インド東部で「魔術一家殺人事件」発生! 魔女の呪いという疑惑が招いた集団暴行の闇

文=仲田しんじ

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    現代の世にあって魔術が殺人の動機になるのか――。インドの村で“魔女”の嫌疑をかけられた女性とその家族の計5人が、50人から暴行の末に殺害される事件が起きた。

    魔術の嫌疑をかけられた一家が犠牲に

     南アジア諸国やアフリカの一部の農村地域では、今も魔術が広く共同体に浸透しており、魔術に起因する事件も後を絶たない。

     インド東部ビハール州プルニア県の村で7月6日の深夜(現地時間)、魔術師の疑いをかけられた一家5人が50人ほどの暴漢に襲われ、殺害されるという事件が発生した。

     現地メディア「Hindustan Times」によると、一家の中で唯一の生存者である16歳の少年は警察に対し、「日曜日の午後10時頃、約50人の暴徒が自宅を襲撃し、母親を魔術師だと非難した後、刃物で一家を襲撃した」と証言。少年自身はどうにかして逃げ出したが、家族がリンチされ、焼かれる光景を暗闇に隠れて見ていることしかできなかったという。

    「暴徒たちは棒切れや棍棒、鋭利な武器で武装していた。家族みんながロープで縛られ、村の池まで引きずられながら、道中ずっと暴行と虐待を加えられた」(生存者の少年)

     現地警察幹部も、記者団に対して「犠牲者は生きたまま焼かれ、黒焦げの遺体が村近くの池から回収された」と明かしている。

    画像は「BBC」の記事より

     英「BBC」によると、近くに住む目撃者の女性が騒音に気づいて外を見たところ、(犠牲者たちの親族ではない)病気の少年が地面に横たわり、村の退魔師(いわゆるエクソシスト)が祈りの言葉を唱えてなんらかの儀式を行っていたという。

     このエクソシストは、犠牲者家族のうち2人の女性を魔女であると宣告し、ラムデフ・オラオンという人物の息子の死と、その甥であるこの少年の病気は、魔女による呪いのせいだと主張した。
     その後、魔女であると名指しされた2人の女性は家から引きずり出され、オラオンの甥の少年の病気を治すために30分を与えられたという。家族は暴漢たちに理性を取り戻すようになだめたが、それが却って彼らの怒りを買い、一家5人は襲われたのだった。

     訴状には、犠牲者たちがガソリンをかけられ火をつけられた時には「半死半生」の状態だったとあり、遺体は袋に詰められてトラクターで運び去られたとも記されている。警察はオンラインでも閲覧可能な情報報告書(FIR)で、前述のラムデフ・オラオンを主犯として指名手配したが、ラムデフは逃亡しているという。

    画像は「CBS News」の記事より

     なお、アンシュル・クマール地区判事も当初、犠牲者5人は生きたまま焼かれたと述べていたが、その後「BBC」に対し、検死報告書ではこの件に関して決定的な証拠は得られていないと話している。

    「犠牲者には火傷や暴行の痕跡が見られるが、正確な死因について、火傷によるものなのか、それとも殺人後に起きたものなのかは不明だ」(クマール地区判事)

     衝撃的なことに、一晩中続いた暴力行為は、現地ムファシル警察署からわずか7キロしか離れていない場所で発生した。クマール判事は「これは我々の失敗である」と認めながらも、対応の遅れについて「地域全体が関わっていたため」と説明した。つまり、地域住民の多数が加担した犯行であったのだ。

     現在、特別捜査班による捜査が進行中だが、クマール判事は迷信によるヒステリーが群衆を殺人に駆り立てた可能性を指摘する。また、捜査官のスーディン・ラム氏は「BBC」に対して「有罪者は終身刑か死刑に処される可能性がある」と述べている。

    根強く残る魔術信仰

    Mario ArandaによるPixabayからの画像

     捜査当局によると、現地周辺で魔術絡みの事件が起きたのは今回が初めてだというが、地元のソーシャルワーカーであるミラ・デビさんは「BBC」に対し、この村では医師や薬よりも悪魔祓い師に頼ってしまう現状があると明かす。

     村議会のサントシュ・シン議長によると、村のほとんどの子供は学校に行かず、両親と一緒に労働に従事せざるを得ない状況にあるという。地元の教師、インドラナンド・チャウダリー氏によると、この地域で学校に通っている子供はわずか3人というのだ。

     迷信撲滅運動が行われているにもかかわらず、インドの農村部、特に周囲から孤立した共同体では、魔術信仰が依然として根強く残っているようだ。ビハール州を含むいくつかの州では、魔術や迷信をめぐって濡れ衣を着せられた人々に対する犯罪を抑制するための法律が導入されているにもかかわらず、この種の事件はなくなっていない。

     インド国家犯罪記録局によると、2010年から2021年にかけて1500人以上が魔術の疑いをかけられて殺害され、その被害者の圧倒的多数は女性だという。また、加害者には魔術や迷信を本気で信じている者もいるが、土地や財産権を奪うことなど利己的な動機から犯行に及ぶ者もいるようだ。

     迷信が引き起こした極めて悲惨な事件であり、人々の啓蒙が必要なのは言うまでもないが、それ以外にコミュニティの閉鎖性を解くなど、インド農村部特有の課題も山積しているようだ。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「N News Hd」より

    【参考】
    https://www.bbc.com/news/articles/cdjx121w2yxo
    https://www.cbsnews.com/news/india-witchcraft-family-murdered-village-mob-bihar/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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