最新「ダークビッグバン理論」と宇宙創成の謎/MUTube&特集紹介  2024年7月号

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    ダークマターとダークエネルギーの起源を三上編集長がMUTubeで解説。

    ビッグバンは1回でなく2回起きていた!?

     われわれの宇宙は、物質とエネルギーでできている。その内訳は、約5パーセントが通常の(観測可能な)物質27パーセントがダークマター(暗黒物質)、残りの68パーセントがダークエネルギーで構成されていると見られる。
     宇宙を構成する物質のおよそ6分の5を占めるのがダークマターだ。観測結果から、その存在は多くの研究者に信じられているものの、実際にはまだ観測できていない謎の物質であり、その正体や性質については何もわかっていない。そんなダークマターの存在を確認しようと、世界中でさまざまなプロジェクトが立ちあがり、研究が進められている。
     一方で、「ダークマターは存在しない」とする理論を唱える研究者たちもいる。彼らは「ダークマターが存在する証拠とされる観測結果には別の要因があり、ダークマターによるものではない」と主張する。
     このように、ダークマターの実在に関する論争は、ダークマターが提唱されて以来続いてきた。しかし、ダークマターが「いつ」「どのように」作られたのかという点については、あまり注目されてこなかった。
     ダークマターの起源について、現在主流となっている説は、およそ138億年前に起きたビッグバンによってダークマターが生まれたという考えだ。
     2023年2月、ひとつの論文が公開された。アメリカ・テキサス大学オースティン校の物理学者キャサリン・フリースとマーティン・ウィンクラーによる「Dark Matter and Gravity Waves from a Dark Big Bang( ダークビッグバンからのダークマターと重力波)」と題された論文である。
     その中でフリースとウィンクラーは、ダークマターは通常の物質が誕生した従来のビッグバンではなく、別のビッグバンによって生成されたという仮説を提唱している。つまり、ビッグバンは2回発生していたというのだ。
     これまでのビッグバンと区別するために、従来のビッグバンを「ホットビッグバン」、ダークマターが生成されたビッグバンを「ダークビッグバン」と呼称していることから、今回の論文で提唱された仮説は「ダークビッグバン理論」と呼ばれる。
     はたして、彼らのいうようにビッグバンは2回も起きたのか? また、そのビッグバンはいつ起こり、ダークマターはいつ生まれたのだろうか? 

    宇宙はどのようにして誕生したのか?

     フリースとウィンクラーのダークビッグバン理論を理解するには、「ビッグバン宇宙論」とダークマターについて知っておく必要がある。
     宇宙はどのようにして誕生したのか。これまでさまざまな仮説を生みだしてきたこの謎に対して、現在主流となっているのがビッグバン宇宙論だ。これは、宇宙は超高温・超高圧の「火の玉」状態から急激に膨張して生まれたとする理論のことである。「膨張宇宙論」「火の玉宇宙論」などとも呼ばれている。ビッグバン宇宙論が提唱された後で、観測結果や「インフレーション理論」のような新たな仮説などによって、理論は補強されていった。
     このビッグバン宇宙論を起源とした「標準宇宙モデル」では、宇宙は次のようなプロセスによって生まれたと考えられている。
     今からおよそ138億年前、宇宙は何もない「無」の状態から、量子論的なゆらぎによって10のマイナス35乗メートル程度というミクロの大きさの時空が無数に生まれた。この無数の時空の中で、「インフラトン」と呼ばれる場の作用によって指数関数的に膨張し、原子よりも小さな高温高圧の火の玉が誕生した。この膨張を「インフレーション」と呼ぶ。
     インフレーションによって生まれた極小の宇宙は、光子やレプトン、クォークといった素粒子が高温高圧のプラズマ状態にあった。このプラズマの極小火球が、極めて短い時間で急激に膨張した。これがビッグバンだ。
     一般的には「ビッグバンによって宇宙が誕生した」といわれるが、より正確に表現するならば「宇宙は誕生直後にビッグバン状態になった」といったほうが正しいだろう。
     ビッグバン後の宇宙は、膨張するにつれて密度と温度が下がり、およそ3分後には「バリオン」と呼ばれる陽子や中性子が生まれて、光が支配する世界から物質が支配する世界へと変わった。この時点では、宇宙は水素原子核とヘリウム原子核、原子核に束縛されない自由電子によるプラズマ状態となっており、光(光子)ですら直進することができなかった。
     約38万年後、宇宙の絶対温度が5000度程度まで低下すると、ヘリウム原子核が電子を捕まえてヘリウム原子となり、さらに4000度程度になると、水素原子核が電子を捕まえて水素原子になった。このプロセスは「電子の再結合」と呼ばれる。
     電子の再結合によって自由電子が減ると、光子が自由に飛びまわれるようになる。宇宙の温度が3000度程度になると、ほとんどの自由電子は結合し、邪魔になるものがなくなったため、光子は直進できるようになる。これを「宇宙の晴れ上がり」という。
     さらに数億年後、宇宙の中に物質の密度が高い部分が現れ、それ自身の重力で周囲の物質を引き寄せて成長し、最初の天体が生まれる。
     そうして恒星ができ、銀河が生まれ、銀河が集まって銀河団となり、やがて現在のような宇宙の姿になったと考えられている。

    (文=水野寛之)

    続きは本誌(電子版)で。

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    webムー編集部

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