マヤ、アステカの民に文明を授けた羽毛を持つヘビ「ケツァルコアトル」の謎と再臨の悲劇
かつて、広大なメソアメリカ地域は、オルメカ、テオティワカン、マヤ、トルテカ、アステカなど、独自の発展を遂げた数多の文明が興亡を繰り返す、一大文明圏であった。 そんな異なる文明間において、「羽毛を持つヘ
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羽毛の生えた蛇の姿で表されるケツァルコアトル。 メソアメリカの地に栄えたアステカ王国で崇められていた最高神だが、皮肉にも、この神が「1の葦の年」に帰還するという予言がもとで、王国は滅亡の憂き目を見ることになった。 ケツァルコアトルとはいったい何者だったのか? その秘密が、謎に満ちた巨大都市テオティワカンに隠されているという。
目次
「次の“1の葦(あし)の年”にケツァルコアトルが帰ってくるらしい」
奇妙な噂がアステカ王国内に流れはじめたのは、黄金郷を探し求めるスペインの征服者たちが新大陸へ熱視線を注ぐようになった16世紀初頭のことだった。
「ケツァルコアトル」はメソアメリカで広く崇拝された根源的な神。古代ナワトル語で「羽毛の生えた蛇」を意味し、有翼の極彩色の蛇神として表される。伝説によると、ときに白い肌で黒髪に長い髭(ひげ)をたくわえた人間の姿として出現する。
始源の創造神夫妻であるオメテクトリ(夫)とオメシワトル(妻)の4人の息子のひとり(3男)で、アステカの最高神だ。

変化自在の神で、創造神であると同時に、文明や知識を人間に授けた文化神、トウモロコシをもたらした農耕の神、暦の創造者、風と方位の神でもあり、金星の神とも同一視されている。マヤのククルカン、グアテマラのキチェのグクマッツは同一神である。


ケツァルコアトルは、天地創造においてもきわめて重要な役割を演じる。アステカの創世神話は史料によって細部にかなりの異同があるが、基本的には5つの連続する“太陽の時代”で構成される。
第1の太陽の時代=ウィツィロポチトリ(4兄弟の4男)が創造し、巨人族が住んでドングリを食料にしていた。ケツァルコアトルがジャガーに巨人族を食わせたために滅亡。
第2の太陽の時代=ケツァルコアトルが創造。ウィツィロポチトリが暴風を起こして万物を吹き飛ばしたために滅び、松の実を食していた人類は猿に変えられた。

第3の太陽の時代=トラロック(雨の神)が創造。ケツァルコアトルが天から火の雨を降らせたために滅亡し、水生植物を食していた人類は七面鳥、蝶、犬などに変えられた。
第4の太陽の時代=チャルチウートリクエ(トラロックの姉妹、あるいは妻)が創造。大洪水によって滅び、人類は魚に変えられた。
第5の太陽の時代=アステカ人の時代、すなわち現世で、4兄弟を中心とする神々が創造。ケツァルコアトルが冥界へ赴き、第4の太陽の時代に生きていた人々の骨と灰を集めて持ち帰り、自らの血を振りかけて現人類を創造した。

ケツァルコアトルはしかし、永遠の宿敵ウィツィロポチトリとの権力争いに敗れて王都テノチティトランを追放されてしまう。そのおり、こんな予言を残していた。
「私は1の葦の年に帰ってくる」
アステカ暦では、「1の葦の年」は不規則な間隔で訪れる。16世紀初頭では1519年がそれに当たり、冒頭に記した噂が急速に広まっていったのである。
ケツァルコアトルの予言はいつしか、「アステカが滅亡の危機に瀕したとき、救世主として再来する」という信仰にまで昇華し、アステカ人の心の奥底に深く刻印されていたのだった。
予言だけではない。王国内では不吉な現象が続発してアステカ人の不安感を増幅させ、ケツァルコアトル再来信仰は鮮やかな甦りを見せてもいた。
たとえば、巨大な火焔が1年間も天空に出現しつづけた。ウィツィロポチトリの神殿が突然炎上した。火の神シウテクトリの神殿に雷鳴もなく稲妻が落ちた。燃えながら流れていく彗星が現れた。無風状態で湖が激しく波立った……。
王国の滅亡を予感させずにはおかない無気味な凶兆の数々。有翼の蛇神、すなわち黒髪で髭をたくわえた白人の来訪を待ち望む機運は否応なく醸成されていく。
そしてその機運が最高潮に達した1の葦の年に当たる1519年、噂と期待はついに現実のものになる。スペインの征服者エルナン・コルテス以下数百人の白人がメキシコ海岸に姿を現したのだ。

しかもモンテスマ王専属の占星術師の計算によると、「9の風の日」という日にちまでわかっていた。グレゴリオ暦では4月21日。その日、コルテスはサン・ホアン・デ・ウルアに到着したのだった。
以後のアステカ人の悲劇は歴史が教えているとおりだ。


とまれ、ケツァルコアトルとは何者だったのか。神話や伝説の核には史実が含まれていることが多い。
となると、ケツァルコアトルにも実在のモデルがいたと考えてもおかしくはあるまい。
その謎にアプローチするには、ケツァルコアトル信仰が生まれたとされるテオティワカン期までさかのぼる必要があろう。
テオティワカンは、アステカ語で「神々の座所」「神々の創造した場所」「神々への道を歩む人々の町」などを意味する。
アステカ文明が勃興した時期、テオティワカンはゴーストタウンと化していたが、アステカには、彼らが登場する以前、死してのち神になる巨人族が存在していたという伝説があった。壮大な遺跡を目の当たりにして畏怖と驚嘆の念を覚えたアステカ人は、伝説の巨人族がその都市の建設者であり、遺跡は死んで神になった巨人族の墓地である、と信じてテオティワカンと命名した。
遺跡はメキシコ市の北東約50キロの高原地帯に眠っている。この地に文明の曙光がさしたのは紀元前500年ごろで、紀元前後から紀元600年にかけて黄金期を迎え、650年ごろに滅亡したとされる。が、建設した民族は不明。使用言語も解明されていない。
しかも、この文明は突如消滅したらしいのだが、なぜ都市を放棄したのか、文明の担い手がどこへ消えたのかもわかっていない。
遺跡の面積は約23平方キロ。広大な都市部の中心部を、幅55メートル、延長が3キロ以上にもおよぶ「死者の大通り」が南北に走っている。アステカ語で「ミカオトリ」。遺跡を巨人族の墓地と考えたがゆえの命名である。

このメインストリートの両側には碁盤の目状に区画された市街が広がり、神殿や宮殿、邸宅、役所、集合住宅などが同一方向に整然と並んでいる。確認されている建造物の遺構は約6000にものぼり、盛時の人口は20万人を超えていたといわれる。
都市の規模の壮大さもさることながら、主要建造物に目を移すと、驚嘆の度合いは一段と増す。
まずは、遺跡中の建造物で最大規模を誇り、天を摩して聳(そび)える「太陽のピラミッド」。日干しレンガと粗石で築かれたこの巨大建造物の底辺は220×230メートル。高さは約66メートル。総体積は約130万立方メートルにも達する。
この太陽のピラミッドと対をなして蒼空に浮かび上がるのが、死者の大通りの北端にある「月のピラミッド」だ。底辺140×150メートル、高さ約45メートル。南側正面に階段が設けられている。


死者の大通りの南端には「シウダデーラ(城砦)」と呼ばれる区域がある。スペイン人征服者が城砦と誤解してそう名づけたが、実際には軍事施設ではない。宗教祭祀場もしくは王宮だったようだ。
400メートル四方の広場で、中央に方形の祭壇、四周を囲む露台には15基の小型ピラミッドが配されている。東側部分には高さ約22メートル、6層からなる階段型ピラミッド構造の「ケツァルコアトル神殿」が建ち、ケツァルコアトル神やトラロック神の頭像が壁面を飾っている。


死者の大通りを挟み、城砦の反対側には大広場がある。
ただ、都市の機能や建設目的はいっさい不明である。軍事施設は皆無で、武器すら発見されていない。何から何まで謎だらけなのだ。
では、テオティワカンの謎にアプローチする手段は皆無なのかというと、じつはそうではない。
発掘調査の結果、この神殿都市遺跡には驚愕的な秘密が封じ込められていたことが徐々に判明しつつあるのだ。
たとえば、城砦を囲む露台上の小型ピラミッドの中心軸の間隔は57メートルで、太陽のピラミッドの中心線から月のピラミッド前の広場にある祭壇の中心までは570メートル。つまり、57メートルを長さの基準単位とすると、ちょうど10倍になる。
同じく太陽のピラミッドの中心線から城砦の中心までは21倍、城砦と大広場の北を流れるサン・ファン川(人工運河)までの距離は24倍になっている。
奇妙なことに、主要建造物の各所の寸法や建造物間の距離はなぜか57メートルの倍数や分数と一致しているのだ。
これは遺跡の中心部にかぎったことではない。周囲の山麓地帯にまで、57メートルを基準単位にした区画設計が随所に見られる。その基準を満たすために、河川の流れが人工的に変えられてもいる。テオティワカンが計画都市だったことは明白だろう。


それどころか、この神殿都市には宇宙の真理や叡智までもが封印されているらしい。
城砦近くに死者の大通りとクロスして走る「東西の大通り」があり、この道路は正確な東西軸より16度30分、南へ偏っている。この偏差を持つ東西軸の東の延長線上にはおおいぬ座のアルファ星(シリウス)が、西の延長線上にはプレアデス星団が位置する。死者の大通りも正確な南北軸から15度28分、東へ偏っており、その北の延長線は大熊座のアルファ星を指向しているのだ。
これは偶然の産物ではない。
太陽のピラミッド近くの建物の床に、直径約1メートルの同心円状の輪のなかに十字を刻んだ奇妙な表象がある。これと同一の表象が、テオティワカンの西方約3キロのセロ・コロラド山頂上の岩にも刻まれている。このふたつの表象を結ぶ線が、東西の大通り、すなわちシリウス星とプレアデス星団を結ぶ線と一致しているのだ。
テオティワカンの北方約7キロのセロ・ゴルド山頂にも同様の表象が刻まれており、これと建物内の表象を結ぶ線が死者の大通り、すなわち大熊座のアルファ星を指向する線と一致してもいる。
テオティワカンの建設者がなぜシリウスやプレアデス星団、大熊座のアルファ星に注目したのかは分明ではない。が、彼らがこの表象を基準点に東西と南北の基軸を定めて都市を建設したことは間違いない。テオティワカンは宇宙的構想のもとに建設された可能性がきわめて高いのだ。
別の証拠もある。アメリカの建築技師ヒュー・ハールストンによる独創的研究がもたらした驚くべき成果がそれだ。
ハールストンは実測データを徹底分析して、テオティワカンの長さの最小基準単位を1.059メートルと割り出した。この数値は地球の極直径のちょうど1200万分の1に当たり、2の12乗根にも相当するばかりか、遺跡のあらゆる部分の長さがその整数倍に収まる。そこでハールストンは、1.059を「テオティワカン定数」と呼び、単位名を「フナブ」とした(フナブはマヤ神話に登場する、運動と測定を司る神の名)。
ちなみに、太陽のピラミッド、月のピラミッド、ケツァルコアトルの神殿の高さは、それぞれ63フナブ、42フナブ、21フナブで、しかもこの3つの数字は3・2・1の比例関係をなしている。
太陽のピラミッドの下から4段目の北面の屈折斜面の傾斜角は55度。これは地理上の経度と緯度の1度分の長さが等しくなる北緯あるいは南緯の数値だ。
その直下の傾斜角は70.31度で、直角の90度からマイナスすると19.69。この数字を緯度に換算すると19度41分30秒になる。驚くなかれ、太陽のピラミッドが立地する北緯はなんと19度41分30秒なのである。
加えて、城砦内部の構造および城砦を起点として北に延びる死者の大通りに注目すると、さらに巨大な秘密が浮き彫りになる。
城砦内部にはケツァルコアトル神殿や15基の小型ピラミッド、祭壇があり、それら要所要所の間隔を計測すると、36、72、96、144フナブなどの数字が得られる。このうちの96フナブを太陽─地球間の距離と仮定すると、36フナブは太陽─水星間、72フナブは太陽─金星間、144フナブは太陽─火星間の距離にそれぞれ比例しているのだ。
また、ケツァルコアトル神殿の中心線から人工運河のサン・ファン川までは288フナブで、これは太陽から小惑星帯までの距離に一致する。
死者の大通りをサン・ファン川を越えてさらに北進していくと、520フナブ、1845フナブ、2880フナブ、3780フナブの地点に特徴的な遺跡がある。そしてそれらは、土星、天王星、海王星、冥王星の軌道距離に対応しているのだ。
つまり、城砦および城砦内部の構造、死者の大通りは太陽系の縮尺模型をなしていることをハールトンは突き止めた。謎に満ち満ちた神殿都市は太陽系を地上に再現した宇宙モデル都市だったのだ。
ちなみに、現在は準惑星に格下げされた冥王星の発見は1930年で、テオティワカンの主要建造物の完成は紀元前後から100年ごろとされる。都市建設者は2000年近くも前に太陽系の知識を知悉(ちしつ)していたのである。

となれば、先住民の背後に、都市プランを作成して建設を指導した先進集団が存在していたと推論しても論理の飛躍ではあるまい。テオティワカン期に神として崇められるようになったケツァルコアトルは、彼ら先進集団の指導者もしくは集団全体の呼称だったのかもしれない。
謎の先進集団の正体については2説ある。ひとつはアトランティスやムーなどの先史超文明の叡智の継承者説、もうひとつは古代に地球に飛来した異星人説である。

●参考資料=『アステカ王国』(増田義郎著/中央公論社)、『アステカ文明の謎』(高山智博著/講談社)、『世界神話事典』(大林太良ほか編/角川書店)、『世界の神話百科[アメリカ編]』(D・M・ジョーンズ+B・L・モリノー著/蔵持三也監訳/原書房)ほか
(月刊ムー2012年1月号初出)
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