数を刻んだ縄文土器「どばんくん」は「魔笛」だった!/MUTube&特集紹介  2024年9月号

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    大湯ストーンサークルから出土した謎の板状土偶。そこに刻まれた穴の配列には、じつは重要な意味があった。三上編集長がMUTubeで解説。

    ゆるキャラとなった縄文土偶

     今や「かわいい(kawaii)」は世界に通じる日本語だ。インバウンドで来日する多くの外国人のお目当てはアニメ。登場人物のかわいいキャラクターグッズをこぞって買って帰るのだとか。思えば、とかく日本人は、なんでもキャラクター化してしまう。世にいう「ゆるキャラ」は、その典型だ。「ひこにゃん」に始まり、「くまモン」や「ふなっしー」まで。老若男女に愛されるマスコットがいたるところにあふれている。
     今や「かわいい(kawaii)」は世界に通じる日本語だ。インバウンドで来日する多くの外国人のお目当て「どばんくん」のモデル板リ×厚さ15ミトーンサーク「どばんくん」はだった!!
     だが、これは何も現代に限ったことではない。日本人は縄文時代から「ゆるキャラ」を生みだしていた。それが土偶だ。独特なフォルムをもつ土偶のモデルについては妊娠した女性や地母神、はては異星人など、多くの議論があるが、つい最近、話題になった一冊の本がある。『土偶を読む』(晶文社)だ。
     筆者である人類学者の竹倉史人氏によればハート形土偶はオニグルミ、中空土偶はシバグリ、そして縄文のビーナスはトチノミを人間の姿にイメージした。いわば、土偶とは縄文時代の「ゆるキャラ」だというのだ。 もちろん『土偶を読むを読む』(文学通信)といった批判もあるのが、それらの土偶が現代において「ゆるとは、まぎれもない事実である。遮光器土偶の「しゃこちゃん」や合掌土偶の「いのるん」、そしてなんといっても異彩を放っているのが「どばんくん」である。
     モデルになった板状土偶は長方形(長幅高:58× 37 ×15ミリ)で、重量は48.39 グラム。発見されたのは1985年、場所は秋田県鹿角市にある大湯環状列石遺跡、いわゆる大湯ストーンサークルである。製作年代は今から約3500年前、縄文後期だと推定されている。

    立体的な魔方陣だった「どばんくん」

     なんといっても特徴は「数」である。一般の土偶や土板と異なり、デザイン的に「左右対称性:シンメトリー」が一部、破られている。具体的にいうと、「どばんくん」の表側で、お腹の両脇にある手らしき穴は向かって左が3つで、右が4つなのだ。
     一方、真ん中には妊娠のときにでる正中線を表すと思われる5つの穴がある。上部の顔らしき部分には大きな口の穴がひとつ、両目と思われる穴がふたつ。そして、裏返すと、背中の肩のあたりに耳らしき3つの穴が左右にあり、足すと6つ。そう、1から6まである。明らかに意図的で、数学的に自然数の数列だ。これによって「どばんくん」が普通の土偶ではないことが認定されたのだ。
     縄文人は現代人と同様、数の概念をもっていた。ある意味、当たり前のことだが、問題は、ここからだ。裏にある「6」は、なぜ「3+3」なのか。左右の部位を足すということであれば、表の両手も同様に解釈できないものか。すなわち「3+4=7」だ。同様に口と目を足すと「1+2=3」。残る「5」を含めて、これは「7・5・3」、つまり「七五三」である。
     神道儀礼のひとつ「七五三」は「3次魔方陣」の思想が根底にある。平面における「魔方陣」は縦横斜め、いずれを足しても同じ数になる配列のこと。3次魔方陣の場合、3と5と7は中心を通る縦、もしくは横の配列になる。ちなみに、もう一方は「1・5・9」の配列で、四隅は必ず偶数「2・4・6・8」になる。
     3次魔方陣は西洋魔術における「数秘術」の重要なシンボルである。東洋魔術においても「河図洛書」として知られ、占術のひとつ「四柱推命」は3次魔方陣がベースにある。
     また、魔方陣は平面だけではない。立体もある。たとえば「サイコロ」。サイコロの目は表と裏の数を足すと7になるように配置されている。しかも、目は1から6まで。「どばんくん」に刻まれた数と同じだ。
     ご存じのように、立方体のサイコロは十字形に平面展開できる。十字形は十字架として認識されるように「人形:ヒトガタ」である。「どばんくん」が土偶という人形に擬されている理由は呪術だ。陰陽道の紙製人形はもちろん、呪いの藁人形に至るまで、ヒトガタは呪具である。実際、縄文時代の土偶は一部が欠けており、呪術に使われた可能性は、かねてから指摘されている。つまり「どばんくん」は立体的な魔方陣であり、呪術的な機能をもったヒトガタだったのだ。

    (文=岩崎紀夫 写真=佐藤裕輔)

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    webムー編集部

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