眩しく光る山中の怪人「赤頭」は神か妖怪か、宇宙人か? 高知県の怪異伝承を考察

文=寺田真理子

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    高知県の山中に出現した「赤い顔」の怪異。その正体は妖怪か怪物か、または宇宙からの……?

    高知県いの町に伝わる山の怪異「赤頭」

     四国の山中には数多くの怪異伝承が残っており、いまだ正体のわからないものが少なくない。
     高知県吾川郡(あがわぐん)いの町南部、勝賀瀬(しょうがせ)地区に伝わる「赤頭」もそのひとつだ。

     江戸中期の儒学者植木挙因が1746 年に記した『土陽淵岳誌(どようえんがくし)』には、次のような記述がある。

    勝賀瀬ノ赤頭
    吾川郡勝賀瀬ニ赤頭ト云者アリ 山中ニテタマタマミル人アリ 何ノ害ヲスル事ナシ 頭髪赤キ事朝日影ヲ明鏡ノ中ニウツスカ如シ 目差(マバユク)シテ二目トミルベカラズ 人ノ如ク立テ歩行スレトモ足ハ篠原或ハ萱中ニ入テ見ヘストナリ

    (植木挙因『土陽淵岳誌』より引用)

    「土陽淵岳誌」 国書データベースより https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100277830/2?ln=ja

     吾川郡の勝賀瀬に赤頭というものがいて、山中でたまたま遭遇した人がいた。何も害を与えてこなかったが、赤い頭部は朝日が鏡に映り込んだかのように眩しく、ふた目と見ることができなかった。人のように立って歩いていたが、足は篠(竹の一種)もしくは萱(チガヤ・ススキ)の茂みに隠れていたためか見えなかったーーという記述だ。現れて何か悪さをしたわけではないらしい。

     こういった伝承に登場する怪異がどういった形状・姿形をしていたのかについては想像の域を出ない場合が多いが、平成13 年に高知県内で発見された江戸後期末〜明治時代(推測)の文書『土佐化物絵本』にはこの「赤頭」の姿が描かれ、文章が添えられていた。

    『土佐化物絵本』の「赤頭(あかがしら)」。高知県立文学館所蔵 (画像=Wikipedia)

     平成15 年に高知県立歴史民俗資料館で開催された企画展『あの世・妖怪・陰陽師』 異界万華鏡・高知編 の展示解説資料集には、この文章の翻刻がある。

    「土佐国の三代妖魔 勝賀瀬の赤頭。ある者がふと出くわし、朝日に向かったようにふたたび見ることができなくなった。戻ってから眼病にかかり、一時は盲目になりかけたが、市原何某にかかり、ようやくなおった。」(平成15 年 高知県立歴史民俗資料館 企画展『あの世・妖怪・陰陽師』 異界万華鏡・高知編 展示解説資料集より引用)

     こちらの記述では、目が眩み眼病にかかり、失明しかけるほどの強い光だったとある。おそらく自然のものではないだろう。遭遇者がなんとか回復できたことが不幸中の幸いである。

    赤頭伝承が伝わる高知県いの町勝賀瀬(しょうがせ)の森。浮遊する不思議な光が写り込むことが多いという。

    「赤頭」の正体とは

     山で出くわす顔が赤いものといえばまずニホンザルを連想する。遠目でも目立つ赤い顔を「眩しく光る」ほど印象的に思ったのだろうか。高知県にも野生のサルは分布する。しかし眼病を患うほどの凶事とサルを紐づけるイメージはいまいちピンとこない。
     霊威ある怪異として考えれば、天狗のほうがイメージに合う。土佐の天狗では「シバテン(芝天狗)」という伝承がある。昭和23 年に発行された『土佐民俗記』によると、それは小さな子どものような姿をしていて、遭遇してしまうと相撲を挑んでくるという。相手になると化かされて一晩中相撲を取る羽目になるという特性は、土佐の川に現れるエンコウ(猿猴)の化かし方とも同じだそうだ。

    『絵本集艸』での「エンコウ(猿猴)」高知県立文学館所蔵 画像=Wikipedia

    『土佐民俗記』には、土佐のいたるところで語られるという「ヒダマ(火玉)とケチビ(怪火)」についての記載もある。「ヒダマ」は「ヒトダマ(人魂)」ともいい、ぼーっと一塊になって長く尾を引いて飛ぶもの。ケチビ(怪火)は野原いっぱいにチラチラと灯り大きくひとつになって消えたりするもので、当時地元の人は狸が化かした「狸の火」だと思ったという。

    「赤い頭部が激しく発光し立って歩く何者か」という「赤頭」は、それら怪光に人格的な要素(や姿)を付与したものだろうか。太陽そのもの、またはサルタヒコなどの神格も想像できる。

     筆者が調べた中で「赤頭」とよく似ていると思ったのが、「赤ぼうれ」だ。赤い顔の山の怪異として市原麟一郎編『土佐の民話』に記されている。それによると、いの町と隣接する土佐市の山中で竹藪から身長3 メートルはあろうかという真っ赤な大入道「赤ぼうれ」が現れたというのだ。
     現れて何をしたでもなく、ただ、出現した。「赤頭」と同種の静かな怪しさである。

    3メートルの赤い顔といえば…

     推測ではあるが、筆者の脳裏に浮かんだものがある。
     身長は3メートルほどで、眩しく光る赤い頭部、足元は藪の緑に覆われている……「赤頭」や「赤ぼうれ」の姿はまるで「フラットウッズ・モンスター」を彷彿とさせるではないか。

     フラットウッズ・モンスターとは1952 年にアメリカ東部ウエストバージニア州の田舎町フラットウッズでUFO とともに目撃された、異星人もしくはUMA とされる謎の存在であり、「3 メートルの宇宙人」として日本でも1970 年代にも話題となった。

     赤頭の「眩く光る赤い頭部」は言うまでもないが、竹かススキの茂みに隠れていたためわからなかったという足は、フラットウッズ・モンスターの特徴のひとつ「緑色のひだ状の衣服のようなもの」と表現されてもおかしくはない。
     高知県ではかねてよりUFO 遭遇・撮影事例も多発しており、地元新聞には1947 年頃からUFO 目撃事件に関する記事が掲載されている。1972 年の介良事件やUFO ライン周辺でのUFO 目撃・撮影事例なども記憶に新しい。

     江戸から明治にかけての記録に残る怪異「赤頭」と、アメリカのフラットウッズ・モンスター事件には時代も場所も違いはある。さすがに「同じものの出現」ではないだろうが……。

     数ある怪異・妖怪の類いにしても、「赤頭」は「宇宙人・異星人かもしれない」と思わせるに足る、奇妙な伝承に間違いない。

     ちなみに、「赤頭」伝承が伝わるいの町のとある飲食店には、カーター元アメリカ大統領の直筆メッセージが残されている。1988 年夏、この地にお忍びで来られようとしたが、弟ビリー・カーターの急な体調不良で来られなくなった際に寄せられたお詫びのメッセージだという。(同年9 月25 日にビリーはこの世を去っている)

     カーター氏は大統領就任以前に地元ジョージア州でUFO を目撃した経験があり、UFO に関するアメリカ政府の機密情報を一般公開すると宣言し大統領となったが叶わなかった。退任後、この地を訪れようとした目的は何だったのだろうか。勝賀瀬で語り継がれる「赤頭」の正体は、UFO とともに飛来した地球外の何者かであったのかも知れない。

    カーター元大統領のメッセージが残るこの飲食店の付近では、「山を越えていく銀色の光を見た」という証言も得ている。

    <取材協力>
    高知県立文学館 https://www.kochi bungaku.com/
    高知県立歴史民俗資料館 https://www.kochi bunkazaidan.or.jp/~rekimin/

    寺田真理子

    ライター、デザイナー、動植物と自然を愛するオカルト・ミステリー研究家。日々キョロキョロと、主に四国の謎を追う。

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