ミステリーサークル人為説を決定づけた「オペレーション・ブラックバード」の失敗と疑惑! 英国防相が隠したかった真実とは?

文=遠野そら

    イタズラで作られたものも実際多いミステリーサークルだが、過去には大規模な検証調査が行われていた。それは英国軍部の工作に貶められたというが……。恒例となった奇現象を振り返る前編。

    作られたミステリーサークル

     主に1980~1990年代にかけ、世界的ブームとなったミステリーサークル現象。
     改めていえば、ミステリーサークルとはイギリス南西部を中心とした田園地帯で、麦などの穀物が謎の力によって形成される美しい円形パターンのことである。

    もはや英国の夏の風物詩となったミステリーサークル。http://www.cropcirclesonline.com/archive/ph/crop-circle-photo-1355.htm

     今ではイギリスのみならず、アメリカやオーストラリアなど世界中で累計12,000個以上のミステリーサークルの出現が報告されているが、その存在が広く認知されるようになったのは1970年代のこと。

     当初は規模も小さく、模様もシンプルな円の組み合わせ程度だったが、年を追うごとに複雑化。数式や円周率を暗号化したサークルが出現するようになると、名だたる科学者たちがこぞって原因究明に乗り出し、「ダウンバースト」や「プラズマ渦」の他、地球外生命体由来まで様々な説が飛び交うようになったのだ。

     しかし、騒動が最も過熱していた1991年、「過去200個以上のミステリーサークルを作成した」と主張する2人のイギリス人男性が現れると事態は一変。メディアの前で作成の実演までしてみせると、彼らにインスパイアされた“サークルメーカー”が続々と登場、「すべてのサークルが人為的な創作品だ」という見方に変化していったのである。

    作成者の故ダグ・バウアー。木の板、ロープ、小さな輪を取り付けたキャップだけ巨大なサークルを作成したという

     しかしながら近年のサークルは複雑かつ精密さを増しており、すべてを人為的と決めつけるには、早計とする科学者も多い。ニセモノに紛れて科学的にも説明がつかない「発生原因不明」とされるサークルは確実に存在しているのである。

     ミステリーサークルの主な発生地として知られるのが、イングランド南西部に位置する農村地帯ウィルトシャーのエイヴベリー村である。ここは世界最大のストーンサークル「エイヴベリー・ストーンサークル」に囲まれた村で、かの有名な巨石群「ストーンヘンジ」をはじめ先史時代の遺跡が数多く点在する地域である。

    2011年7月13日に出現したミステリーサークル。写真奥がストーンヘンジ。https://www.psychedelicadventure.net/2011/07/crop-circle-at-stonehenge-13th-july.html#google_vignette

     人口わずか600人ほどというこの小さな村が、ミステリーサークルのホットスポットとして有名になったのは1990年7月のこと。イギリス国防省(MoD)協力のもと実施された「オペレーション・ブラックバード」がきっかけであった。

    軍や警察も動員した現地調査「オペレーション・ブラックバード」

     これは「ミステリーサークルがどのようにして作られるのか——」、その謎に迫るべく、日本のテレビ局をはじめイギリスBBC、英軍らが資金を投じ行われたミステリーサークルの調査および監視中継プロジェクトのこと。
     当時超常現象研究家として名を馳せていたコリン・アンドリューを中心に、世界中のメディアがエイヴベリー村に集結。丘の中腹にキャンプを張り、10日間に渡って、熱、音、光などを測定し、現場を徹底的に監視したのだ。

    テレビ、ラジオ、新聞など、100を超えるメディアでオペレーション・ブラックバードが報じられた。https://colinandrews.net/Biography-03.html

    軍や警察を動員した厳戒態勢でミステリーサークル発生を検証した「オペレーション・ブラックバード」の様子。https://colinandrews.net/Biography-03.html

     その、史上かつてない規模の現地調査に世界中が注目する中、事件は起きた。

     プロジェクト開始から2日後の7月25日——監視カメラが点灯するオレンジ色の光を記録した。
     そして、そこには2つの巨大なミステリーサークルが出現していた、のだ!

    オペレーション・ブラックバード実施中に現れた2つのミステリーサークル。線は歪み乱れていた。https://hoaxes.org/archive/permalink/operation_blackbird

     だが、残念ながらそれはニセモノであった。サークルは何者かが麦を踏みつけて作り上げたことは一目瞭然の粗雑な出来で、線は歪み、茎は折れていた。またさらに調査団を嘲笑うかのように、サークル作成時に使用したと思われるボードゲームとワイヤーロープまでも捨て置かれていたのである。

     これによりコリン・アンドリュースの面目は完全に丸潰れとなった。またさらに翌年、自称「サークルメーカー」なる人物が登場すると信憑性はさらに損なわれ、ミステリーサークルは「野外創作品」として認知されるようになったのである。

     しかしながら、コリンは今なおミステリーサークル=人為説を真っ向から否定している。
     というのも、オペレーション・ブラックバードでは、全日、英軍が調査に加わっていたのだが、軍がが撮影に干渉してきたタイミングで人為的なサークルが出現したという背景があるのだ。つまり、オペレーション・ブラックバードは軍部を動かしてでもミステリーサークル=人為的説を人々に印象付けるための陰謀だったと主張しているのだ。

    調査現場近くに基地があったことから英軍も連日調査に加わっていたそうだ。https://colinandrews.net/Biography-03.html

    英国軍は別の怪奇事件を追っていた

     いささか突飛にも聞こえるコリンの主張だが、これには密かにうなずく政府関係者も少なくないようだ。

     1990年代にかけて英国国防省(MoD)でUFO目撃証言の収集、分析を行っていた調査官ニック・ポープも、オペレーション・ブラックバードでの軍部によるミステリーサークル偽造の可能性を指摘する1人である。氏によると、当局は1980年代からミステリーサークルを正式に認識しており、秘密裏に調査を行なっていたという。しかし過熱する報道をコントロールするため人為説を積極的に流布し、1991年に登場したサークルメーカーについても、広報活動を後押ししていた経緯を明らかにしている。

     また1987年10月22日には、ウィルトシャー上空、ミステリーサークル出現多発地帯を飛行していた軍用機パイロットが突如として自然発火し、機体が墜落する事故が起きたそうだが、当局はこれを隠蔽。当時のサッチャー首相にも事件の開示を求められたが、一貫して事実を否定したという。

     MoDは人為説を推進しながらもミステリーサークル現象を危惧していた。そのことは間違いないだろう。だとすれば彼らはいったい何を隠そうとしているのか……。次回でその背景を解いていきたいと思う。

    参考
    https://colinandrews.net/Biography-03.html
    https://hoaxes.org/archive/permalink/operation_blackbird

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

    関連記事

    おすすめ記事