「ピラミッドパワー」の正体と利用方法とは? 巨大発電装置が古代エジプトの生活を支えていた!/久野友萬
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話題の映画『君たちはどう生きるか』に登場する重要キャラクターは、なぜアオサギだったのか? 背景にある深い意味と歴史について徹底考察!
宮崎駿監督の新作アニメ映画『君たちはどう生きるか』が公開中である。宮﨑駿が監督する作品としては、2013年に公開された『風立ちぬ』以来10年ぶりの長編作品となり、事前の宣伝を一切行わないという異例の方針も功を奏したのか、興行成績も好調らしい。
タイトルは吉野源三郎の小説から借用したものであるが、内容はまったく異なる。
第二次世界大戦中に母親を火事で失い、さらに田舎に疎開して新しい母親と一緒に住むという環境に適応できないでいる主人公の少年・眞人(まひと)が、死の世界とも別の次元ともつかない「下の世界」に送られてさまざまな経験をし、現実世界で生きる意思と力を得るという冒険活劇ファンタジーである。異世界での冒険を通じた成長物語という意味では、同じ監督の『千と千尋の神隠し』にも通じるものがあるかもしれない。
この作品で、眞人を異世界にいざなう役割を担っているのがアオサギである。
正確に言うと本物のアオサギではなく、アオサギの着ぐるみを身につけたような姿の、頭頂の禿げた鼻が異常に大きい小男なのだが、眞人は嘘ばかりつくこのサギ男には当初強い反撥を覚える。しかし、一緒に冒険を続けるうちに互いに友情が芽生えていく。
この難しいサギ男役を演ずるのが、かつて「仮面ライダーW」の主役を務めた菅田将暉である。さらに芝咲コウや木村拓哉、木村佳乃といった有名俳優ばかりが出演し、本職の声優が登場しない点については賛否があろうが、これも宮崎アニメの特徴のひとつである。
サギ男が姿を借りたアオサギはサギの仲間で、ペリカン目サギ科アオサギ属に分類される。生息域は広く、ヨーロッパからアジア、アフリカ大陸にかけて北半球の広い範囲に分布し、日本にも住んでいる。体の上面が少し青っぽい灰色なのでアオサギと呼ばれ、全長は90センチくらいだが、翼を広げると150センチ以上にもなる。
サギの仲間に特徴的な細長い脚と長い首、長い嘴はなかなか優雅に見えるのだが、ギャーギャーと聞こえる、少々耳障りな鳴き声のせいもあってか、日本での評判はよろしくない。古くから、アオサギが夜空を飛ぶときには火の玉か月のように光るという伝承があり、江戸時代の絵師・鳥山石燕の『今昔画図族百鬼』にも青鷺火(あおさぎのひ)として掲載されている。
さらに帯を後ろに締めて夜道を歩いていると、アオサギが入道の姿になって後ろから覗き込むという伝承もある。
宮崎監督は、なぜこのような妖怪じみたアオサギを異世界への案内役として採用したのだろうか。あるいは嘘ばかりついているサギ男に日本語の「詐欺」という言葉を掛け合わせたのかもしれない。
だがじつは、古代エジプトには、死後の世界を象徴する鳥としてアオサギの姿をした神、「ベンヌ」が崇拝されていた。深読みをすると、劇中の「下の世界」は、死後の世界の象徴とも思われる。だとすれば、案内役としてアオサギは適任だったのかもしれない。
ベンヌは、ヒエログリフの読み方によって「ベヌウ」と表記されることもある。太陽神ラーや創造神アトゥム、あるいは冥府の神オシリスの化身ともされ、アオサギ、あるいはアオサギの頭を持つ人間の姿で表される。
その語源は、古代エジプト語で「光の中で立ち上がる者」、あるいは「輝く者」を意味する「ウェベン」が由来とされ、「ラーの魂」、「自ら生まれた者」または、「記念祭の主」などとも呼ばれる。
古代エジプトに伝わる創世神話の中には、ベンヌをこの世界で最初に生まれた存在とするものがいくつもある。
そうした神話で最古のものは、古王国第五王朝時代の、ヘリオポリスの創世神話と思われる。
古代エジプトの王朝は、紀元前3100年頃のナルメル王による第一王朝に始まる。この第一王朝と第二王朝をあわせては初期王朝時代と呼び、紀元前2686年から始まる第三王朝から第六王朝までが古王国時代である。
古王国時代はピラミッドが盛んに建造された時代であり、サッカラにある階段式ピラミッドやギザの三大ピラミッドもすべて古王国時代のものである。
古王国も第五王朝時代になると、ピラミッドの規模はかなり小さくなってしまうが、太陽神ラーが国家神となったのはこの第五王朝の時代であり、ラー信仰の中心地となっていた都市がヘリオポリスである。
ラーは通常、日輪を頭上に戴き、隼の頭を持つ人物で描かれるが、ヘリオポリスに伝わるある創世神話によれば、ラーは原初の水の中で睡蓮の蕾の中から生まれ、最初に姿を見せたときはベンヌ、つまりアオサギの姿をとっていたという。それからベンヌは海上を飛び回り、原初の創成の丘、あるいは、ベンベン石というピラミッド形の石の上に止まり、鳴き声を上げた。この鳴き声とともにこの世の時間が動き始め、世界の創造が始まったという。
つまりこの神話によれば、ベンヌは世界で最初に生まれた存在であり、始まりの時を告げるという重要な役割を果たしているのだ。
他にも、原初の海に沈んでいた太陽の卵が丘に上がった時、ベンヌが太陽を抱いて暖めて孵化させたとか、大地の神ゲブがガチョウの姿とって卵を生み、その卵から、ベンヌの姿の太陽が生まれたなど、ベンヌを世界で最初の存在とする神話はいくつかあるようだ。
こうした神話が示すとおり、当初ベンヌは太陽神ラーとの関係が深かった。時にはラーの化身であり、ラーの魂がこの姿をとったとも言われる。
そして太陽の化身であることから、ベンヌ自身も太陽と同様、毎朝生まれては夕暮れに死亡し、次の朝に蘇ると信じられた。この、死んでは生まれ変わるという性質が、後に冥界の神オシリスにも結びつき、オシリスの化身とも考えられるようになった。
ベンヌについては、死後の世界のガイドブックともいうべき「死者の書」にも書かれている。
古王国時代には、ファラオは死ぬと冥界でオシリスとして復活すると信じられており、第五王朝時代のピラミッドの地下墳墓の壁には、ファラオが無事再生するための呪文が一面に彫り込まれていた。こうした呪文集がピラミッド・テキストと呼ばれている。
時代は下り、紀元前1567年頃から始まる新王国時代になると、こうした呪文集は細長いパピルスの巻物に挿絵入りで描かれ、ミイラの包帯の間や、専用の箱に入れて副葬されるようになった。こうしたパピルス文書が「死者の書」である。
内容は、鳥の姿に変じた死者の魂バーが、死後の世界で出会う様々な出来事や怪物、審判について語り、そうした怪物を退治したり、審判を乗り切って再生するための数多くの呪文が記されている。
また「死者の書」によれば、死者の魂は呪文によって人間以外の動物の姿で再生することも可能であり、そうした動物の一つがベンヌ、つまりアオサギであった。このようにエジプト人にとってアオサギは、生まれ変わった死者の姿でもあったのだ。
死と再生を繰り返すベンヌの伝説は、ギリシャ時代になって不死鳥フェニックスに発展した。
フェニックスについて最初に記したのは、古代ギリシャの歴史家ヘロドトス(紀元前485頃~紀元前420頃)とされる。
ヘロドトスの著書『歴史』によれば、フェニックスはエジプトの東方、アラビアに住み、鷲に似た体型の、金色と赤で彩られた羽毛を持つ鳥で、500年生きる。父親の鳥が死ぬとその遺骸を雛鳥が没薬で出来た入れ物に入れてヘリオポリスに運ぶ習性があるという。
ここでひとつ注意が必要なのは、ヘロドトスの言う「アラビア」とは、現在の日本人が思い浮かべるようにアラビア半島のことではなく、ナイル川より東側の砂漠の領域である。ヘロドトスの時代には、エジプトとはナイル川流域の細長い地域を意味し、その東がアラビア、西側がリビアと呼ばれていたのだ。
さらにローマ時代になると、フェニックスは500年生きるとみずから積み上げた香料を薪としてその火の中で死ぬが、灰の中から再び生まれ出てくるという、現在も伝わる伝説になった。
このようにフェニックスの伝説は、時代を経て幾分変容してはいるが、死んでは蘇るという特性は、古代エジプトのベンヌにも通じるものがあるだろう。また、「フェニックス」という名前自体、「ベンヌ」に由来するという説もある。
なお、エジプト人がベンヌとして神聖視したのは、現在棲息するアオサギではなく、すでに絶滅した種類ではないかという説もある。
じつは1977年、アラビア半島にあるアラブ首長国連邦の領内で、現存するアオサギを上回る、巨大なアオサギの骨が発見されたのだ。その背丈は2メートルほどあり、翼を広げると2.7メートルにもなった。
発見されたのはアラビア半島であるが、翼のある鳥のことだから、エジプトにも住み着いていたことは十分考えられる。しかも、古代エジプト文明が栄えていた紀元前1800年頃までは棲息していたようなのだ。
確かに普通のアオサギより、こちらのより堂々とした大型種の方が、崇拝するにふさわしい神々しさを感じさせるのではないだろうか。コペンハーゲン大学地理博物館のエラ・ホッフ博士もこう考えたようで、この鳥を「ベンヌサギ」と命名している。
【参考】
『エジプト神話』(ヴェロニカ・イオンズ/青土社)
『死者の書』(矢島文夫/社会思想社)
『エジプトの死者の書』(石上玄一郎/第三文明社)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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