石も、錬金術で用いられた材料だ。錬金術は、物質を精製するように、精神を精製するという宗教性も持つ。
さらに、錬金術は医術とも関係が深い。名高き錬金術師パラケルススは医師でもあった。錬金術の材料や精製された物質は、薬として使われるものもあった。キュウモウも人を病にする一方で、牛馬の難を助けるといい、医術と関係があるのだ。
また、キュウモウは病気になることもなく、死を知らずに何百年と生きていると、自ら述べている。つまり、キュウモウは不死かそれに近い存在なのだが、不老不死こそ錬金術が黄金と共に求めたものだ。木の葉や石を金に見せるというのも、狸が人を化かす定番の手法ではあるが、錬金術に直結する。
キュウモウがやってきた16世紀、ヨーロッパでは、プラハに錬金術師の街が作られるなど、錬金術が盛んな時代だった。キュウモウは、そんな時代に「黄金の国」ジパングにやってきた錬金術師なのではないか。そして、鉱産資源豊かな吉備高原へとやってきて、岩穴に隠れ住み、研究を続けたのではないか。
一方、錬金術は宗教性が高くはあったが、ギリシア神話のヘルメスと習合した人物を祖とする等、多分に異教的であり、たびたび弾圧もされている。キュウモウはキリスト教徒を装っていただけで、日本に来てそれをやめたのではないか。それならキリシタンとして迫害されもしない。実際、日本が神国だから渡来したと述べている。とはいえ、錬金術は日本人にとっては「天狗の仕業」といってよく、西洋でも弾圧の対象だった。どちらから見ても「魔法」なのだ。
キュウモウの「サンヤン」という言葉は、キリスト教的に聞こえるが、実は「聖ヨハネ騎士団」のことかもしれない。15世紀イギリスの錬金術師ジョージ・リプリーは、聖ヨハネ騎士団に入団し、黄金を作り出して騎士団の資金を支えたという。
キュウモウは、その流れを汲む錬金術師であり、日本に渡って、穴に住むムジナ──金属採掘者と同化して、研究を続けたのではないか。実際、キュウモウは、鉱夫に化けて加茂へやってきたのだ。金属採掘者達は、農耕民とは文化が異なる。温羅のように鬼のモデルでもある。農耕民との軋轢もあるが、その業に畏敬の念を抱かれてもいる。キュウモウと重なるところが多い。
そんなキュウモウは、特殊な社会で研究を続けながら、ついには錬金術師が求める「賢者の石」を、見つけたのかもしれない。そうして異様な長寿を保ち、信奉者達にもいくらか恩恵を施して、神と崇められた──それはまさに「魔法」である。
高橋御山人
在野の神話伝説研究家。日本の「邪神」考察と伝承地探訪サイト「邪神大神宮」大宮司。
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