世界を操る謎の組織の正体とは? 秘密結社イルミナティ/ムーペディア

文=羽仁 礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、フリーメーソンを支配下に置き、世界を自在に操っていると噂される秘密組織を取りあげる。

    世界を陰で支配する? 秘密結社イルミナティ

    「ムー」愛読者の皆様なら、イルミナティという秘密結社とその陰謀について、かなりの知識をお持ちのことと思う。
     いわゆる陰謀論者の視点から見てみると、イルミナティは人類の家畜化支配、あるいは世界最終戦争の実現など壮大な目的を達成すべく、想像もつかないような長期計画に基づいて暗躍しており、歴史的にもフランス革命やナポレオン戦争、第1次世界大戦やロシア革命などの重大事件を陰で演出し、予定どおり実行してきた。

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    秘密結社イルミナティの参入儀式の様子。イルミナティの位階システムや儀礼次第などはフリーメーソンに倣っているという(写真=Opale/アフロ)。

     彼らは今や、アメリカやヨーロッパ主要国をはじめとする世界各国の首脳、王家を背後で操り、国連などの各種国際機関や主要な国際会議、バチカンなどもその支配下にある。世界の大手テレビ・ネットワークや通信社、新聞社といったマスメディアにも彼らの手が伸びており、肝心な情報はいっさい秘匿され、くだらない内容ばかりが垂れ流されている。
     これは国民をスポーツ、スクリーン、セックスという3つの「S」で洗脳し、自分で何かを考える力を奪おうとするものだ。近年の9・11事件や東日本大震災、さらには新型コロナウイルスの蔓延まで、すべてはこうした勢力の仕業である。
     この種の陰謀論はサブカルチャーの世界でも広く蔓延しており、アニメ『戦国魔神ゴーショーグン』のドクーガや『新世紀エヴァンゲリオン』のゼーレといった組織の設定にもその影響が見られる。

    理想社会の実現のために創設された秘密結社

     陰謀勢力としてのイルミナティの起源は、通常は1776年にドイツのアダム・ヴァイスハウプトが設立した同名の秘密結社に求められている。この組織は本拠地が所在した場所にちなんで「バヴァリア・イルミナティ」、あるいは「バヴァリア幻想教団」と呼ばれることもある。

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    アダム・ヴァイスハウプト。自由と平等をだれもが享受できる理想社会の建設を目指し、イルミナティを創設した。

     ヴァイスハウプトは1748年、ドイツのバイエルン(バヴァリア)選帝侯領インゴルシュタットに生まれるが、5歳で父を亡くしたため、以後自由主義的な考えを持つヨハン・アダム・フォン・イックシュタットの養育を受けた。
     7歳からイエズス会の運営する学校で教育を受けた後、1768年にインゴルシュタット大学を卒業、1772年から母校の法学教授となったが、イックシュタットの影響もあって自由主義的、反宗教的な思想を唱えるようになった。

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    ヴァイスハウプトの養父、ヨハン・アダム・フォン・イックシュタット。インゴルシュタット大学の法学教授で、ヴァイスハウプトの思想形成にも大きな影響を及ぼした。

     当時のヨーロッパでは、フランスのジャン=ジャック・ルソーなどが唱えた啓蒙思想が広まっており、ヴァイスハウプトもルソーの影響を受けて原始的自然の状態を人間の理想社会とし、身分や国家や宗教を越えた普遍的な人類愛と理性の光による人間の完成を説き、あらゆる地上的な権威、私有財産までも否定する思想を唱えて、4人の教え子とともにバヴァリア・イルミナティを創設したのだ。
     団内では、フリーメーソンに似た位階システムを採用、結社のシンボルとして知恵、理性の象徴であるフクロウを用いた。各団員は結社内での呼称として古代人名を採用し、ヴァイスハウプトは古代ローマで反乱を起こした剣闘士、スパルタクスを名乗っていた。
     1777年になると、ヴァイスハウプトはドイツのフリーメーソンに入団した。当時、確固たる基盤を確立していたフリーメーソンを利用して、イルミナティの勢力拡大を図ろうとしたのだが、この試みは当初それほどうまくは運ばなかった。1778年になっても、支部の数こそ5つに拡大したが、実際の団員の数は30名に満たなかった。

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    イルミナティのシンボルで、「知恵、理性の象徴」とされる「ミネルヴァのフクロウ」。

    急速な勢力拡大ののちわずか9年で迎えた終焉

     しかし1780年、フリーメーソンの有力会員アドルフ・クニッゲがイルミナティに加入すると、様相が変わってくる。
     クニッゲの人脈を利用した勧誘もあって、ブラウンシュヴァイク公フェルディナントやヘッセン・カッセル方伯カール、ザクセン・ゴータ・アルテンベルク公エルンスト2世などの地方領主や学者、法律家など、有力なフリーメーソン会員が続々と入団、『ファウスト』の作者として有名な作家ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテも団員のひとりとなった。
     1784年の公称団員数は2500人ともいわれているが、他方、ヴァイスハウプトとクニッゲの考え方の違いが表面化したのもこの時期だった。
     クニッゲは、イルミナティを通じてフリーメーソンを支配することで、フリーメーソンの改革という自身の目的を達成しようとしていたが、ヴァイスハウプトにとってフリーメーソンは団員の供給源に過ぎなかった。さらにふたりは、各位階における儀式のあり方についても意見が異なっていた。
     ふたりの対立の結果、クニッゲが退団に追い込まれたのは1784年7月のことだった。クニッゲとともに、多くの有力会員も離脱した。時を同じくして、バイエルン選帝侯領内では、イルミナティを陰謀集団として危険視する見方が強まり、時の領主カール・テオドールは、イルミナティをはじめ、あらゆる秘密結社の領内での活動を禁止した。
     ほどなくヴァイスハウプトも教授職を追われ、1787年にはイルミナティ団員であるエルンスト2世の所領であるゴータに逃れて、1830年にそこで一生を終えた。

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    一時期、イルミナティが集会場所としていたインゴルシュタットの建物(写真=Rufus46)。
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    建物の来歴を記した碑。

    世界政府の転覆を狙う秘密組織として復活?

     このように正史の上では、バヴァリア・イルミナティは短期のうちに消滅したことになっている。
     ところが1797年になって、オーギュスト・バリュエルが『ジャコバン主義の歴史』を、そしてジョン・ロビソンが『陰謀の証拠』を相次いで著し、フランス革命はフリーメーソンを乗っ取ったイルミナティによって起こされたと主張したのだ。
     じつはふたりともフリーメーソン会員であり、フランス革命指導者にも大勢のフリーメーソン会員がいたのだが、革命後の党派間の争いや恐怖政治、周辺国の介入などの混乱を招いた責任をイルミナティに転嫁したという側面も強い。
     だが、これらの著書により、バヴァリア・イルミナティは密かに生き延びて地下に潜り、フリーメーソンを背後で操って世界政府の転覆を企んでいるという見方が定着した。しかも、この主張は海を越えてアメリカに伝えられ、現在まで連綿と続いているのだ。

     落ち着いて考えてみると、ほんの短期間しか存在せず、しかもドイツの地方政府の弾圧で消滅したような弱小団体が、全世界のフリーメーソンを配下に置き、世界支配にまで手を広げているとは考えにくいし、彼らがどのようにして勢力拡張に成功したのかについても、論者から明確な説明はない。
     さらに、世俗権力を否定していたはずのこの団体が、世界支配を企んでいるというのも矛盾しているように思われる。

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    フリーメーソンの会員で、著名な作家でもあったアドルフ・クニッゲ。イルミナティにフリーメーソンの儀礼的要素をもたらしたが、ヴァイスハウプトと対立し、のちに結社を去った。
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    バイエルン選帝侯カール・テオドール。領内における秘密結社の活動を禁じた。

    イルミナティの正体は陰謀を企む謎の存在か?

     他方、イルミナティとは古代から続く特定血族の集団のことであり、バヴァリアのイルミナティもその一部に過ぎないと主張する者もある。
     本来イルミナティとは、ラテン語で「光に照らされた者」を意味するが、実際バヴァリア・イルミナティ以前にも、このような意味の名を持つ集団が存在したことも事実だ。
     たとえば12世紀のイスラム世界でシャイフルイシュラーク・スフラワルディーが唱えた照明哲学は、西洋ではイルミニズムと訳されている。
     16世紀のスペインでは「アルンブラドス」という神秘主義者の集団が存在したが、これはスペイン語で「光に照らされた者」を意味する言葉である。
     こうした事実は、ヴァイスハウプトが設立した団体以外にも、イルミナティの血脈が密かに続いていたことの証左なのかもしれない。

     ただし、その起源となると論者の意見はさまざまで、古代バビロニアのグノーシス主義者だとか、悪魔崇拝者、さらにはアトランティスの秘密の知識を受け継ぐ者たちだとか、レプティリアンの血を引く者であるなどと、必ずしも一定していない。
     また、フリーメーソンを通じて世界支配を企んでいる者として、イルミナティ以外にもユダヤ勢力や三百人委員会、ロスチャイルド家などが名指しされることもあり、これらすべてがイルミナティに属していると主張する者もある。こうなるとイルミナティとは、陰謀の背後にいる、正体不明の何者かを呼ぶための、とりあえずの呼称といったものに近くなる。
     現実には、こうした組織の存在を証明することは難しい。他方、それはこの組織の存在があまりにも巧妙に隠されている結果なのかもしれないし、この種の陰謀論の影響それ自体は、2020年のアメリカ大統領選挙でQアノンが注目されたことでもわかるように、無視できないものがある。

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    2020年のアメリカ大統領選挙は、陰謀論の存在を主張するQアノンとその信奉者らによって混乱に陥った(写真=ロイター/アフロ)。

     また、イルミナティの企みほど壮大なスケールではないものの、世の中に無数の陰謀が渦巻いていることは事実だ。
     世界の大国は、ODAを途上国にばらまいたり、軍事援助を行って自国の政治的影響力を強めようとする。国によっては、国外にいる反体制亡命者や敵対国指導者を密かに葬ったり、失脚させたりしようとする。
     他国の政権を転覆させた例も歴史上いくつもあるし、重要な軍事機密を奪おうとするスパイと、それを阻止しようとする諜報機関のせめぎあいは、見えないところで続いている。映画会社や民間企業でさえ、新作映画や新商品をトレンド入りさせようと、あの手この手の権謀術数を用いるものだ。
     じつは、戦後日本の出発点ともいうべきポツダム宣言もまた、陰謀論に立脚している。
     日本がポツダム宣言を受け入れて第2次世界大戦が終結したことは日本人の常識であるが、この宣言をちゃんと読んだ人は意外に少数であろう。
     そして、このポツダム宣言第6条には、日本国民を欺いて世界征服に乗りださせた勢力の存在をはっきりと明記しているのだ。その背後には偽書「田中上奏文」の存在も指摘されている。
     日本人ならだれでも、当時の日本が世界征服など考えていなかったことは承知している。しかし、世界をそのように信じさせようとする何者かが存在し、そして、その何者かの企みが成功を収めたことは否定できないだろう。

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    ゴータに逃れたヴァイスハウプトは、82歳でその生涯を終えた。写真は彼の死後70日目の墓の様子。

    ●参考資料=『世界の陰謀論を読み解く ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ』(辻隆太朗著/講談社)、『世界革命とイルミナティ』(ネスタ・H・ウェブスター著/東興書院)

    (月刊ムー2021年2月号掲載)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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