あの世の存在と安全に対話できる「スピリット・トーキング・ボード(霊話盤)」の理論と心霊主義の時代

監修=ヘイズ中村

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    かつて日本で大流行した「コックリさん」とルーツを同じくする降霊術のおおまかな歴史と理論などについて紹介!

    「コックリさん」と「霊話盤」はルーツが同じ

     スピリット・トーキング・ボード(霊話盤)とは、この世を去った霊たちに語りかけ、双方向のコミュニケーションをするためのツールである。19世紀にアメリカで生まれ、やがてヨーロッパにも広がり、爆発的な人気を獲得した。かつて日本で大流行した「コックリさん」とルーツを同じくする降霊術だが、ルールを守って行えば安全かつ有用な技法だと、ヘイズ中村氏はいう。

    「スピリット・トーキング・ボード」は、日本語にすると「霊話盤」で、その名のとおり、あの世の存在たちと対話するためのツールだ。別名を「ウィジャ盤」といい、この名称のほうがよく知られているが、これは登録商標なので、本稿では一般名詞であるスピリット・トーキング・ボード(以下「霊話盤」)で話を進める。
     もっとも、霊話盤だのウィジャ盤だのと名称を並べたところで、今ひとつピンとこないかもしれない。しかし、「コックリさん」ならばどうだろう。
     ご存じのことと思うが、コックリさんは、1970年代に小中学校を中心に全国で大流行した。数人が硬貨に人差し指をのせてコックリさんを呼び、質問をすると、だれも動かしていないはずの硬貨がスルスルと動き、紙に書かれた「はい」「いいえ」や五十音を指し示して質問に答えてくれるというものだ。 「狐狗狸さん」という漢字が当てられることもあるため、この遊びが日本生まれだと思っている人は多いことだろう。だが、仏教哲学者で「妖怪博士」の異名をとる井上円了の研究によれば、コックリさんの源流は、1884年にアメリカの船員によって下田に持ち込まれたテーブル・ターニングであるという。

    1890年ごろに作成された霊話盤の一例。アルファベット、数字、YES/NO、G00D BYEなどの文字が印刷されている。
    1970年代に日本で大流行した「コックリさん」で使用する文字盤の一例。五十音、はい・いいえ、数字、鳥居を書くのが一般的だった。

     少々説明すると、テーブル・ターニングとは19世紀後半以降、欧米で大流行した降霊法の一種だ。数人がテーブルを囲んで軽く手をのせ、霊を招いて質問を発すると、テーブルがひとりでに動く。これは、参加者のうち霊的能力がある人を媒介として、霊がテーブルを動かすためだと考えられていた。
     テーブルが動けば脚が上下して床をたたくので、当然ながらコツコツという音が出る。それを霊の意思が反映されたものとして、質問への答えがイエスなら音を1回、ノーなら2回鳴らすというふうに交信を試みた。
     しかし、イエス・ノーだけでは複雑な会話はできない。のみならず、トリックを用いて音を立て、ひと儲けを企む詐欺師たちが後を絶たないという嘆かわしい状況も増えてきた。
     そこで、より正確で詳細な情報がほしい人々は、アルファベットが記されたカードやタイル、あるいは子供が文字を覚えるのに使う積み木などをテーブルに置き、その文字を霊に指し示してもらうという手法を採用するようになっていった。

    19世紀後半以降に欧米で流行したテーブル・ターニング。参加者がテーブルに手をのせて霊に質問する。

     この手法はほどなく、アルファベットなどを一枚の薄い板に印刷し、どこにでも手軽に持ち運べるような形に進化した。
     これが霊話盤の原型だが、さらに「プランシェット」という器具が加わることで、使い勝手が格段に向上した。プランシェットとは、フランス語で「小さな木の板」を意味する。ハート形が一般的で、参加者がこれに指をのせると動きだし、先端部分で文字を指し示していく。もともとプランシェットは独立した器具で、1853年に発明された。先端のほうに小さな丸い穴が開けてあり、そこに筆記用具を立てて自動書記をするのに用いられたのだ。裏にキャスターがついているため、わずかな力でも滑らかに動いた。
     この器具は大人気を博し、多くの玩具メーカーから発売されたが、霊話盤との組みあわせが考案されてからは、単体としての影は薄れていった。

    自動書記に用いられたプランシェット。先端のほうに筆記用具を装着するための丸い穴が空いている。

    殺戮兵器の登場と心霊主義の台頭

     さて、霊話盤について語るならば、その発生と発展に大きく貢献した「心霊主義」の潮流を無視することはできない。

     心霊主義とは、シンプルにいうなら「人は肉体と霊魂からなり、肉体が消滅しても霊魂は存在し、現世の人間が死者の霊魂と交信できる」とする思想で、19世紀半ばにアメリカで興り、ヨーロッパにも波及した。一神教を奉じ、死後の魂は天国または地獄に行くか、キリストの再臨によって復活すると信じる人が多いキリスト教圏では、かなり異質な思想である。
     その特徴は、さまざまな技法を駆使して死後の世界と交信することや、エクトプラズムを吐くといった超常的なパフォーマンスが見られることで、またたく間に欧米諸国を席巻した。

     こうした背景には、近代自然科学の発達、産業革命による急速な文明化、東洋的な宗教観の流入などがある。つまり、巷にあふれるようになった工業製品と科学知識、拡張された世界観に応えられる、新たな思想が求められるようになったのだ。

     さらに、アメリカ合衆国では南北戦争後に、イギリスでは第1次世界大戦後に、心霊主義が大きく支持者を伸ばしていることも注目に値する。これは、近現代以降の戦争では、どの社会的階級でも死者が発生するようになったことが影響している。もちろん、それまでにも多くの戦争があり、おびただしい数の人命が失われてきた。しかし、過去のヨーロッパの戦争では、上流階級の子息は後方で指揮を執るだけで、前線で敵と戦うようなことはほとんどなかった。また、接近戦に巻き込まれた場合でも、敵側は彼らの実家からの身代金を期待して生け捕りにすることが多かったため、落命する可能性は低かったのである。その一方で、貧しい平民や農民は歩兵として最前線で戦い、死んでいった。
     ところが、近現代戦に登場した爆撃機などの大量殺戮兵器は、こうした階級差による落命の確率を公平化した。後方にいようが前方にいようが、貴族だろうが平民だろうが、爆弾が落とされれば同じように落命する、という戦争になったのである。

    第1次世界大戦の負傷兵。イギリスではこの大戦後に、アメリカでは南北戦争後に、心霊主義の支持者が急増した。

     こうした変化が図らずも心霊主義を発展させた。
     というのも、近現代以前の戦争によって家族を亡くした平民たちは貧しく、ただ嘆くことしかできなかったが、貴族などの上流階級の子息が戦死するようになると、新たな状況が生まれたからだ。彼らは大金を使って霊媒師を雇い、テーブル・ターニングによる降霊会を開くなどして、この世を去った夫や息子たちとの交流を試みるようになったのである。

     そうした心霊主義者のなかでもとくに有名なのが、シャーロック・ホームズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルだろう。彼はもともと精神世界に深い興味を持っていたが、第1次世界大戦で多くの親族を喪ったことをきっかけに、心霊主義に傾倒していった。心霊主義を広めるべく、自費で各国をまわって講義を行い、その総額は25万ポンドともいわれている。
     大量の資金が流入する分野には、玉石混淆とはいえ、さまざまな才能の持ち主が集まる。そのため、その分野は多種多様な方面へと発展・拡大していく。心霊主義にもそうした現象が起こり、霊話盤が生まれる土壌ができあがっていったのだ。

    アーサー・コナン・ドイル。第1次世界大戦で近親者を喪い、心霊主義に深く傾倒していった。

    霊が降りてきたのか、無意識下にある思念か

     ところで、なぜ霊話盤で簡便に霊を呼ぶことができて、プランシェットが回答を指し示すのだろうか。その疑問に対する決定的な回答はまだない。
     プランシェットによる自動書記については「オートマティスム」、心理学では「筋肉性自動作用」という現象によるものだといわれている。別の存在に肉体を支配されているかのように、自分の意識とは無関係に動作を行う現象などを指す用語だ。この原理を応用した占いにダウジングがある。

     心霊主義的な見地では、自動書記は憑依現象の一種で、霊が霊媒の手を借りて意思表示や創作を行うものとされている。参考までに、科学的には自己催眠、あるいは統合失調症や夢遊病などの病的要因によるとされている。
     また、霊話盤を使ってさまざまな回答が得られることについては、自分の願ったとおりに体が動く「観念運動」という現象だともいわれている。ざっくりとまとめれば、使用者の無意識の中に潜むアイデアを表現する方向で筋肉が動くからだ、ということになる。

     確かにそう思えるような事例は少なくない。だが、読み書きができないのに大量の文書を自動書記した天理教の中山みきや大本の出口なおの例も、それで説明できるのだろうか?  ちなみに、現代でもカトリックをはじめとするキリスト教の主流派からは「悪魔憑きにつながる可能性がある」との見地から、霊話盤の使用を控えるようにという警告が出されている。これは取りも直さず、霊話盤によって(悪)霊が呼び寄せられる可能性があると、宗教界が信じていることを意味する。

     オカルト界隈の研究者の間でも「ポジティブな意識変容のための道具として有用だ」という意見もあれば、精神的な混乱を招く可能性があるとして、経験の浅い使用者に注意を促す一派もあり、見解は大きく分かれているようだ。

     とどのつまり、霊話盤を使った死者との交信は、いまだに神秘的かつ曖昧な部分が多いとしかいえない。霊媒自身が霊の導管になっているという説もあるが、厳密にいえば、それも仮定の域を出ないのだ。
     実践者の身としてわかるのは「原理は不明だが、霊魂が降りてきたかのように機能している」という現実だけなのである。もうひとついえることがあるとすれば、霊話盤は、一般の人が目に見えない世界を手軽に垣間見るには便利なツールだということだ。コックリさんを禁止された世代の方々には忌避感があるかもしれないが、ルールをきちんと守りさえすれば、霊話盤は安全で有用なコミュニケーションの技法になり得る。

     次回は具体的なノウハウをお伝えしよう。よく読んだうえで実践してほしい。

    ヘイズ中村

    魔女・魔術師・占い師・翻訳家。中学生頃から本格的に西洋密儀思想の研究を開始。その後、複数の欧米魔術団体に参入し、学習と修行の道に入る。現在はタロットを使った魔術的技法に関する本を執筆しながら、講座などでの身近な人との触れあいを大切に活動中。

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