古代エジプトの神殿に記された未知の星座「太陽神の雁」の謎/遠野そら
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シュレディンガーの猫──。
量子物理学の草分け的存在、エルヴィン・シュレディンガーが提起した思考実験のひとつである。
量子力学にあまり詳しくなくても、この話ならどこかで聞いたことがあるという人は少なくないだろう。
まずネコを箱のなかに閉じこめる。
一定の時間が経過すると、箱のなかには50パーセントの確率で毒ガスが吹きだす。
では、箱の蓋を開ける前にネコが生きているか死んでいるかを確認するには、どうすればいいのだろうか。
量子力学で起きる「重ね合わせ」(詳細は後述する)を、現実世界に置き換えて説明しようとしたのがこの実験である。しかし、青酸ガスでネコを殺すという強烈なイメージが先走りし、本来の「ネコは生きていると同時に死んでもいる」という、量子論の「重ね合わせ」のたとえ話としてうまく機能しているとはいい難い。
もちろんシュレディンガーは、量子力学の礎を築いた偉大な物理学者である。彼の名が冠された「シュレディンガー方程式」は、いまもなお現代物理学におけるもっとも重要な数式のひとつだ。
そんなシュレディンガーが、実は『生命とは何か』というタイトルの書物を出版していることはあまり知られていない。シュレディンガーは、遺伝子が自らの複製を精密に作りあげるプロセスに、量子力学的な作用が働いている可能性がある、と考えたのだ。
だが、彼の主張は、同時代の生物学者はもちろん、物理学者からもほぼ無視された。なにしろワトソンとクリックによるDNAの二重らせんの発見以前の話である。当時はまだ「分子生物学」さえ生まれていない。それよりもミクロな量子による生命の解析など、理解されるはずもなかった。
だが、時は流れる。
80年近くの歳月を経て、シュレディンガーが夢想した量子力学による生命の探究は、いま「量子生物学」として大きく花開こうとしている。
たとえば最近、渡り鳥の持つ特殊な能力の解明に「量子生物学」が大きく寄与したことで話題となった。
渡り鳥が地球の磁力線を利用して飛行ルートを定めていることは、これまでも予測されていた。しかし、地磁気は普通の磁石の100分の1以下の磁力しかない。生物学的な器官でこれを正確に計量することは、ほぼ不可能なのである。では、渡り鳥はどうやって磁力線を感知していたのか?
なんと彼らは「量子もつれ」を利用して、地磁気の流れを「視ていた」のである。
渡り鳥の網膜細胞には、クリプトクロムというタンパク質がある。このクリプトクロムは青い光に反応して電子を1個放出する。網膜細胞の電子と放出された電子は「量子もつれ」の関係となる。放出された電子が磁力に反応することによって、網膜細胞に情報が伝えられ、渡り鳥は地磁気の流れを「視る」ことができるのである。
こうして生命活動の謎が量子力学によって解明されたとして、大きな話題となった。
その後、植物の光合成の仕組みや生物のDNAが複製を作るプロセスにおいても、量子力学に特有の「量子効果」が関与していることなどが次々と明らかにされていく。
シュレディンガーは正しかった。生命の謎は、量子力学で解明できる。
いや、そればかりではない。
生命の一歩先──。
つまり死後の世界、すなわち霊界の存在さえも、量子学的なアプローチで解明できるかもしれない。われわれの魂が死後に向かう場所についても、量子力学が重要なヒントを与えてくれるのだ。
もしシュレディンガーが現在の「量子生物学」の成果を知ったなら、「シュレディンガーの猫」の話を書き換えたいと思うかもしれない。
箱の蓋を開けたそのとき──。
ネコは生きているか死んでいるか。あるいは「転生している」か、だ。シュレティンガーは、きっとそう主張するだろう。
(文=中野雄司)
続きは本誌(電子版)で。
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