ツチノコか龍神か? 祟りなす「蛇拓」の呪いが怪談師・いたこ28号を襲う!
人気実話怪談師・いたこ28号氏が怪事件?に巻き込まれている。 それはツチノコの魚拓…「蛇拓」をめぐるなんとも不可解な話だった。
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今年の干支は龍。龍は想像上の霊獣だが、その目撃記録が歴史上多数残されている。龍は実在したのか、それとも……?
2024年は辰年。いうまでもないが、龍は十二支のなかで唯一の想像上の動物。東アジアでは皇帝の象徴や瑞祥とされ、動物よりむしろ神霊に近い扱いをうける存在ともいえるが、そんな実在しないはずの龍の目撃情報が、歴史書などにはたびたび記録されている。
神話の時代を別にすると、日本最古の龍の出現情報は、奈良時代の斉明天皇元年(680)のものだといわれる。『日本書紀』にはその様子がこう記されている。
斉明天皇元年5月、空に龍に乗った者が出現した。その姿は青い油笠をかぶった唐人のようで、奈良の葛城峰から生駒山方面に馳せ隠れ、その後住吉(現在の大阪)の山から西に向かって去っていった。(筆者抄訳)
主体は笠をかぶった謎の人物のほうで龍は脇役だが、これが日本史上最初の龍目撃記録だとされる。斉明天皇の即位直後に出現した龍と謎の人物、のちにその正体は蘇我入鹿の怨霊だったとの説もささやかれたが、詳細は不明だ。
平安時代になると、「平安京に龍が出現した」という記録がでてくる。
『日本紀略』には「弘仁10年(819)7月、京中に白龍が見え、暴風雨で民家が損壊した」とあり、藤原頼長の日記である『台記』には、「久安3年(1147)6月に龍の昇天が多くの人に目撃され、そのさまは獣の尻尾のごとき雲が空に昇っていくようだった」と記されている。
こうした具体的な龍の目撃情報は、江戸時代にも数多く残された。
宝暦11年(1761)4月には、美濃国(現岐阜県南部)の木曽川付近で雲の中に入っていく龍が目撃されている。文政5年(1822)8月には大阪で、大規模な夕立があった日に龍が天上するのがみられたという(『摂津奇観』)。『金地院記録』では享保20年(1735)の7月、巳の刻に急に雨が降り浜御殿あたりから龍が天上したとの記録がある。浜御殿は現在の浜離宮恩賜庭園、当時の将軍の別邸であり、まさに江戸のど真ん中といったところだ。
文化9年(1812)6月には因幡国で、同10年7月には豊前国でも同様の龍出現記録がある。『天保年代記』という本には、詳細は不明ながら天保15年(1844)に堺で目撃されたという龍天上の図が描かれる。江戸時代、龍は全国各地で目撃されていたようなのだ。
想像上の生物なのに、なぜこれほど多くの目撃情報が残されているのか。龍はこの世に実在しているというのか……。
その謎を解いてくれるが、先に紹介した宝暦11年、美濃国での目撃記録だ。木曽川沿いで龍を目撃したという男は、発見の瞬間から中盤、そして天に昇るまでの経過を克明に図に描いていたのだ。
その記録によれば、雲とともに出現した龍は、頭と思しき部分をたびたび降りながら雲に入っていき、そのうちに今度は尻尾の先を大きく振りはじめ、ついにすっぽりと雲のなかに入った、という。
その図の写しは現在、現在国立国会図書館デジタルコレクションに所収される『日本気象史料』でみることができる。それがこちら。
このシルエット、ニュースや図鑑等々でみたことのある人もいるだろう。
つまり、昔の人々が記録に残した「龍の天上」とは、現在の気象現象でいう竜巻の観測記録だったのだ。龍の多くが風雨をともない被害をもたらしていること、出現期が夏頃に集中していることも竜巻の特徴と一致するところだろう。気象庁が公開している竜巻の映像と比較してみてみると、江戸時代の記録図の正確さを感じることができるのではないだろうか。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/cb_saigai_dvd/sub7.html
なんだ竜巻かよ……と思われるかもしれないが、それも貴重な記録には違いない。そして“本題”はこの先。江戸時代には、竜巻とは全く異なる龍の目撃談もいくつも残されているのだ。もちろん寺社縁起のような霊験譚でもない、もっと得体の知れない目撃情報だ。
たとえば下の図は幕末の天保7年(1836)6月に江戸の谷中に出現したという龍型の生物。顔が獅子、体が飛龍で、谷中の寺に突然現れ、通りかかった僧侶と人間のことばで会話を交わして消え去ったという。当時の瓦版にその姿が描かれているが、昨今話題の「予言獣」のようになにか疫病の流行を予知したといった逸話もなく、ただ現れて消えただけ。どこから、なんのために現れたのかわからない謎だらけの生物だ。
江戸後期の平戸藩主・松浦静山が記した随筆集『甲子夜話』には、さらに生々しい龍の目撃情報がある。しかもかなり近距離での、不可解な目撃例だ。
明和の大火(1772年4月に江戸を襲った大火事。江戸三大大火のひとつといわれる)後のこと、さる大名に仕える侍が、焼け残った屋敷の蔵に住み込んで役勤めをしていた。ある晩のこと。その夜は風雨が強く、夜中に蝋燭の火が消えてしまった。侍が火打石を探しながらふと外をみると、小さな提灯のようなものがふたつ並んで屋敷に近づいてくるのがみえる。
こんなたいそうな雨風のなか誰が歩くんだ、と怪しみつつ火を打っていると、やがて提灯が蔵の前にさしかかった。すると妙なことに、さっきまでふたつだった提灯のあかりがいつのまにかひとつになっている。侍はいよいよ不審に思ってみていると、提灯に続いて松の大木を横たえたようなものが、地上4尺(1.2メートル)ほどのところを動いていく。長さは20間(36メートル)はあろうかというほどで、その内部からはときどき石火のような光が漏れる。そしてそれが蔵の前を通過している間は、風雨がいちだんと激しくなっていた。
あれは龍だったのだろう、大木のようなのが体で、提灯にみえたのはその眼だったのだ。だから遠くにあるときはふたつ見えたのが、近づくと片側しか見えずにひとつになったのだろう……と、その男は語ったという。またちょうど同じ頃、下谷の練塀小路(現在の千代田区秋葉原あたり)にいた16歳の男が屋根に登って雨漏りの修理をしていたのだが、この青年も空に小さな提灯のような光がふたつ飛んでいくのを目撃していた。
『甲子夜話』は、青年がみたものはその龍が空を飛ぶところだったのだろうとの考察を記しているが、あかりが遠目にはふたつ、近づくとひとつに見えたというディテールがなんとも不気味で興味深い。
さらに奇妙な龍の目撃情報が『異説まちまち』という書物に残されている。この本は江戸中期ごろにまとめられたと考えられている随筆で、そこには羽州(現秋田県)酒田に出現したという以下のような龍の記録がある。
ある晴れた夏の日のこと、酒田で空に龍の頭が浮かんでいるのが発見された。大きさは牛の頭ほどのもので、目の光がすさまじい。そのうち下におりてきそうになったのであたりの人が集まってみなで追い払ったのだが、それでもしばらくはそのまま宙にとどまっている。やがて龍の頭に寄るように四方から雲がわきでてきて、頭はそのなかに隠れてしまったという。
続けて、これは姫路でのこと。
同じく夏のある日、さる家で土用干し(虫干し)をしていたところ、夕立がきそうな空模様になったので干したものを取り込んでいた。すると、屋敷裏の畑に赤いものがひらひらしているのがみえる。慌てて毛氈(毛織の敷物)を落としてしまったのだろうかと家の者が拾いにいってみると、なんとそれは布ではなく真っ赤な舌だった。脇には光を放つ眼まであり、家の者は無我夢中で逃げ帰り倒れてしまった。
その後天気はすさまじい風雨になり、龍はそのときに天上したのだという。「龍の首」はあまりにも謎すぎるし、ふたつめの話も単なる竜巻の発生とみるに異様な部分が多すぎる。
ところで、先に紹介した『甲子夜話』には、江戸での龍目撃談に続いてもうひとつ別の話も記されているのだが、それは奥州庄内藩に仕える、ある侍の話だ。
この侍が庄内の城下にいたときのこと。これも夏のある日、急な雷雨に見舞われたのだが、夏だったので雨はほどなく晴れた。だが、雨があがったあとまわりに騒ぐものがいるので空を見上げると、そこには長さ2丈(6メートル)ほどもある、蛇の頭に長い黒髪の生えたようなものがうねうねとうごめいるのがみえた。人々が「地上に落ちてきたらどうしよう」と恐れて見ていると、そのうちに鳥海山方面から薄黒い雲が流れてきてた。その雲が“蛇”の尻尾に届いたとたん、空が真っ黒になり大雨が降る。その雨もすぐに晴れたのだが、すでに“蛇”の姿は見えなくなっていた。
竜巻の記録のようでもあるが「頭に長い黒髪が生えていた」という部分など、単なる竜巻とは思えない不可解さがある。また目撃地は庄内城下とされているが、「龍の首」が出現した酒田もまさに庄内藩。このふたつの龍出現にはなにか関連があるのだろうか。
ほかにも龍でなく蛇が天上したとするものなど、類似の目撃例はまだまだある。地面から這いだす龍、空中に突然現れる龍、ずるずると地上を移動する龍……。それはなんらかの気象現象だったのか、あるいは未知の生物なのか、それとも、この世ではないどこかから侵入してきたものなのか。やはり龍は神秘の存在であるようだ。
参考資料
『物語日本猟奇史 江戸時代編』富岡直方、三陽書院
『日本気象史料』中央気象台・海洋気象台編、中央気象台
『神道沿革史論』清原貞雄、大鐙閣
『日本随筆大成』日本随筆大成編輯部、日本随筆大成刊行会
『風祭 日本気象史料余話』田口竜男、古今書院
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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