「湯屋守様」をお焚き上げ! 「昼神の御湯」で送られる異形の神々/奇祭巡り・影市マオ
神々が憩う「昼神の御湯」レポート後編。霜月祭を踏まえた現代神事は、盛大な湯屋守様のお焚き上げでクライマックスを迎える。
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タイ人たちが信仰する「ピー」の世界を紹介するシリーズ。神木に宿る女神も、肉にとり憑く悪霊も、どちらも「ピー」なのだ。
精霊信仰といえば、森羅万象に宿る神や霊のことを想像するだろう。タイも同じで、あらゆるものに霊が宿ると信じている。タイ族は世界で最初の農耕民族と呼ばれることから、特に木々や草、大地に関係したピーが多い。
ここではそんなタイのピーのなかでもタイ人の特徴を窺うことができるピーなどを見ていく。
タイでも樹木は道具や家屋の材料になるなど、生活に必要なものだ。ピーが宿っていると伝えられ、大切にされてきた。そのため、神木のようなものがそこかしこにある。日本の神木は主に神社にあるが、タイでは寺院以外でも街中に自然と神木が現れることもしばしばだ。
そして、木に宿るピーは主に女性である。ここでいう「ピー」は精霊であり、神でもある。タイでは精霊信仰のはずが、この木の精霊は「ルッカ・テワダー」という神の一種だと説明されている。仏教を守護する四天王に仕える樹木を守る神のことだ。
タイの木の精霊で最も有名なのが「ナーング・タキアン」である。タキアンという木に宿る女性の精霊で、彼女に断りもなくその木を切ると災いを受けることになる。しかし、普段は気性がおとなしく、見た目は美しい。その容姿や気質がタイ人女性の象徴であることから、タイでは怖がられるというよりも愛される精霊だ。
タキアンはフタバガキ科の木で、タイでは家屋や船の材木に使用される。そして、ナーング・タキアンが宿る木で作った船や家には幸運がもたらされると信じられている。災いをもたらすと信じているわりには需要もあるというのが、細かいことを気にしないタイ人らしさでもある。
そして、精霊が宿るタキアンは加工されるとピーも姿を変える。家屋になれば「ピー・バーン・ピー・ルアン」、船になれば「メー・ヤーナーング・ルア」と呼ばれる守り神になるのだ。ただ、土地や船を守る神は、ピーがいない材木やタキアン以外にも宿る。必ずしもピー・バーン・ピー・ルアン=元ナーング・タキアンではない。
他方、ナーング・タキアンを熱烈に信仰する人は家屋をタキアンで造ることを好まない。ナーング・タキアンは女性らしく優しいピーなので、彼女の住処を人間の都合で奪いたくないという優しさがあるのだ。
とくに精霊信仰の信仰心が強い東北地方には特有のピー「ピー・ポープ」もいる。悪霊として人に取り憑いてこの世に姿を現す。ウィンヤーン(死んだばかりの人魂)ではなく、あたりを浮遊していた悪霊が年齢や性別に関係なく憑く。だれでもピー・ポープになる可能性があって、特に東北地方の農村で恐れられている。ピー・ポープは人間に憑依し生肉や肝臓などを好み、生きた動物や人間、場合によってはそれらの死肉に食らいつく。
このピーが現代でも東北地方に現れ、村中がパニックになる様子が報道で取り上げられる。近年では2018年3月、バンコクから車で3時間強の東北地方の県、チャイヤプーム県ソンポーイ村に現れたと噂が立った。1か月間に健康だった若者7人が相次いで死亡し、霊媒師のモー・ピーが「だれかが呪術をこっそり使ったが失敗し、ポープを生みだした」といった。そのため、ソンポーイ村の住民や近隣の村人300人が集まり、盛大にお祓いが行われた。
この例はおとなしく解決できたケースだ。疑わしい者を暴行するなど、西洋の魔女狩りのような事態が起こることもある。それほど、現代においてもピー・ポープは農村で信じられている。
一般的にピー・ポープは行いが悪い者に取り憑くと信じられ、小さなコミュニティーで怪しい言動や行動を取ると、「ポープに取り憑かれた」と噂される。つまり、ピー・ポープは村社会が秩序を持って運営されるために用意されたいい伝えなのだ。子どもや孫が村八分にされないための戒めとして機能し、今でも消えることなく語り継がれているのだ。
ムー2020年6月号より
髙田胤臣
1998年に初訪タイ後、1ヶ月~1年単位で長期滞在を繰り返し、2002年9月からタイ・バンコク在住。2011年4月からライター業を営む。パートナーはタイ人。
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