新年一発目でも連載100回目でも〝コレダモンナ〟……な半人半鳥妖怪譚/黒史郎・妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

    2023年一発目にして、記念すべき連載100回目は、奇想天外摩訶不思議なおかしなお話。全国の半人半鳥ファン必見、注目すべき妖怪「鳩人間」です。 ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ! 

    伝説のネタ

     あけましておめでとうございます。
     2022年は明るいニュースよりも、暗いニュースが多かったという印象です。コロナは変わらず人命と人心を蝕み続け、戦争の二文字は対岸の火事ではなく、明日どこからミサイルが飛んでくるかもしれず、各国の情勢悪化にともない、あらゆるものの価格が高騰、わが国では値上げラッシュと迫る増税の足音に市民の暮らしが脅かされている日々。この年の一文字は「戦」でした。2023年は少しでも明るいニュースが増えることを願っております。

     ところで、新年の初笑いはお済みですか? 暗い気持ちを追い払うには笑いが一番。

     皆さまは「鳥人」をご存じでしょうか。これで「とりじん」と読みます。
     2009年「M-1グランプリ」で「笑い飯」のやった伝説のネタです。鳥好きの子どもの元に訪れる、首から上が鳥、首から下は人間、タキシードを着た英国紳士のような怪人が子どもに素敵なプレゼントをくれる……という内容。「わたしはとりじんだよ」と現れ、怯える子どもが「おとうさーん」と絶叫。笑えるけれど、少し無気味な、でもなんだか魅力的な「鳥人」は話題となり、たぶん、半人半鳥界にも旋風を巻き起こしました。

     そこで今回は妖怪の中でもコアなファン層をもつ、ある鳥人系の妖怪の話をご紹介いたします。

    ——という怪物

     山形県民俗研究協議会の発行する『山形民俗』、平成6年発行8号の中にある民俗コラム、高橋敏弘「鳩人間と言う怪物」に、かなりアクの強い妖怪が紹介されています。

     その名も【鳩人間(はとにんげん)】。

     山形県山形市松波に古くから伝承されている、という妖怪ですが、福岡県の話だそうです。
     これは人間が変身したものではなく、魔界からの使いであり、脳髄を鳩のものと入れ替えられた人間だといいます。このような「魔物」の手にかかった鳩(鳩人間?)は全長50メートルまで巨大化し、(鳩の脳髄ではあるが)人間の意識と動物の凶暴性を併せもつため、怒り狂うと本来の性格が全面に出て破壊行為しかせず、村を破壊してまわったそうです。
     その羽ばたきは、一瞬で木造住宅を吹き飛ばすほどの威力で、口から吐く怪光線に当たると爆発するかドロドロに溶かされてしまうといい、その暴れっぷりは「空の大怪獣ラドン」のようであったそうです。あと、「コレダモンナ」と鳴くそうです。
     動物好きや子供には危害を加えなかったそうですが、村を破壊するほどの力をもつので、いやいや、危害、加えてるだろ、と見られ、人々から虐待をされていたとか。

     コラムの執筆者は、この話を確認するために現地で取材をしたそうで、何人かの古老は、昔に聞いたことがあると答えたそうですが、実際に見たという人はいなかったそうです。

     先にも書きましたが、『山形民俗』に掲載された山形で伝承されているという話なのに、これは福岡の話です。こんな話です。
     時は江戸時代、ある日、「夷隈梅之介」という侍がオランダの医師に騙され、拉致されて幽閉されます。そこで頭部手術をされ、人間の脳と鳩の脳を入れ替えられてしまいました。
     気がついた元・侍は、変わり果てた自分を見て怒り狂い、福岡を破壊してまわったといいます。そして、その現場にたまたま居合わせた山形の商人「武田毅麿」は命からがら逃げ、山形に戻って、この話を人々に語って回ったそうです。ところが、だれも信じてくれません。というのも、福岡は「何ともなかった」のだそうです。
     他にも「魔界の使い」という設定はどこへいったかとか、オランダの医師の正体が、鳩と人間の頭をいじった「魔物」だったのかとか、途中でよくわからなくなってきます。
     
     また、このコラムでは、福岡に伝わるという【人面鳩】なる妖怪にも触れています。
     普通の鳩より僅かに大きく、顔が人間の男で、全身が金色に輝いており、いろいろと話すことができたといいます。これは極楽から飛んできましたが、なぜか帰らなくなり、ある人が見つけて、これを飼ったのだそうです。ところが、これは極楽からきたものなので、飼っていた人は命を持っていかれてしまい1か月ともちません。飼い主は次々とかわっていったそうです。

    【鳩人間】と【人面鳩】——日本に数ある妖怪の中でも、かなり無茶苦茶でぶっ飛んでいる存在ですが、いずれの妖怪も山形や福岡で伝承されていたという確たる証拠となる他の記録は、まだ見つけられておりません。ここまで変ですと、本当に昔語られていた話なのかと創作も疑ってしまいますが、意外にひょっこり元の伝承が出てくるかもしれないので、今後も目を離せない妖怪です。

     そしてこれは余談ですが、Googleのストリートビューに「鳩人間」が写っていると話題になったことがありました。これは妖怪ではなく、鳩のマスクをかぶった「デイリーポータルZ」というポータルサイトのライターの方々だったそうです。
    ーーコレダモンナ。

    めでたい妖怪

     オマケとして、めでたい妖怪話もふたつ。
     ひとつは随筆『真佐喜のかつら』八に見られる【お目出度女臈(おめでたじょろう)】です。
     江戸の駒込に阿部伊勢守の下屋敷があり、この屋敷には【おめでた座敷】と呼ばれる部屋がありました。この座敷には、良いことがあると見慣れぬ女臈が現れたそうで、これが出ると慶事があるといわれていたそうです。女臈とは武家に使える女性のことです。

     もうひとつは、奈良県宇陀郡御杖村菅野の話。
     菅野では「元旦火」といって、大晦日の夜、氏子の者は皆、氏神に集まり、来年の健康を祈るために徹夜で「大火(おおび)」を焚いて、餅を焼いて食べました。夜半を過ぎて元旦の1時、2時になると、その火を燈火に移して家に持ち帰り、神棚に供えて雑煮の焚き付けにも使ったと言います。

     この行事の起こりはーー昔この地で行き倒れの人があり、村人がこれを介抱しました。大火を焚いて体を温めてあげると、行き倒れていた人は息を吹き返し、かと思うとパッと消えてしまい、そこにはたくさんの小判があったといいます。このいい伝えからきたものなのだそうです。
     
    【参考資料】
    高田十郎『大和の傳説』
    高橋敏弘「鳩人間と言う怪物」『山形民俗』第8号

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

    関連記事

    おすすめ記事