タコは地球外生命体だった!? ゲノム解析でわかった頭足類のルーツ/権藤正勝

文=権藤正勝

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    サッカーの勝敗を占うタコが話題になったのも記憶に新しいが、「実はタコは賢い」という事実が多面的に明らかになってきた。その賢さはどこからきているのか? 最新のゲノム解析で驚くべき可能性が導きだされた。ーーなんと、タコが宇宙由来の生物かもしれないというのだ!

    カンブリア大爆発で出現したタコの祖先

    「タコは宇宙から飛来した生物かもしれない」

     2018年5月、この驚きの学説を学術誌「Progress in Biophysics and Molecular Biology」に発表したのは、世界各国から集まった33名の研究者グループである。

    タコのゲノム解析を行った沖縄科学技術大学院大学の研究者たち(写真=沖縄科学技術大学院大学OIST。

     確かにタコのルックスは、エイリアンそのものである。火星人が、昔からタコのお化けのように描かれてきた事実もある。日本人なら、その味や肉質が、ほかの生物と大きく異なっているのもよく知っているだろう。もちろん、学術誌に論文として発表される以上、見かけで議論しているわけではない。それなりに科学的な根拠があるのだ。

     今から、約5億4100万年前、古生代カンブリア紀の始まりに、生物は爆発的進化を遂げた。短い期間に、現在見られるほとんどの生物種が現れ、カンブリア大爆発と呼ばれている。生物の起源が宇宙にあると考える説をパンスペルミア仮説と呼ぶが、このカンブリア大爆発自体が、生物が宇宙からもたらされた証拠であり、パンスペルミア仮説の証拠だとする科学者も多い。
     タコは、分類上は、イカやオウムガイとともに頭足類(軟体動物門頭足綱)に属している。頭足類の祖先が出現したのもカンブリア紀とされているが、後の中生代にアンモナイト類が大繁栄したことで知られている。

    頭足類の仲間で中生代に繁栄したアンモナイトの化石。

     初期の頭足類は、現在のオウムガイに近い硬い殻を持った生物だったが、殻を持たない、現在見られるような複雑な形態を持ったタコの祖先は、およそ2億7000万年前に突然現れたらしい。
     研究発表によると、タコの複雑さは、オウムガイの祖先などと比べ際立っていて、はるか未来の生物の特徴を突然借りてきたように見えるという。そのタコの不思議な特徴を見ていくことにしよう。

    恐るべきタコの超能力

     まず、タコやイカ類の特徴としては、足がたくさんあることである。一般的には足と表現されるが、生物学的には触手と呼ばれるように、移動手段に特化した器官ではなく、使い方としては、ほかの生物の手に近い。ただ一部のタコは、特定の2本の触手を足のように使い、海底を歩くことが知られている。
     タコやイカのように洗練された触手を多く持つ動物はほかに存在しない。同じ頭足類であるオウムガイも多くの触手を持っているが、触手を器用に操り捕食することはできない。一方、タコやイカは、触手を素早く動かし、ほかの生物を捕食するプレデターである。

     一般的なタコの脳の大きさは、せいぜいクルミ程度である。しかし、タコの神経組織が抱える神経細胞の数は約5億個と、ネズミの6倍にも及ぶ。このためか、タコが並外れた知能の持ち主であることは広く知られている。
     タコは、スクリュー式の蓋のついた瓶の中にある餌を、蓋を開けて食べることができる。触手を器用に操り、試行錯誤するうちに、蓋の開け方を見つけてしまうのだ。瓶の中に閉じ込められても、同じように中から蓋を回し、抜けだすこともできる。
     タコは貝殻やヤシの実の殻などを使い、自分の身を守る盾とすることがある。タコ漁をするときにタコ壺が用いられるのも、この習性を利用したものだ。タコ壺は、捕食者から身を守るシェルター代わりというわけだ。

     オウムガイは最初から硬い殻を持ち、身を守っている。一見すると最初から殻を持っているほうが優れていて、より進化しているようにも思える。しかし、よく考えてみると、間違いであることがわかる。硬い殻を持つことで、常に動きが制限されるのだ。タコはこの欠点を知能でカバーしている。必要なときだけ道具を使って身を守り、通常は素早い動きで獲物を捕食するのである。
     人間が、素手では非力であるにもかかわらず、道具を持つことで、生態系の頂点に立っているのと同じ原理である。

     またタコは、非常に優れた擬態能力を持つことでも知られている。体の色を変えることはもちろん、表面の質感までも変化させ、カモフラージュすることができる。軟体動物であるがゆえに岩などに密着し、色と質感を似せれば、まず捕食者が見つけることは不可能だ。

     さらに、柔らかい体の特性を生かしたシェイプシフト能力まで備えている。特にミミックオクトパスという種類は、体を自在に変形させて、毒を持つ魚や、ウミヘビ、クラゲなどに擬態することができる。特定の種に擬態する動物は多いが、数多くの種に自在に擬態できる能力は、タコだけが持つ特徴である。

     動物の目には大きく分けて「単眼」「複眼」「カメラ眼」の3種類があるが、われわれ人間を含む脊椎動物は「カメラ眼」と呼ばれる最も進化した目の構造を持っている。カメラ眼はピントを合わせることが可能で、画像の解像度も非常に高い。
     通常、脊椎動物以外の動物では、「単眼」か「複眼」、またはその両方を持つが、タコを含む頭足類だけは別で、カメラ眼を持っている。
     しかし、頭足類のカメラ眼は、脊椎動物のカメラ眼とはまったく異なる進化系統を持っている。脊椎動物の目の網膜が神経組織由来であるのに対し、頭足類の目の網膜は、体表がくぼんで進化したものである。この進化系統の違いのため、脊椎動物の網膜には視細胞が存在しない盲点と呼ばれる部分が発生するが、頭足類では盲点がない。ある意味、脊椎動物のカメラ眼より優れているのだ。
     しかもタコでは、この目をどのような姿勢をとっても水平に保つことができる。真横に泳ごうと、逆さまになろうと、タコの目には常に周囲が同じように見えている。

    遺伝子レベルで特殊な生き物

     タコが並外れた能力を持つ生物であることは、わかっただろう。この優れた能力はどこから来るのか? 2015年8月、最新のゲノム解析で意外な事実が判明していた。なんと、タコの遺伝子は人間よりも複雑だったのだ。

    沖縄科学技術大学院大学の発表より https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/20839

     タコのゲノム解析は、シカゴ大学、カリフォルニア大学バークレー校、ハイデルベルグ大学、沖縄科学技術大学院大学により行われた国際研究である。12種類の異なるタコから採集した組織で解析が行われた。タコのゲノム自体は27億対で、ヒトの31億対よりわずかに少ない。ところが、タコのたんぱく質をコードする遺伝子は3万3000あり、ヒトの2万5000をはるかに上回る数字だった。神経細胞ニューロンの発現とニューロン間の短時間の相互作用を制御するプロトカドヘリン遺伝子クラスターの数に至っては168も存在し、哺乳類の約2倍だという。このため、タコは体の大きさに対し比較的大きな脳と多くの神経細胞を持っているのだ。

     しかも、タコの神経細胞の3分の2は、触手の部分に存在する。これはそれぞれの触手が独立した制御コンピューターを持つようなもので、それぞれの触手で同時に複数の異なる作業ができる

     動物の胚の発生初期に体節の構造を決定する遺伝子は「ホメオティック遺伝子」と呼ばれ、通常の動物であれば、ゲノム上でクラスターを形成し、まとまって存在する。しかし、タコでは、クラスターを形成せずにバラバラで存在するという。
     たんぱく質ドメインのスーパーファミリーのひとつで、DNAに結合する性質を持つジンクフィンガーの転写因子の発達に関与する遺伝子ファミリーも、タコでは1800存在した。これは知られている動物の中で、2番目に大きな値だという。

     また、タコは数百単位の特有の遺伝子を持っていることもわかった。特有の遺伝子が多いということは、当然、ほかの動物とかけ離れているということである。この特有の遺伝子群が、神経伝達や吸盤などタコの独特の組織の発現で重要な働きをしているという。
     研究グループは、タコの体表の色や質感の制御にかかわるたんぱく質をコードする6つの遺伝子も同定した。これらの遺伝子のおかげで、タコは非常に高い擬態能力を備えていたのだ。
     さらにタコのゲノムには、ゲノム上の位置を転移可能な遺伝子「トランスポゾン」が数多く存在し、きわめて複雑なゲノム構造を持っていた。このようにタコのゲノム構造は、ほかの動物とあまりにもかけ離れていたのである。

    脊椎動物とさまざまな無脊椎動物の染色体上におけるホメオティック遺伝子の分布図。一番下がタコの分布図で、ほかの脊椎動物がクラスターを形成しているのに対し、タコではバラバラになっている(Figure2 : Local arrangement of Hox gene complement in O. bimaculoides and selected bilaterians. Oleg Simakov et al. “The octopus genome and the evolution of cephalopod neural and morphological novelties”Nature volume 524, pages 220 224 (13 August 2015より 写真=沖縄科学技術大学院大学OIST)。

     この結果には、ゲノム解析を行った研究グループが一番驚いたようで、「エイリアンのようなゲノム配列を記述したのは、私たちが初めてです」とのコメントを発表している。

     なぜタコは、体の機能や能力がほかの動物とかけ離れているのか?
     この事実を説明する最も可能性のある仮説が、イカ・タコ類として同一グループにまとまった遺伝子が、凍結保存されて宇宙からもたらされた可能性である。

    ウイルスがタコを進化させた

     地球上の多様な生物種は、数十億年にも及ぶ長い進化の末に生みだされた。ご存じ「ダーウィンの進化論」であるが、ダーウィンは進化論を展開するにあたり、同じ種の中にも、個体間で形質にばらつきがあることに着目した。同じ種でも、より生存に適した形質を持つ個体のほうが繁殖率が高いので、この形質は、種の中に広がっていくと考えた。これが自然選択説である。

     現在では、遺伝子の突然変異=ゲノム内DNAの塩基配列の変異が、個体間の形質の変化を生みだし、これが自然選択され、進化が起こると考えられている。ゲノム内のDNAが変異する理由は、長い間、複製時のコピーエラーや環境からの刺激などで起きる突然変異しか知られていなかった。ところが、近年、単細胞生物において、遺伝子の水平伝播が見つかり、異なる個体間で遺伝子が移動することがわかってきた。

     さらに、レトロウイルスが遺伝子を組み換えることが可能なことがわかり、ゲノムの変化が突然変異だけとは限らないことが証明された。生物の進化の原動力にウイルスがかかわっていたのである。しかも、ウイルスによりもたらされたと思われる遺伝子は、かなりの数に上ることもわかってきた。
     そして、地球の大気中には膨大な数のウイルスが含まれている。近年の研究では、大気境界層に収集器を設置したところ、1平方メートルあたり8億個以上のウイルスが降り注いでいることが判明している。このウイルスの中には、宇宙から降り注がれているものもあるとする考えがある。

     ご存じのようにウイルスで引き起こされるインフルエンザは、冬に流行する。この原因は、いろいろ考えられているが、実ははっきりとわかっていない。
     流行は、冬期の低温と結びつけられることが多いが、だとすると極近くの年間を通して気温が低い地域では、年中インフルエンザが流行していることになる。明らかに低温が原因ではないのだ。
     では、なぜ冬に流行するのか? 『生命は宇宙を流れる』の著者フレッド・ホイルによると、インフルエンザウイルスが彗星起源で、周期的に地球軌道上にばらまかれているとすると、この謎が解けるという。

    「生命(DNA)は宇宙を流れる」https://www.amazon.co.jp/dp/4198608253

     ウイルスは、バクテリアなどと比べて非常に小さく軽い。宇宙から降り注いだとしても、大気の空気抵抗により、落下の速度は、非常に緩やかなものとなる。実際にはウイルスは、落下というよりも、気流に流されながら移動することになる。
     そして、気流は赤道と極地方の気温勾配が大きいほど強くなる。このため、冬には大規模な下降気流が生じるのだ。この下降気流によって、ウイルスは高高度から地表付近に運ばれてくる。これが、インフルエンザが冬に流行する原因だという。

     このように、宇宙から膨大な数のウイルスが運ばれてきているとすると、その中に混じっていたレトロウイルスがタコの遺伝子を組み換え、宇宙由来の遺伝子を組み込んだとも考えられる。こうして、タコは急速に進化を遂げた可能性があるのだ。

    インドに降った謎の赤い雨

     だが、タコがエイリアンかもしれないと発表した国際研究グループによると、遺伝子どころか、タコやイカの卵そのものが、凍結保存され地球にもたらされた可能性も考えられるという。この場合、タコは完全なエイリアンということになるが、それほど、タコの生物学的特徴は、ほかの生物とかけ離れているのだ。

     タコやイカの卵のような比較的大きな有機物が、宇宙からもたらされることはありうるのか? 世間一般では不可能だと考えられている。ところが、非常に興味深い報告が存在した。
     ロシア宇宙局によると、国際宇宙ステーションの外装に、地球由来と思われるプランクトンなどの微生物が生息している痕跡が見つかったという。海面の生物が上昇気流で国際宇宙ステーションまでもたらされた可能性があるらしい。
     地上の生物が宇宙までもたらされることがあるならば、その逆も十分考えられる。凍結乾燥されて軽くなった卵などが、大気圏に降り注ぎ、気流に乗って地表までもたらされる可能性も否定できない。

     2001年7月、インドのケーララ州で不思議な気象現象が起きた。赤い雨が、断続的に2か月間も降りつづいたのだ。当初、隕石由来か中近東付近から巻き上げられた埃が雨に混じったのではないかとされた。だが、この説はすぐに否定された。

    2001年7月にインドのケーララ州に降った赤い雨。
    赤い雨の顕微鏡写真。

     赤い雨に含まれていた成分は、生物由来だったのだ。当局は、この赤い成分は、ある種の藻類の胞子だったとして、事態の収束を図った。しかし、マハトマ・ガンジー大学のゴドゥフレイ・ルイ博士らの研究グループは、当局の発表に真っ向から異を唱えた。
     ルイ博士によると、赤い粒子の大きさは4~10μmで、エネルギー分散型X線分析装置による解析では、主要な構成要素は、炭素と酸素であった。微量な構成要素としてはシリコーンが卓越しており、そのほかに鉄、ナトリウム、アルミニウム、塩素などが含まれていた。炭素窒素自動分析装置による解析では、43.03パーセントが炭素で、4.43パーセントが水素、1.84パーセントが窒素であった。
     高倍率での顕微鏡観察から赤い粒子が、単細胞生物の細胞にそっくりであることがわかった。表面はスムーズな膜状の厚い壁で覆われ、一部がへこんで、帽子のようになっていた。しかし、赤い粒子の中からDNAは検出できなかったという。この時点で、当局の発表した藻類の胞子説は否定されることになる。

    赤い雨は宇宙由来の生物だった

     博士らはさらに粒子の培養を試みた。すると、なんとセ氏300度というとんでもない熱水環境下で炭化水素を含む有機物と無機物の両方を代謝し増殖を始めたという。雨に含まれていた赤い粒子は、休眠状態にあった超好熱菌の胞子のようなものだったのだ。そして、セ氏300度の培養で増殖した細胞を蛍光検査した結果、青、緑、赤の領域で強い自己蛍光が検出された。しかも、その放射パターンは、これまで確認されているどんな生体分子とも異なる非常に特殊なパターンを示していた。これは、未知の生体分子が、この細胞に含まれていることを示すという。
     さらに、セ氏121度で2時間培養した赤い粒子では、蛍光現象が宇宙空間で広く観測される広域赤色放射( ERE:Extended Red Emission)と呼ばれる放射と酷似していることがわかった。
     驚くことに、天文現象として知られる放射を赤い粒子も放射していたのである。宇宙には、この謎の赤い粒子状の生物が充満している可能性も否定できないという。宇宙空間に赤い粒子状の生物の芽胞が満ちているとするならば、赤い雨を最もうまく説明できるのは、彗星が起源だと考えることだろう。
     2001年以降もケーララでは、7月から9月の間に赤い雨が降ったことが報告されている。さらに、2002年の7月29日にはベトナムで、2008年の7月31日には南米コロンビアで赤い雨が降ったことが報告されているという。いずれの場所も緯度がケーララに近く、降った時期も重なる。

     このことから、赤い粒子を含んでいた彗星の軌道を、毎年地球が横切ることで、彗星のかけらが流星として大気圏に突入し、大気上層部に赤い粒子をまき散らしている可能性があるという。実際、赤い雨が降りはじめる前、多くの住民が爆発音や閃光を目撃していた。
     赤い雨からは、DNAが検出されなかったことから、直接的に地球生物の由来になったとは考えにくい。しかし、地球上で増殖可能な生物が宇宙から降り注いでいるとすると、タコの卵が休眠状態のまま、宇宙から運ばれてきた可能性も十分に考えられる。

     タコは、その高度な生物学的特徴とは裏腹に、寿命が非常に短いことが知られている。タコは、まだ完全には地球に順応できていないのではないだろうか。タコの寿命が延びたとき、地球侵略が始まるのかもしれない。

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