トカラ列島・悪石島の仮面神ボゼと遭遇! パプアニューギニアの精霊に酷似する異形の仮面神が悪霊を祓う奇祭
屋久島と奄美大島の間に連なり、秘境の島々とも称されるトカラ列島。 その島のひとつ、悪石島に「ボゼ祭り」という奇祭が伝わる。 盆の終わりに現れて、悪霊や邪気を払うという仮面神「ボゼ」。巨大な仮面と植物を
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長い歴史を持ち、ヨーロッパ全土にわたって影響を及ぼしながら、今でも多くの謎を残すケルト文化。 ケルトの残影を求めて、先史時代のストーンサークルが無数に点在するスコットランドの島々を旅する。
多くの文明や民族が栄枯盛衰を繰り返したヨーロッパで、筆者にとってとりわけ興味深いのがケルトだ。
書き文字を持たなかったという古代ケルト人は、彼ら自身による記録も残していないため、明らかになっていないことも多い。紀元前2500年から前1500年ごろには、すでにヨーロッパに定着していた印欧語族の一派というのが定説のようだ。そんなケルト人が、ヨーロッパ西端の大西洋沿岸に定住するようになったのは、紀元前600年から前300年ごろといわれる。
そもそも「ケルト」という名称は、古代ギリシア人が西方ヨーロッパにいた異民族のことを「ケルトイ」と呼んだことに由来するという。ヨーロッパ南部のギリシア・ローマが全盛を誇っていた時代に、ケルト人もまたヨーロッパ全土に勢力を伸ばしていたのだ。
ギリシアやローマでは、このケルトの勢いを脅威として、領土をめぐって幾度となく争いが起こった。ローマではケルトを「ガリア」と呼んだが、ケルトとの戦いの記録として有名なのが、かの英雄カエサルが残した『ガリア戦記』である。
ギリシア人やローマ人にとって、ケルト人は“蛮族”であった。古代の多くの歴史家が、ケルト人の野蛮さや好戦的な性格について書き残しているが、一方的な偏見にもとづく記述も多いようだ。だが実際には、彼らはギリシアやローマにも劣らない芸術的センスや金属の加工技術を持ち、独特な文化を形成した民族だったのだ。
ケルト文化の魅力については、ここではあえて語らないが、世界中にケルトの研究家やファンがいることからもわかるように、ケルトには人の心をとらえる「何か」があるのだろう。
ケルトの遺跡はヨーロッパ各地に残っているが、今回はケルト人が渡った最北の地スコットランドの島々に、その足跡をたずねてみることにした。

スコットランド本島最北端の町ジョン・オ・グローツから、フェリーで約45分のところにオークニー諸島がある。大小70ほどの島で構成され、新石器時代のストーンサークルや住居跡などが数多く残る遺跡の宝庫だ。1999年には新石器時代の遺跡中心地として、ユネスコの世界遺産にも登録されている。
筆者はオークニー諸島の中心的な島で、とりわけ見どころの多いメインランドへ渡ることにした。まず筆頭にあげられるのが「リング・オブ・ブロッガー」だ。ハーレイとステンネスというふたつの湖に挟まれた場所にあり、ヨーロッパでもっとも北に位置するストーンサークルである。

2メートルから4メートルほどの高さのある巨石が、直径100メートルはあると思われる巨大なサークル状に配置されている。巨石の形はまちまちだが、高さに比べて厚さは思いのほか薄い。バランスで考えると、まるでカミソリの刃のような印象だ。紀元前3000年ごろに造られたものと推定されており、天体観測所として使われていたのではないかと考えられている。
リング・オブ・ブロッガーから1キロほど離れたところには、「ストーン・オブ・ステンネス」という、やや小ぶりのストーンサークルがある。サークルといっても、現在は5個の巨石が残るのみで、きちんとした円はなしていないが、中心部からは火葬された動物や人間の骨、土器や石斧などの破片が発見されたという。
メインランドの見物は、ストーンサークルだけではない。島の西端にある「スカラ・ブラエ」は、考古学的にも貴重な新石器時代の住居遺跡だ。

1850年に大雨で地面が削れ、偶然発見されたこの遺跡は、紀元前3200年ごろからおよそ600年の間使われつづけた集落だと考えられている。高緯度に位置するオークニー諸島だが、暖かい海流が流れ込んでいるせいか、意外に住みやすい土地だったのかもしれない。土器や矢じり、釣り針など石器時代の生活をうかがい知ることができる遺物も多数出土している。
オークニー諸島にケルト人が深く入り込んできたという記述に、少なくとも筆者はあたれていない。だが、ここはピクト人というケルトの一派といわれる民族が住んでいた地域だ。何らかの“ケルト的”なものがあってもおかしくはないだろう。
スコットランド西部に位置するヘブリディーズ諸島にも、魅力的なケルトの遺跡が数多く残っている。
アイラ島は内ヘブリディーズ諸島の中でも南に位置する島だ。人口4000人ほどののんびりしたこの島は、ウイスキーの蒸留所がいくつもあることでも有名で、モルトウイスキー好きには“ウイスキーの島” としてのほうがなじみ深いようだ。そんなアイラ島に、スコットランドでもっとも保存状態がよいというケルト十字がある、と聞いて訪れてみた。
アイラ島の南の玄関口ポート・エレンから10キロほど東に行ったところに「キルダルトン・クロス」がある。
キリスト教のシンボルである十字架に、円環を結合させたケルト十字は、ケルト文化の特徴のひとつである。たいてい大きな石造りのもので、高さを誇るため「ハイクロス」とも称されるが、造られた時代や地域によって、さまざまなデザインやモチーフがある。
アイラ島にあるキルダルトン・クロスは、そんなハイクロスの中でも、最高傑作のひとつとうたわれるものだ。

キルダルトン・クロスは、18世紀に造られた教会にあるのだが、教会の建物自体は外壁だけが残っている状態で、廃墟に近い。しかし不思議なことに、キルダルトン・クロスのほうは目立った損傷もなく、悠然と立っている。
子どもを抱く聖母の下に彫られた、ケルト独特の渦巻き模様――自然崇拝のドルイド教とキリスト教という異なる宗教が、絶妙に混じり合ってできた芸術作品を目の当たりにし、筆者は感慨深い気持ちにさせられた。
アイオナ島は“聖コロンバの島”である。同島はアイラ島より北に位置するマル島の沖合にある小島だ。
聖コロンバはアイルランド出身の貴族で、修道士の道に進み、アイルランド各地にキリスト教の布教活動を行っていた。536年、彼は12人の仲間とともにアイオナ島に渡り、ここを拠点にスコットランドへの布教活動に尽力した人物である。
やがてアイオナ島は、アイルランドやスコットランドにおけるキリスト教の中心地となるが、正確にはケルト系キリスト教というべきだろう。
島の真ん中にあるアイオナ修道院には、保存状態のよいケルト十字がふたつある。ひとつは「聖マーティンズ・クロス」で、小さめの円環とスラッとしたシルエットが特徴的だ。

建物のすぐ前にあるのが、もうひとつのハイクロスである「聖ジョン・クロス」で、こちらは十字の大きさが2.2メートルもあり、実に重厚な感じがする。

ケルト文化を代表する装飾写本『ケルズの書』は、実はこのアイオナ修道院で生まれたものだ。聖コロンバの偉業を称える目的で作られたというが、バイキングの襲来が激しくなったため、アイルランドへ持ちだされ、ケルズ修道院で完成されたという。

ルイス島は外ヘブリディーズ諸島の北側に位置する大きな島で、島の北側3分の2をルイス島、南側3分の1をハリス島と呼んでいる。
ルイス島にある「カラニッシュのスタンディング・ストーン」は、南北に約123メートル、東西に約43メートルの長さにわたって、48個の平べったい巨石が並んだストーンサークルだ。


長い間、ケルト人の儀式のために造られたと考えられていたが、その歴史はケルト人が来るずっと以前の、新石器時代の終わりごろにさかのぼるという。ここも他のストーンサークルと同様に、天文関係の施設だったのではないかと見られているが、ずっとあとになってこの地に渡ってきたケルト人が、これらを何らかの儀式に使っていたことは、ほぼ間違いないだろう。


ヨーロッパ大陸からの長い旅路の果てに、最果ての地にたどり着いたケルト人は、先史時代の人々が残した巨大な石の遺跡を見て、何を感じたのだろうか。
一説によると、ケルト人は古代の遺跡であるストーンサークルには妖精が住んでいると信じたという。たくさんのスタンディング・ストーンが残されたスコットランドは、彼らにとって、妖精の住む異世界とつながる特別な土地だったのかもしれない。
(月刊ムー 2003年11月号 初出)
辻丸純一
1948年 長崎生まれ。写真家。1973よりフリーとして活動を始め、雑誌、広告を手掛け、個展も富士フイルムギャラリ「ピーターラビツト世界」、写真集にパプアニューギニアの先住民祭り「シンシン」第三書館、写真紀行として「スコットランド紀行」千早書房、マヤ遺跡「マヤ・グアテマラ・ベリース・メキシコ」雷鳥社など多数。
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