光や音を浴びると治療になる!? 薬のいらない“未来の医療”研究開発への期待

文=久野友萬

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    最近、音や電気で病気を治すというヤバめの医療機器が相次いで市場に出ている。背景にあるのは医療費削減。医薬品の貿易赤字は、令和4年には約4.6兆円というとんでもない額に膨らんでいる。輸入ばかりで輸出がないためだ。そこで医薬品のいらない医療を日本から発信しようという密かな動きがあるのだ。

    光を頭に当てて免疫活性化?

     2012年6月に「医療イノベーション5か年戦略」が提示され、この中で医療機器の施策についても具体化された。MRIなり超音波断層撮影なりの医療機器を輸出して、外貨を稼げということだ。

     この動きに敏感に反応しているのが医療系の中小企業だ。まだ世の中には知られておらず、医療機器としての認可も受けていないが、革命的な作用のある物理治療器というものが中小のベンチャー企業により製造されている。今こそ発明を世に出すチャンスというわけだ。

     病気を治すのは薬だというのは刷り込みであり、よくよく考えれば、病気を治すのは薬ではなく体だ。薬はその補助をするだけで、場合によっては邪魔をする。解熱剤は熱を下げるが、体をだましてウイルスはいないと錯覚させる。体は熱でウイルスを叩き潰す予定だったのにウイルスは生き残り、いつまでも風邪は治らない。本当に病気を治す薬は抗菌剤、ペニシリンしかないという極論も、案外と本質を突いている。

     そこで発想を変え、病気を治しやすい環境に体を整えようというのがこうした次世代の医療機器だ。順番に紹介する(なお具体的な商品名は、現在は医療機器としての承認以前であるため、割愛する)。

     光を頭に照射し、免疫機能をアップさせるという研究がある(※1)。皮膚病や躁病、うつ病の治療に光を照射する光療法は一般的に医療として行われている(ケガの場合、レーザーを照射すると術後の回復が早く、跡が残りにくい)が、この研究はまったくの別モノ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     日照時間とうつ病の関連は昔から知られているが、太陽の光を浴びると末梢血液中のナチュラルキラー(NK)細胞が減少する。太陽の光を浴びないと免疫が落ちるのだ。目から入った光が視覚神経を経由してNK細胞を増やすらしい。光が減れば、NK細胞の数が減り、免疫が落ちる。ただし目から強い光が入ると、それがストレスになってせっかくの免疫活性化も効果を失う。

     赤外線は頭蓋骨を通して脳に直接作用することがわかっている。そこで赤色発光ダイオードで頭蓋骨を透過して前頭部の視神経を直接刺激、免疫を活性化させる実験が行われた。それによると1日1回15分間の照射を8日間続けたところ、NK細胞の数は1.5倍に増加したという。

     赤外線をパルス状にして発信することでより効果が高まることがわかり、現在、α波パルス光同調免疫療法として実用化に向けた研究が進んでいるのだ。

    ※1 『赤色発光ダイオード光の前頭部への照射が末梢血中のナチュラルキラー細胞に与える効果』(照明学会誌 2000年 84巻 11号 p.851-853)

    超音波で血流を良くする

     医療用の超音波発生装置は、いわゆるエコーと呼ばれ、病巣を視覚化したり、胎児の状態をチェックすると言った診断装置として使われてきた。また超音波を集束させて結石などを破壊したり、ガン腫瘍を超音波で粉砕するといったことも行われている。

     超音波の周波数を調整すれば、血管だけを振動させることができる。血管が振動すれば、血管の内壁にへばりついているコレステロールを分解して流すことができ、血管のポンプ機能も回復して血液が末梢血管のすみずみまで流れるようになる。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     アルツハイマー病のような脳の疾患では、末梢血管の血液量が少なく、それが脳内伝達物質をスムースに輸送できず、酸欠から細胞の劣化を早めるといったことを引き起こしている。脳の血流を改善すれば、アルツハイマーの症状も軽減する。

     ヘッドセット型の超音波治療器で脳を刺激、血流量をMRIで測定したころ、血流量は刺激前に比べて116パーセントとなった。(※2)

     血流量を増やすことで細胞の増殖を促したり、ナチュラルキラー細胞を活性化させることができ、ガン患者の患部の痛みを軽くしたり、腫瘍を縮小させる効果もあるという。(※3)

    ※2 「健常成人における経頭蓋微弱超音波刺激による脳血流の変化」(日本補完代替医療学会誌 2015年 12巻 2号 p.73-78)
    ※3 「Ultrasounds in cancer therapy: A summary of their use and unexplored potential」(Oncol Rev. 2022 Feb 22; 16(1): 531)

    電磁波とプラズマにも期待!

     ヘルストロンという機器が「高血圧や糖尿病が治る」と謳い、消費者庁の指導を受けた。厚生労働省ではヘルストロンのような電磁波治療器は、「頭痛、肩こり、不眠症及び慢性便秘の緩解」の効果は認めているが、それ以外は誇大広告となる。

     高周波の電磁波を使った治療器でガンが治るという話は、詐欺として一笑にされがちで、ヘルストロンのような例があると詐欺と思われても仕方のないことだとは思う。しかし、治療効果があるかもしれないと考えた大学やがんセンターが研究を続けている新技術でもあるのだ。

     それは腫瘍治療電場療法(TTF)と呼ばれ、現在はイスラエルのノボキュア社が開発したオプチューンという製品が使われている。オプチューンは発生する電場でガン細胞の増殖のみを抑制、抗がん剤と併用することで患者の生存率を上げる。

     現在は脳腫瘍の一部でのみ臨床が認められているが、原理的には体のどの部位のガンにも作用するという。ヘルストロンではガンは治らないが、電場でガンを治せる可能性があるのだ。

    ノボキュア社の腫瘍治療器『NovoTTF-100A』。すでに日本の大学病院などで実用化されている。

     もうひとつ、注目されているのがプラズマだ。ムー読者には地震兵器でおなじみのプラズマだが、ガン治療からニキビ治療まで幅広く実用化しつつある。

     液体中でプラズマを発生させると、大量の活性酸素ができる。これを飲むといわば抗がん剤を飲むような効果がある(抗がん剤も活性酸素でガン細胞を死滅させるのだ)。プラズマ活性培養液と呼ばれ、飲む安価な抗がん剤として今後が期待されている。(※4)

     がん細胞自体を破壊する研究もおこなわれているが、体内で行うにはまだハードルが高い。

     プラズマは皮膚の真皮を直接刺激して細胞を破壊、自然治癒の過程でニキビのあばたを消したり、小じわを消すこともできる。同様の仕組みで脂肪細胞だけを破壊、美容整形にも使える。

     いずれ薬を飲む医療が、今の鍼灸のように効くけど古い技術になるかもしれない。本来の人間の力を取り戻し、病気を治す新しい医療に期待したい。

    ※4 「低温プラズマの生物作用と医療への展開」(Toyama Medical Journal 2023年 33巻 1号 p.1-6)

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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