君は武術の神秘を知り「戦争反対!」と叫んだことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」
極真と大気拳、試合成立でーーブレイキングダウンのごとき「誰が最強なのか」議論はオカルトめいた神秘系武術を含めて展開していた。男として味わった、戦いの痛みを語る回である。
記事を読む
文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
突然の訪問者といえばセールスか勧誘か。そう身構えるオーケンが預言者であったかもしれないパラレルを回想する。
このことは何度かエッセイに書いている。僕が生きてきた中で特に印象的な不思議体験だったからだ。
90年代半ば、僕が20代の頃だ。
夜の何時くらいだっただろうか、自室のブザーが鳴った。配達物か何かだろうと不用意に扉を開けると、老婆が一人微笑みながら立っていた。その横に、中学生くらいの少女がやはり、微笑みながら立っていた。
「なんですか?」
そう尋ねると、老婆の方がやおらいったのだ。
「大槻さんですね。もうすぐ世界が滅亡しますよ。そのことを知っているのは…」
イエス・キリストです。とでもいうのかな?
よくある宗教の勧誘かとも一瞬思ったものの、二人の微笑みは何かこうニヤニヤとしていて、普通の状態ではないものを感じた。何より、続いて老婆が言った「世界滅亡を知る者」の名を聞いた時『あ、やべぇ人たち来ちゃった』と僕は思ったのだ。老婆の挙げた者は3名だった。
「そのことを知っているのは、大槻ケンヂとデーモン小暮と天知茂なのです」
もうつっ込みどころしかない3名のチョイスなのであった。
まず大槻ケンヂですっていわれても、オレ世界の滅亡も知らないし、デーモン小暮(現:デーモン閣下)さんとはその当時一緒に「ラジオ巌流島」という番組をやっていたけど世界の滅亡の話なんて一度もした事がない。「芸能人にアダ名をつけよ~!!」みたいなコーナーをやって井上陽水さんに「クワガタ」とかアダ名付けてガハハハと笑っていたレベルだ。
そして天知茂に至っては、なんで天知茂さんなのか? オーケン→デーモンとバンドつながりで来て、なぜいきなり昭和の大スターがそこで出て来るのか、そのトリオ選抜の意味がまるでわからない。
「…天知茂…ですか? なつかしいですね」
読者は天知茂をわかるだろうか?
70年代の刑事ドラマ「非情のライセンス」などで活躍したニヒルな名俳優である。眉間にいつもシワを寄せてクール。重く陰鬱なムードがあってかっこよかった。さらにそれで『生まれた時がわるいのか』などと歌うのだから、当時は子供の目には「動くお葬式」という感じすらあった。そんな名優とトリオを組まされたわけで困惑するばかりである。
「ちょ、ちょっと、外でお話しましょう」
僕は2人を外へ連れ出した。2人が部屋に入ってきそうな勢いだったし、オカルト好きとして2人の話を聞いてみたいとも思ったのだ。3人で中野の大和町から高円寺の裏通りまで夜道を歩いた。
話を聞くとどうやら二人はおばぁちゃんと孫で、おばぁちゃんの方が“見える”“聞こえる”人のようであった。せまり来る世界の終わりやそれを知る者たちの名を、“何かから”見てしまい聞いてしまうようだ。
そういった話の途中にも「あっ、ほら“光”が来たっ」「また“光”に打たれた、ああっ」といって掌をあちらこちらにかざして「来るな」というポーズを取ったりする。通行人がジロジロと僕たち3人を見ていた。孫娘はそんなおばぁゃんの様子をまったく奇妙には感じていない風情であった。ただニヤニヤしていた。
話した感じでなんとなく、何らかの家庭事情でおばぁちゃんと孫娘は2人暮らしで、日常から2人はおばぁちゃんの“光”からの預言を共有しており、時には孫娘がそれを補強しているように感じられた。そしておそらく当時、孫娘は大槻ケンヂとデーモンさんのファンだったのだろう。そして天知茂は…おばぁちゃんの推しなのだ。2人は、おばぁちゃんが“光”によって“見える”世界滅亡のビジョンを共有する延長上で、それを知る者、そして多分、それを回避させることのできる者達として、自分らの推し、オーケンとデーモン、そして天知茂による世代とジャンルを越えたトリオを抜擢、ビジョンを共有したのだ。世紀の推し活である。
「なるほど、ある意味ミラクル3ですね。あの…そろそろ僕帰ります!」
高円寺庚申通りの裏の公園でしばらく話を聞いて「これは本格的にやばい」と思い僕は2人を置いて走って逃げた。
あれから何十年か経つ。世界はボロボロだがまだ滅んではいない。やはりおばぁちゃんと孫娘の話は2人の幻想に過ぎなかったのか? さっき調べたら天知茂さんは1985年に54歳で亡くなっていた。そうなのか。ということは当時すでに彼はこの世にはいなかったということである。なんとなれば、おばぁちゃんと孫娘が結成を確信した世界を滅亡から救うミラクル3の構成は、人間(オーケン)、悪魔(デーモン)、幽霊(天知)という現世と魔界と霊界をもまき込む壮大なスケールのトリオなのであり、今すぐマーベルで映画化したい超ダチョウ俱楽部級コラボであったのである。
しかし、この3名で一体世界のために俺ら何が出きたのだろうか? と今さらながら思い悩む。何せその頃すでにメンバー一名亡くなっていたのだから、考えられるのはオーケン・デーモンが「ラジオ巌流島」に青森からイタコさんをゲストで呼んで天知茂の口寄せをしてもらうくらいであったろうけれど、それで世界を救えるともとても思えないし、よしんばCMはさんで「芸能人にアダ名を付けよ~!」コーナーにも口寄せ天知茂さんに出ていただいたところで
(大槻)「決定!天知さんのアダ名は『カブトムシ』!」
(デーモン)「ガハハハハ!」
(大槻)「どうですか~天知さん!?」
(天知)「いやぁ、非情のニックネームだね」
(大槻)みんなオレらがわるいんです!」
(デーモン)「では諸君また会おう!ガハハハハ!」
ダメだ。世界の役に立てないまま番組が終わってしまった。
だがしかし、先日ふと思ったのだ。
ーーいわゆるマルチバースでこのミラクル3が世界滅亡を密かに救っていた。
という事はないだろうか?
webムー読者なら御存知の通り、近年この宇宙は多次元構造であり、似て異なる世界が同時に無限に存在し、干渉しあっている可能性が高いという説が唱え始められている。それならば、どこか別のマルチバースの一つで、人間、悪魔、幽霊からなる超次元トリオが世界の存亡をかけて戦い、勝ち、そして我々のいるこの時空に干渉して今も世界は滅亡せず、平和が保たれている…とは考えられないだろうか!?
何か…視聴率不振で無理矢理まとめた昭和の巨大ロボットアニメの最終回みたいになってしまったが、ワンチャン、オーケン・デーモン・天知茂のミラクル3に関してそんなこともなくはなかろうと思ったりもするのである。
できるならばこの今いる世界で、ミラクル3で世界の滅亡を救う大活躍をしてみかたったもんだが、デーモンさんも忙しいだろうし、天知茂さんはとうに亡くなっているし、残念、タイミングが合わんね。生まれた時がわるかった。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
関連記事
君は武術の神秘を知り「戦争反対!」と叫んだことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」
極真と大気拳、試合成立でーーブレイキングダウンのごとき「誰が最強なのか」議論はオカルトめいた神秘系武術を含めて展開していた。男として味わった、戦いの痛みを語る回である。
記事を読む
君は母親に「人類が滅亡するわよ!」と警告されたことはあるか?/医者にオカルトを止められた男(2)
「カムカムエヴリバディ」でも描かれたように、1970年代は「人類滅亡」はお茶の間レベルの身近な話題だった。 医者によって「オカルトという病」を宣告された男・大槻ケンヂが、その半生を、反省交じりに振り返
記事を読む
重篤読者・大槻ケンヂが語る「ムー」熟読術/「エレクトリック ジェリーフィッシュ」リリース記念インタビュー
ムー愛読者であり、一時は「オカルトにのめりこみすぎて医者に止められた」過去を持つ重篤読者、大槻ケンヂ氏が、ムーPLUS初登場。ムーでの取材は約10年以上ぶりとなる。 ノストラダムスの大予言が外れた”ネ
記事を読む
目指すは鬼マスター! 伊豆大島に役行者の足跡を追う/松原タニシ超人化計画・伊豆大島(1)
松原タニシが超人の足跡をたどり、自らも超人となることを目指す「松原タニシの超人化計画」。これまで4回はもっぱら山に登っていた感じもあるが、今回、旅はついに海を越える!
記事を読む
おすすめ記事