<読者投稿>孫の目の前に現れたとき、すでに祖母は亡くなっていた

イラストレーション=不二本蒼生

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    孫の目の前に現れたときにはすでに祖母は亡くなっていた

    ◆黒澤珠美/愛知県

     Kさんは大学以来の友人で、彼女はご主人とずいぶん前から別居し、以来、娘のSちゃんとアパートで暮らしていました。
     ふたりが住むアパートはご主人の住む家からかなり離れています。そして義母が住む家はご主人の家から1キロ圏内にあったそうです。
     別居後も義母とは仲がよく、KさんはSちゃんを連れてよく義母の家へ遊びにいっていたといいます。
     やがて義母は認知症を患い、老人ホームへ入居。以後、Kさんが義母を訪ねることはなくなりました。
     義母が入院して20年以上たったある日のこと、KさんとSちゃんは連れだって遠出しました。
     その帰り道、偶然にも別居中のご主人の家からほど近くの場所を歩いていたといいます。
    「お腹が空いた」
     どちらともなくいいだし、近くにあった喫茶店へ入ることにしました。そして大きな窓のある、外の景色がよく見える場所に座りました。
     注文後、Kさんは店内備えつけの雑誌に目をとおし、Sちゃんはぼんやりと窓の外を眺めていたそうです。
     突然、Sちゃんが声を上げました。
    「あっ、ばあちゃん!」
     身を乗りだし、Sちゃんは大きな窓から表通りを覗いています。
    「ばあちゃん、今、家に戻ってきてるんと違う?」
     SちゃんがKさんに尋ねました。
     しかし、それはありえない話です。認知症の義母がひとりで暮らすなど論外。そうかといって夫が義母を引きうけるとは考えられない話です。
    「ひとりで歩いてたん?」
     Kさんが尋ねてみました。老人ホームのスタッフがいっしょだったかもしれないと考えたためです。
     Sちゃんの答えは、
    「ひとりやったで!」
     というものでした。
    「お母ちゃん、ごはん食べたらばあちゃんの家へ行ってみやへん?」
     ふたりはそそくさと料理を食べ、お会計をすませて外に出ました。
     喫茶店から少し歩いて右折すると狭い道となり、その先に義母の家はあります。
     嬉しそうにKさんの前を歩くSちゃん。ところがSちゃんの軽快な歩みが急に止まりました。
    「なんか人がいっぱいおる。あれ、ばあちゃんの家のほうと違う?」
     確かに義母の家のあたりで黒い人だかりができていました。
     恐る恐る人だかりに近づくと、思ったとおりそれは義母の家でした。
     家の奥から銅鑼を鳴らす音が聞こえ、僧侶の読ど経きょうの声が流れてきます。線香の匂いも漂ってきました。行われていたのは紛れもなく葬式でした。
     別居中の夫や親戚がいたら気まづいので、Kさんはあわてて顔を隠し、義母の家をあとにしたといいます。
     表に立てかけてある花輪の中に義母が入所していた老人ホームの名前がありました。また、地元の老人会の名称もあり、それらのことからもこれが義母の葬式であることは明らかでした。
     いくら長年、別居しているとはいえ、何ひとつKさんに知らせがなかったことに驚きを隠せません。
     その後、ふたりはバスに乗り、アパートのある町に戻ったそうです。
     実際には、すでに亡くなっていたにもかかわらず、なぜSちゃんは喫茶店の表通りを歩く祖母の姿を見かけたのでしょう。

    (本投稿は月刊『ムー』2026年11月号より転載したものです)

    webムー編集部

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