妖精のように光る宇宙人が「ナイス?」と言いつつイタズラ三昧の「ヒングリー夫人事件」/ハイ・ストレンジネスUFO事件FILE 6 

文=羽仁 礼 イラストレーション=久保田晃司

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    世界中から無数に報告されるUFO事件。単なる目撃情報から、異星人との直接的なコンタクトまで、その内容は実にさまざまだ。中でも、特に奇妙で不可解な遭遇事件を「ハイ・ストレンジネス事例」と呼ぶ。奇想天外な7つの接近遭遇事例を紹介する!

    ほかとは違う独特な姿の異星人が目撃される謎

     こうしたハイ・ストレンジネス事例は、1947年のケネス・アーノルド事件でUFO現象が認知されて以来、数多く報告されている。しかも、他のUFO事件ではいっさい見られない独特の姿をした存在が登場する事例が、今や数えきれないほどになっているのだ。

     こうした事態は、個別のUFO事件を丹念に収集し、分類すれば、UFOという現象の解明につながるのではないか、と地道な努力を続けてきた真面目な研究家たちを大いに困惑させる状況となっている。
     つまり、UFOが他の天体から来た異星人の乗り物だという、いわゆる「地球外仮説」に立てば、異星人たちは事件ごとにその形態を変化させているか、あるいはテレビの特撮番組のように、何百種類もの異星人がそれぞれ1回限り地球を訪問しているという、少々信じがたい結論になってしまうのだ。
     そこで現在では「地球外仮説」を捨て、UFO現象に異なる説明を求めようとする研究家も多い。こうした「ニュー・ユーフォロジー」と呼ばれる潮流の先駆者がフランスのジャック・ヴァレで、UFO現象、とりわけ搭乗員との接触事案には、古来伝えられる異質な存在、妖精や悪魔、天使との遭遇と似た要素が含まれることを指摘している。実際、妖精とよく似た姿の異星人の出現が報告された例もある。

     それは1979年1月4日、イギリス・バーミンガムのすぐ西、ローリー・リッジズというイングランド中部地方の町ブルーストン・ウォークに住むジーン・ヒングリーが遭遇した奇妙な存在だ。場所の名前から「ブルーストン・ウォーク事件」、あるいは目撃者の名をとって「ヒングリー夫人事件」などと呼ばれている。

    人間の生活に興味津々? いたずら好きの異星人

     その日の朝6時30分ごろのことだった。外はまだ暗かったが、ヒングリー夫人は仕事に向かう夫を自宅から送りだし、家の中に戻った。キッチンからふと裏庭の左手のほうを覗いてみると、ガレージの上空に、オレンジ色に輝く球体が浮かんでいるのに気づいた。
     この球体を近くで見ようとして裏庭のドアを開けると、球体は急降下して庭に着陸した。そのとき、3体の小柄な生きものが甲高い調子でがやがやと音を立てながら、夫人の脇をすり抜けて、勢いよく家へ入っていった。この瞬間、なんと彼女の体は宙に浮いていた。そのまま奇妙な存在が姿を消すまで、彼女の足は床についていなかった。
     家の中に突入した3体の生きものたちはいずれも同じような形をしていた。身長は1メートル少々で、前にボタンがついた銀白色のチュニックを着ていた。頭には金魚鉢のようなヘルメットをすっぽりとかぶり、その中の顔は幅広で青白く、両目は黒いダイヤモンドのように大きくて輝いていた。鼻はなく、口は単なる線のようだった。手足は銀色がかった緑で、その先端は先細りになっていて、指はないようだった。
     背中には楕円形の翼を持っており、その全身は光芒に包まれていた。翼は薄い透明な紙でできているように見え、さまざまな色の輝く点がたくさんついていた。
     室内の騒音を聞いて、夫人が宙を舞いながら家に入ると、彼らは手を組み、足をぎこちなく下に垂らした姿勢で室内のあちこちを飛び回り、時計やテレビ、家具などに手を触れた。
     まだ飾りつけられたまま残っていたクリスマスツリーを見て、2体がそれを激しく揺らした。そこへ入ってきた夫人に気づくと、彼らはいっせいに「ナイス?」といった。夫人が「会えて嬉しい」と答え、続けてどこから来たのか聞くと、彼らは答えずにまた室内を飛び回った。
     2体がソファに降りて、いたずらっ子のようにその上で飛び跳ねたので、夫人が止めてほしいと頼むと、彼らのヘルメットの上から発した光線が夫人の額に当たった。夫人は目がくらみ、体が麻痺して火傷を負った。
     彼らは「空から来た」とだけ答えると、イエスの絵のところへ飛んでいき、イエスやその富、家庭における女性の地位などについて夫人と議論した。話すとき、彼らはチュニックのボタンを押し、ぶっきらぼうな男性的な声で返答した。会話の中で、夫人が何か飲むか聞くと、彼らは「水がほしい」といったので、夫人は水と薄切りのパイを持ってきた。
     最後に、夫人がどうやってタバコを吸うか見せようとすると、彼らは翼を閉じて外へ飛びだしたが、出されたパイも一緒に持ち去った。
     彼らが庭に着陸していたオレンジ色の球体に乗り込むと、球体は北の方角へ飛び去った。このすべてが1時間程度の間に起こった。
     彼らが去ると、宙に浮いていた夫人の身体が床に落ち、しばらくは痛みでそのまま横たわっていた。何とか椅子までたどり着くと、彼女はそこで体を休めた。

     夫人が回復したのは、午後5時になったころだった。ガレージを見ると、屋根の雪は溶けており、庭の芝の雪には長さ2.4メートルくらいの窪みが残っていた。この部分の雪はほかの場所よりも早く溶け、その後1年以上草が生えなかった。
     生きものたちが触れた時計やラジオは故障し、カセットテープは駄目になっていた。夫人の金の指輪は表面が白くなり、彼女はその後、顎の痛みや激しい頭痛、失神、目がひりひりするなどの症状に苦しんだ。
     事件の2日後には、ヒングリー家のクリスマスツリーが居間から消えていた。ツリーは1月8日になって裏庭で見つかったが、デコレーションとツリーの一部がなくなっていた。不思議なことに、それから数日のうちにデコレーションが少しずつ庭の外側に出現するようになった。

    イギリスのブルーストン・ウォ 夫人事件ークにある自宅で、イタズラ好きの異星人たちと遭遇したジーン・ヒングリー夫人。
    ヒングリー夫人の前に現れた妖精のような姿の異星人。

    ●参考資料=「宇宙人大図鑑』(中村省三著/グリーンアロー出版社)、「UFOと宇宙」第18号/64号/66号/67号(ユニバース出版社)、『FLYING SANCER REVIEW』1994年8月号(FSR Publications)

    (月刊ムー 2025年1月号掲載)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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