自分の財袋を調え、金運を向上させる! 巳さんまじない/嶽啓道巳年財運まじない

文=本田 不二雄(神仏探偵)/取材協力=麒麟(嶽啓道杜頭)

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    巳年の本年、今年こそはと財運・金運アップを祈願する方々も多いようだ。 そこで本号では、みずからを「巳様信仰者」と称する嶽啓道・き りん(麒麟)師に依頼し、特別なまじない符を揮毫いただいた。

    財運の財とは人にとって価値のあるもの

     昨年12月の末、都内某所の「まじない屋きりん堂」を訪ねたら、き りん(麒麟)師は【ちいさなおまじなゐ展】(1月11~15日開催)の準備の真っ最中だった。
     そのため、きりん堂の室内のそこらじゅうに、師のいう「おかざりさま」や「まじない箱」に用いるパーツ(アイテム)があふれていた。
     なお、「おかざりさま」とは、師曰く、「おかげさま(精霊)」のお宿りを招く華やかな装飾物で、「まじない箱」は、嶽啓道独特の書符と、山のものや海のもの(貝や貴石、実のなる植物など)で構成された縁起物である。
     それらはいわば、呪術(まじなゐ)とアートが混然一体となったもので、思わずその世界観に引き込まれる独特の魅力を放っている。まさに唯一無二の作品群であり、き りん師(嶽啓道)の世界観が表されたものとして注目される。
     それはともかく、「まじない箱」に用いられるアイテムのひとつひとつが興味深い。というのも、それらひとつひとつが、いわゆる「財運」や「金運」のシンボルであり、それらのご利益の由来を教えてくれるものだからだ。き りん師はいう。
    「何をもって『財』とするかは、時代によって違います。
     現状、私たちの貨幣価値、暮らしの基軸となっているのが貨幣(おカネ)ですから、その多い少ないが財運の目安になっていますが、昔の人たちの『財』は何だったかといえば、その土地の主食となるものでした。
     漢字の『財』は、『貝のもの』の意味。縄文時代の遺跡に貝塚がありますが、貝は本来の主食で、重要なたんぱく源でした。
    なお、このタカラガイは海のものですが、貝のものは海と陸、水と土のもの両方があって、陸のカタツムリやタニシなども貝に含まれます」
     つまり「財」とは、もとは命の糧そのものだった。ちなみに「財」という漢字を辞書で引くと、「貝」+「才(良質な木材の意味)」で、「人にとって価値のある物」とある。

    「実になるもの」を「巳さん」で念押しする

     ちなみに、タカラガイ(子安貝)は古来、豊産、繁栄、再生、富などを象徴するものとされ、かつて中国では貝貨(貝殻を用いた貨幣)として流通していた歴史がある。
    「あと、稲穂もそうですが、この(山で採集した)ムクロジの黒くて硬い実は、数珠に使われたほか、水に浸すと泡立つ成分があり、石鹸代わりに用いられました。また、赤い実はバラ科のヤマバラ(ノイバラ)の実(ローズヒップ)で、酸味が強くビタミン豊富で、疲れをとる(抗酸化作用あり)保存食でした」 いずれも「人にとって価値のある物」であり、師によれば、「殻に閉じ込められたこれらの実も貝と同じく『財』であり、豊かさの象徴」であるという。
     ともあれここで注目すべきは、民俗呪術の文脈では、こうした「実のもの」を「巳のもの」と言葉遊び的に変換し、まじないの具として用いていることだ。 なお、き りん師の「まじない箱」はインテリアとしても好適だが、日々愛でながら思いを託し、最終的には心願成就を祈って燃やすことで完結する(=実〈巳〉を結ぶ)呪物である。
     そのキーアイテムが「箱」に封入されている書符だ。
     その、文字とも絵ともつかない独特の筆致は何を表しているのか。師によれば、「巳さんの足跡、または泳いだ跡」をたどったもの。いわば見えざる「ヘビの精(巳さん)」(ヘビ由来の霊的存在)の動きを可視化したものであるらしい。「まじない箱」においては、「実(巳)のもの」を書符の「巳さん」で念押ししている形である。

    縁起物を構成している財物。手前3個がタカラガイ、上部左から、ノイバラの実(ローズヒップ)、稲穂、ムクロジの実、白ナンテン、松毬。

    大切なことは、あなたの何がおカネを生むのか

     そして今回、巳年の財運・金運向上をという本誌の求めに応じて、き りん師に「巳さん符」を揮毫していただいた(後述)。
     ただし、この符によってタナボタ的なご利益を期待するのは筋違いのようだ。
    「この物価高やら何やらで、皆さんいろいろ苦しいから、苦境を早く解決したいとか、一発逆転とかを期待するという発想になりがちですが、『実(巳)になること』って、本当は時間がかかるもの。実がなるまでには、季節が一巡するだけの時間が必要なんです」
     そこでき りん師が提唱するのが、「財袋を調える」という考え方だ。
     財袋とは何か。師はそれを東洋医学でいう「五臓六腑」にたとえる。
     つまり、人間の体内にはいろんな袋(臓腑)がある。おカネの出入りを血流にたとえると、その中心を担っているのは心臓だが、それだけで血流が維持されているわけではなく、肝臓、脾臓、肺、腎臓(五臓)といった臓器が協働し、血中に栄養を供給し、老廃物を取り除き、またはろ過し、フレッシュな酸素を取りこむなどして維持されている。
     いい方を換えれば、人それぞれ、さまざまな形の財袋をもっている。おカネの財袋だけではなく、健康状態、人間関係(人脈)、才能、資質(性格)といった財袋をひっくるめてその人の大袋(大黒袋)ができていると考える。
     つまり財運は、その人のもつ財袋の中身に左右されるのだ。
    「だから、全体の袋が調ったうえで、中も調えないと。財袋は人それぞれで、大きさも中身もちがいます。本来は人脈と才能によって支えられていた人が、おカネばかりに執着して大袋がいびつになり、結果破裂(破綻)してすべてを失ったりすることもありますし」
    「大切なことは、どうやったらおカネが入るかではなく、あなたの何がおカネを生むのか。よい占い師であれば、『あなたの金運はこうだ』ではなく、『あなたのおカネの生み方はこうだよね』と具体的にアドバイスしてくれるでしょう」(き りん師)
     そこで今回は、あなたの財袋を調えるまじないをご案内しよう。
     方法は簡単だ。それぞれの財袋に対応した巳さんに出動いただき、身(巳)につけるというものである。

    きりん師謹製「まじない箱」の一例。龍や蛇体を思わせる書符とヘビの脱皮、実(巳)のものなどが配されている(【ちいさなおまじなゐ展】より)。
    「まじない箱」のもう一例。こちらはかつて神社で頒布されていた福銭や稲穂がキーアイテムになっている(【ちいさなおまじなゐ展】より)。

    (月刊ムー 2025年3月号)

    本田不二雄

    ノンフィクションライター、神仏探偵あるいは神木探偵の異名でも知られる。神社や仏像など、日本の神仏世界の魅力を伝える書籍・雑誌の編集制作に携わる。

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