古代インドの叙事詩が描いた核戦争と超兵器!! 空飛ぶ戦車“ヴィマーナ”の謎/羽仁礼・ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、古代インドの叙事詩で神や英雄たちが乗り、古代核戦争にも使われたとされる謎の飛行装置を取り
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話題の映画『シン・仮面ライダー』を読み解く上でカギとなる概念「プラーナ」。ヨーガ的文脈における“本当の意味”を解説する!
3月18日より、庵野秀明監督の新作映画『シン・仮面ライダー』が全国の映画館で上映中である。「仮面ライダー生誕50周年企画作品」と銘打たれたこの作品は、1971年に始まった初期のテレビ・シリーズのテイストも色濃く残し、石ノ森章太郎原作の他の漫画ヒーローへのオマージュもふんだんに散りばめる一方、新しい設定もいくつか盛り込まれている。そうした新機軸のひとつが、「プラーナ」と呼ばれる謎のエネルギーである。
劇中「オーグ」と呼ばれる改造人間たちは、この「プラーナ」をエネルギー源とし、それぞれのやり方で体内にこの「プラーナ」を蓄えることにより、超人的な力を発揮するのだ。
「シン・仮面ライダー」の映像ではこの「プラーナ」について詳しい解説はなく、それが真に意味する内容は庵野監督の頭の中にしかないのかもしれないが、「プラーナ」という言葉自体は、インドで非常に古くから用いられているサンスクリット語である。
この言葉は、インドの3000年前の文献にも見られる、「息」、「呼吸」、「風」などさまざまな意味で用いられている。しかし、ヨーガにおいては一般に「生命力」、あるいは「生命エネルギー」といったニュアンスで用いられる。
この考えによれば、人間や動物など生きとし生けるものすべては、このプラーナによって生命を維持している。呼吸や消化、血液循環、排泄、細胞の成長や治癒などの肉体活動の他、意識や思考といったあらゆる生命現象の源となるのがプラーナである。
プラーナはまた、生命体の内部だけでなく空中や水中、無生物の中など、この宇宙のあらゆる場所に偏在し、人間は食物や空気に含まれるプラーナを、食事や呼吸によって取り入れることで生命を維持する。体内に入ったプラーナは、ナディという霊的な通路を通って全身の細胞に運ばれる。このプラーナの流れが順調であれば、人間は健康で幸福な生活を送ることができるが、それが妨げられると、体調不良や病気、不幸などさまざまな不調が生じる。
そこでヨーガにおいては、呼吸によってこのプラーナを体内に採り入れると共に、プラーナの流れを調える「プラーナヤーマ」という特殊な呼吸法が重視されている。
この修行を積んで、プラーナをうまく呼吸から取り入れるようになると、食物から得るプラーナが不要となり、何も食べる必要がなくなるとされる。
実際にヨーガの行者には、何十年も飲まず食わずのまま過ごしている人物が何人もおり、日本でいわゆる不食を実践している人たちも、空気からプラーナを取り入れているため、何も食べなくても通常人以上に健康で精力的な活動を行えるのだと説明される。
そればかりではない、体内のプラーナの流れをうまくコントロールできるようになると、ただ健康に恵まれるだけでなく、他者の病をも治し、未来を予知する、空中を浮揚するなど、さまざまな超能力も身につけることができるというのだ。
古典的なヨーガの教えでは、こうした超能力「シッディ」は、修行が特定の段階まで進むと自然と発現するとされる。一方、こうした超能力の獲得自体は修行の目的ではなく、時として本来の悟りの境地「サマーディ」に達する際の妨げになることもあるとされる。
ではなぜ、体内のプラーナの流れをコントロールできるようになると、そのように不思議な力が得られるのだろうか。
この辺りを理論的に説明しようとしたのがヨーガ行者のヴィヴェーカーナンダである。
ヴィヴェーカーナンダは19世紀インドのヨーガ行者で、1863年、インドのカルカッタ(現在はコルカタ)に生まれた。父は弁護士で、ヴィヴェーカーナンダ自身も西洋式の教育を受け大学も卒業したが、17歳の頃出会ったラーマクリシュナを師としてヨーガにも励み、後に欧米にラーマクリシュナの思想を広めた。
自分でも神秘体験を経験し、サマーディの境地も得る一方で、ヨーガの原則については論理的に、弁舌巧みに西欧人に説き、ヨーガを西洋に広める上で大きな役割を果たした。
そのヴィヴェーカーナンダは、プラーナとは何かについても斬新な理論を打ち立てている。
彼によれば、宇宙のあらゆる物質は「アカーシャ」と呼ばれる物質から作られている。
インド哲学におけるアカーシャとは、すべての物質的存在の根源とされる。つまり地水火風の四大元素すべてを算出し包含する第五元素ともいえるものがアカーシャであり、いわばあらゆる物質的存在の根源である。
それに対しあらゆる作用、活動の根源となるもの、いわば原エネルギー、純水エネルギーとも呼ぶべきものがプラーナである。
人体の筋肉を動かすだけでなく、意識や思考などすべての人間活動の源がプラーナなのだ。それだけではない。プラーナは宇宙の至る所に偏在しており、重力や磁力、電磁作用などの天文学的な物理的作用もプラーナによってもたらされるのだ。つまりプラーナは単なる生命エネルギーではなく、宇宙全体を動かす巨大な宇宙エネルギーなのだ。
そして人体の中にあるプラーナは、宇宙にある全プラーナの一部として、常に不可分の関係にある。それは、大海の水面に生じる渦にも例えられる。渦は一旦生じてもすぐに消えてしまうが、それも全体の水量があるから生まれるのであり、しかも本来の水源と常に繋がっている。
同じように人体のプラーナも宇宙に満ちたプラーナ総体と連動している。そこで、自分の体内を流れるプラーナをコントロールすることは、宇宙のあらゆるプラーナにも影響を及ぼすことになるのだ。
そうなると、原子から天体まで、宇宙に存在するあらゆる物質の活動をも支配でき、物質を変容させたり、天候を操ったり、あるいはモーセが行ったような海を二つに割るという奇跡も不可能ではなくなるというわけだ。
そこであらためて世界の伝説を見渡してみると、そうした不思議を見せた賢者や魔術師の伝説が各地に伝えられていることに気付く。同時に、プラーナと似たようなエネルギーの存在が、呼び名こそ違え古くから世界の至るところに伝えられていることにも思い至る。
チベット仏教ではこのプラーナに相当するものはルンと呼ばれる。中国に伝えられてきた気もプラーナ同様宇宙全体に充満し、これを体内にとりいれて循環させる技法が気功である。中国の仙人たちはこの術を極めることで、不老不死を達成し、さまざまな不思議な術を見せたという。
ポリネシアでは「マナ」と呼ばれる魔術的な力が言い伝えられている。ラテン語には、「生命」を意味する「アニマ」という言葉があるし、フリー・エネルギーもじつは大気中のプラーナを取り出すことで可能になるかもしれない。さらにはライヘンバハのオドやライヒのオルゴン、動物磁気なども、時にこれらと同列に扱われることがある。
この種の原エネルギーのような想定は、日本の人気漫画の中でもしばしば見られるものだ。岸本斉史の「NARUTO」では、本来インドで霊的エネルギー器官について用いられていた「チャクラ」という言葉が、忍術を生み出すエネルギーとして用いられている。荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」で、ジョナサン・ジョースターやジョセフ・ジョースターといった初期の主人公や、「鬼滅の刃」の鬼殺隊が用いる特殊な呼吸法は、ヨーガのプラーナヤーマの影響を思わせる。「聖闘士星矢」の「小宇宙」はまさに宇宙エネルギーである。実際ビッグバンの中心は至る所にあるとされるから、我々一人ひとりの体内にもビッグバンのエネルギーが蓄えられていると考えることもできよう。
「シン・仮面ライダー」の場合も、プラーナの伝統的な概念を翻案して用いたものと言える。
この作品には他にも、庵野監督らしいこだわりが随所に見て取れた。オリジナルのテレビ・シリーズをリアルタイムで視聴していた筆者としても大いに感嘆したところであり、読者の皆さんにも是非映画館に足を運ぶようお薦めしたい。
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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