九州の洞に伝わる民俗信仰の秘伝書「嶽啓道 まじなゐ作法」/ムー民のためのブックガイド

文=星野太朗

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    嶽啓道 まじなゐ作法

    まじない屋きりん堂/本田不二雄 著

    嶽啓道の具体的な作法までを網羅した世界初の秘伝書

    「嶽啓道」。一般的には聞き慣れない名称ではあるが、「洞」と呼ばれる聖なる場をベースに、御祭神や御本尊といった神仏によらず、いわゆる精霊(おかげさま)を介し、土地神などと交渉する、独自の民俗宗教である。これまで文字化されることもなく、女性たちのあいだで、口伝のみで継承され、「多くの人たちに知られることもなく、消えゆく運命にある」教えであるという。

     本書の著者のひとりであるきりん師は、「奇しき縁により九州のある島に伝わる『洞』の末子となり、嶽啓道の最後の継承者とな」った稀有な人物であり、嶽啓道の杜頭である。
     もうひとりの著者・本田不二雄氏は、「神仏探偵」「神木探偵」等の異名を持つ著作家で、日々日本全国を東奔西走、「おもに一般向け宗教書シリーズの編集制作・執筆に長く携わ」ってきた。過去に本誌においても、何度もきりん師に関する記事を執筆されている。

     本書は、そのきりん師の不思議な生い立ちから、嶽啓道のあらまし、その具体的な作法までを網羅した、世界初の秘伝書である。本書によって、これまでいかなる民俗調査の対象にもなったことのなかった嶽啓道の存在が、初めて世に知らしめられることとなったのは、何とも慶賀すべきことである。 
     他所ではお目にかかれないような、珍しいまじない道具の図版が満載されていて、それだけでも価値がある。特に、口絵の美しいカラー写真の数々には、思わず息をのむ。
     また、嶽啓道においては「書符」と呼ばれるまじない符が重視されるが、本書にはその実際の書符が3柱も添付されている。現時点では、電子書籍には逆立ちしてもできない芸当で、改めて紙の本のよさを痛感する次第である。
    「駒羽万昌符」と名づけられたこの書符は、「日々のご自身による徳の積み重ねが、やがて羽ばたいて自分や周りの人にも還ってくる」という霊験を持つもので、なんと封入されるは初版限定とのこと。心ある人は、一刻も早く本書の入手に動いていただきたい。

     なお、書名にはあえて「まじなゐ作法」と表記されている(本文中は「まじない」)が、これは類例のない嶽啓道独自の作法というニュアンスをこめた呼称とのことである。

    駒草出版1870円(税込)

    (月刊ムー 2025年10月号掲載)

    星野太朗

    書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。

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