「天眼」が導く大衆救済は降霊術で始まった! ベトナム「カオダイ教」の世界/新妻東一
フランス占領下で生まれ、社会主義政権下でも活動が認められているベトナムの大衆宗教・カオダイ教。その始まりは降霊術だった。
記事を読む
お正月に準備した豆腐にまつわる怪談です。舞台は高知県。 ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!
香美郡槙山村(現・香美市)土居、ここにあった八幡宮の境内は一宇(いちゅう)小三郎の居城であったと伝えられています。
それが起きたのは、12月の某日。
小三郎は正月用の豆腐作りを家来に命じ、城下を歩いておりました。
すると、ひとりの男が米を背負って歩いているのを見かけ、その後をつけていきます。
そしてなんと、下大川岸で男を斬り殺し、彼の持っていた米を盗ってしまいました。
城に帰ってくると、なにやら家来の者たちが震え慄いております。
「殿、正月用の豆腐が……」
なに、豆腐が?
製造を命じていた豆腐を見ますと、これはどういうことでしょう。
白いはずの豆腐が、真っ赤に染まっている。
この豆腐、小三郎が男を斬り殺したのと、ちょうど同じ時刻に赤々と染まったとのこと。
以来、この城では正月用の豆腐を作ることを止め、村の家々から1丁ずつ豆腐を持参させるのが恒例になったといいます。
小三郎は後に、3兄弟の長男、別役領主・岡本彦九郎に城を攻め込まれ、斬首されたといいます。
土佐の奇談集に「血染の豆腐」と題されて載った怪談です。
高知城下、西唐人町にある豆腐屋の妻は、勤勉で評判もよい人でした。
しかし、嘉永2年の夏――彼女は6歳と4歳の子を残し、病で死んでしまいます。
幼いふたりの子を養いながら働くのは、ひとりでは大変なことだろう。そう考えた主人は、妻の四十九日を済ませると後妻をもらうのですが……この後妻が、とんでもない女でした。
朝から晩まで、まだ幼いふたりの子を虐め抜くのです。
豆腐の煮え立つ熱湯を足にかけ、焼け火箸を押し付け――子供たちは生傷が絶えません。
主人が叱ると後妻は食ってかかり、子供たちへのいじめはますますひどくなる。
どうにもできず、主人は泣きながら我慢をするほかありませんでした。
そんな暮らしが半年ほど続いて、あるころから村にこんな噂が囁かれだします。
――豆腐屋の前妻の亡霊を見た、と。
毎晩、要法寺山から現れ、天神橋を渡り、豆腐屋の前まで来ると消えるのだそうです。
また、亡霊は豆腐屋の前でしくしくと泣くともいわれておりました。
当時、藩中の若侍が組織していた「盛ん組」。
ここも、この幽霊の噂でもちきりでした。
――豆腐屋の幽霊は毎晩出るらしい。
――天神橋を渡って帰るのを見たものがいるとか。
――ああ、城下一帯の噂になっているぞ。
――今どき、幽霊なんて、だれかの悪戯だろ。
――いや、そんなことはない。自分も昨晩、橋の上で見たのだ。
すると、年長の侍が、こんな提案を。
「ならば、これから要法寺へと赴き、噂の真偽を確かめてみてはどうか」
こうして、要法寺へと赴いた若侍たち。さてさて、噂の幽霊は出るのか出ないのか。
到着するや、寺の縁側に腰を掛け、現れるのをじっと待ちました。
しかし、夜中になっても、幽霊どころか怪しい影のひとつも出る気配はなく。やはり、幽霊などというものは、この世にいないのでしょうか……。
さて、草木も眠り、魑魅魍魎が踊りだす、丑三つ時。
「おれの勝ちだ……出たぞ」
豆腐屋の幽霊を見たといっていたひとりの若侍が、縁の下を指します。
皆に向けて、ここに手を出してみよというのです。
実は……このとき、彼は冷たい手で足をぐうっと掴まれていました。ここに見えない手があるぞと、伝えようとしていたのです。
縁の下に手を伸ばすほかの若侍たち、途端、「うわあっ」、ひとりが大声をあげて逃げ出します。それに続いて、他の者たちも大慌てで逃げ出してしまいました。
ひとり残った若侍、冷たい手に脚を掴まれながら、逃げ出した臆病な仲間らを笑います。
そして、縁の下から幽霊を引きずり出しました。
それは、病み衰えた女性の姿をしておりました。
豆腐屋の前妻の幽霊か、と訊ねると、女の亡霊は「ハイ」と答え、こう続けます。
「後妻に虐められるふたりの子が哀れでなりません。このまま放っておけば、いつかはいじめ殺されてしまいます。ですから、にっくき後妻をとり殺すべく、毎晩、丑三つ時に墓から出ては橋を渡り、豆腐屋へ参っているのですが、門口に天満宮の御札が貼ってあるので、中には入れず、泣いて帰る日々。このままでは、成仏もできません」
「それは気の毒だ、ヨシ、自分がその札を剥いでやるから、存分に恨みを晴らして成仏するがよい」
この勇気ある若侍、豆腐屋の幽霊とともに大橋を渡り、豆腐屋へと行きました。
そこでお札を引き剥がすや否や、幽霊は家の中にスーッと入っていき、それとほぼ同時に後妻の叫び声が聞こえてまいりました。
豆腐屋の屋内が騒がしくなると、家から幽霊が出てきて、やるべきことをやったので成仏しますと、若侍の目の前で消えてしまいました。
この翌朝、豆腐屋の後妻が死にました。
上半身は熱湯による火傷、下半身は火による火傷を負って――。
そうです。
後妻が子供たちに加えた虐待と、同じ痛みを受けて死んだのです。
参考文献
小島徳治『土佐奇談実話集』
香美市ウェブサイト「市民の広場」
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
関連記事
「天眼」が導く大衆救済は降霊術で始まった! ベトナム「カオダイ教」の世界/新妻東一
フランス占領下で生まれ、社会主義政権下でも活動が認められているベトナムの大衆宗教・カオダイ教。その始まりは降霊術だった。
記事を読む
生きては出られぬ家を作る「七つのカフカ」という方法/黒史郎・妖怪補遺々々
ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第64回は、新年のめでたさからかけ離れた、だれでも作ることがで
記事を読む
怪談現場にタクシーで行く! 三和交通・心霊スポット巡礼ツアーでアイドルに付きまとった謎の顔
真夜中、心霊スポットに向かって走るタクシー。乗っているのは、人間だけ……? 令和の夏の風物詩「三和交通心霊スポット巡礼ツアー」にアイドルが参戦。心霊スポットを体当たり取材する。
記事を読む
怪異は4時44分に現れる! 四時ババアと四次元ババアは4階に出る?/学校の怪談
放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けて
記事を読む
おすすめ記事