亡き子の遺品で作った人形に魂が宿る! 田中俊行が受け継いだ呪物人形トヨル

文=鹿角崇彦

関連キーワード:

    呪物コレクター・田中俊行を戦慄させた、異形の呪物人形。そこにはいまだに子供の霊が込められ、数々の異変を引き起こしているという。

    死んだ子供の遺品に呪術師が入魂して誕生!

     東南アジア圏には「死んだ子の魂を人形に込めると最強の呪物になる」という信仰がある。タイではクマントーン、ミャンマーではクマンナなど場所によって形式や名前は変わるが、威力が強い反面、扱いを誤ると持ち主にひどい災いをもたらすと恐れられてもいるのも共通する特徴だ。ここに紹介する呪物も子供の霊を収めたそれである。
     もとの持ち主は、タイの東部スリン県に住む夫婦。夫婦にはひとりの男の子がいたのだが、病気か事故か、不幸にも幼くして亡くなってしまう。悲しみのあまり日に日に憔悴していく妻をどうにか救おうと、夫は我が子の魂を込めた呪術人形クマントーンをつくることを決意した。
     しかし、手を尽くしてもなかなか作れる人が捜し出せず、ようやく見つけたのは隣国マレーシアの呪術師だった。夫は呪術師から子供の遺品一式を送るよう指示を受け、亡き子の衣服や遺髪を送った。
     だいぶ月日がたってから、依頼したそれが届けられた。夫婦は目を疑った。それは「革が巻きつけられた胎児のミイラ」とでも表すほかたとえようのない、すさまじい姿をしていたのだ。

    全身にまきつく革様のものを含め、人形の素材はまったく謎。腰回りのひもはへその緒を擬しているのか?

     強烈な違和感を抱きつつも夫婦は人形を祀るのだが、実はこのとき妻のお腹には新たな命が宿っていた。そして赤ん坊が産まれると、妻の気持ちはすっかりその子に移ってしまう。もはや形ばかりの祭祀をするようになって数日、妻は急死してしまった……。

     最愛の妻を失ったうえ産まれた子も病気がちとあって、夫は呪術人形の処分を寺院に依頼した。ところが「マレーシアの呪術師がつくったものはタイの寺では扱えない」とどの寺に持っていっても引き取りを拒否される。途方に暮れていたところ、「ひとりだけ当てがあるが……」と、ある呪術師が夫の耳元でささやいた。
     こうして、その呪術師を仲介して人形は日本の呪物蒐集家に引き取られることになる。その人物とは、今や日本有数の呪物コレクターとして知られる、田中俊行である。

    オカルトコレクター田中俊行が引き取る

    田中俊行氏。アフリカや東南アジアの児童霊信仰にまつわる呪物を研究中という。

     しかし膨大な呪物に触れる田中氏ですら、その人形は一瞬引き取りをためらうほどの空気を持っていたという。一連の経緯からもわかる、人形は現地での供養も行なわれておらず、子供の魂が入ったまま。そして、素材の詳細や、どう作られたものかなどは現状まったくわかっていないのだ。

     また田中氏は「マレーシアの呪術師が作ったものであれば、それはトヨルではないか」という。
     タイのクマントーンが既製の人形に魂を込めるいわばセミオーダー式が多いのに対して、トヨルは完全フルオーダーで、素材から術式まで依頼に応じる。それゆえに持ち主との絆は強固となるのだそうだ。

     そんな絆とは縁もゆかりもない田中氏だが、トヨル供養の作法に従い、生きた子同然にお菓子や飲み物を供えて祀っている。だが、これを引き取ってから立て続けに家の中の「丸くて硬いもの」が割れるという現象が続いた。皿であったり鏡であったり、とにかくなぜか丸いものだけが割れたそうだ。

     仲介した呪術師でさえ「どうにも気になるから注意しろ」と念押ししたというほどのトヨルの呪力とはいかなるものか。
     田中氏の身辺にこれ以上異変が起きないことを祈るばかりだ。

    一見して尋常ではない空気を放つ呪術人形。田中さんは、マレーシアの呪術師につくられたのなら「トヨル」ではないかと考えているという。

    (2025年 月刊ムー1月号)

    鹿角崇彦

    古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。

    関連記事

    おすすめ記事